14.潜入前日
「セフィスはすごいね」
たったあれだけの情報でそこまで推察できるのかと感嘆してしまう。そして、長年の自分の目に関する謎がアッサリと解けた。
「いえ、すごいのはアーシャさんですよ。その目のお陰で、もしかしたら僕達は研究室に忍び込めるかもしれない」
「魔力による何か……罠みたいなのがあるってこと?」
「僕はそう考えています」
以前セフィスが潜入を試みた計画は、彼の中では完璧だったそうだ。研究員達一人一人の行動パターンと、巡回兵のルートを全て頭に叩き込み綿密に練っていたらしい。それなのに何故か見つかってしまった。しかも、当日は絶対に会わないはずの人物に見つかってしまったのだとか。
「誰もいない時間も警備できるようになんらかの魔法的仕掛けをしていると思います」
「それが、私の目なら見えるかもしれない、と」
「はい。それに、今は当時よりも研究への熱がないみたいなんです。人員は減っているし、研究員のやる気もほとんどありません。前は毎日だった僕への聴取もここのところは数週間に一度、きまぐれにって感じなので」
「めちゃくちゃ油断してそう」
「アーシャさんは魔力が見える上に、気配にも敏感そうだなって。僕も、戦いはからきしですけれど、人の気配には敏感な方なので」
「じゃあ、とりあえず潜入してみよっか。今も研究員達の同行はわかっているの?」
「はい。警備兵の巡回ルートもきちんと頭に入っています」
やはりセフィスはかなり頭が良いようだ。機会を逃さないだけの胆力もある。
(弱そうなガリヒョロって見た目で判断してたけど、セフィスって強い。強いっていうか、しなやか? したたか? うーん、言葉が見つからないけれど、とにかく、弱くなんかないわ)
最初は草原に行ったらすぐ死んでしまいそうと思っていたけれど、彼なら知恵を絞って生き抜く気がする。自分とは違う強さを持っているのだ、と改めて感心した。
「じゃあ作戦をたてよう。やっぱり夜のうちに忍び込む感じ?」
奇襲と言えば寝静まった夜というのが草原の相場である。覇権争いの時は夜の見張りが一番緊張するものだ。
だが、セフィスは首を横に振った。
「実は夜は一番警戒されてるんです。警備兵も多いですし、何より資料を読み込むには適していません」
「あ、そっか。暗いものね」
今回の目的は戦いではなく、情報の奪取だ。そのために、誰にも気取られることなく侵入し、情報を分析する時間が必要になる。
「はい。なので、僕は明け方に潜入するのがいいと思っています。アーシャさんは、朝にも強い方ですか?」
「もちろんよ! 任せて。」
基本的に遊牧民の朝は早い。動物達のお世話があるからだ。寝ぼけたままビャクのお世話なんかした日にはベロベロに舐められてしまう
「では、明日朝にやってみましょう。……すみません、アーシャさんはこの国に来たばかりで疲れているでしょうに」
セフィスが申し訳なさそうに頭を下げる。そういう気遣いが、とても嬉しい。
確かに旅の疲れがないとは言えない。でも、警戒される前に動く方がいいという判断は正しいとアーシャも思う。
だから、努めて明るく返した。
「四六時中蛮族って下に見てくる奴らと一緒にいるよりかは全然マシよ。体力的にも問題ないわ。それより決行するんだったら早めに休んだ方が良くない?」
「あ、それもそうですね」
「今からちょっとでも寝ておこうかな。私ここで休ませてもらうわ」
言うが早いか、外から死角になる位置を探して、壁にもたれかかる。
「えっ!? あ、あの……大丈夫、ですか?」
「大丈夫大丈夫。この方が誰か来ても気付けるし。実際、あの女官長さんなら律儀にご飯持ってきてくれる気がするから、ここでこうして休むのが今は一番楽なのよ。セフィスも早く自室で休んで」
言いたいことを言うと、アーシャは目を閉じた。
(……草原の空気がある、気がする。ピーインの卵だとわかったからかな)
思い込みのせいかもしれないが、アーシャはこの国に足を踏み入れて初めてリラックスできた気がした。
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