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11.祀られていたのは

「様々な観点から、やはりあなたを納屋で過ごさせるわけには参りません。人が暮らすよう作られた場所ではございませんので」


 女官長の話というのは、アーシャの住環境のことだったようだ。

 彼女の言い分は正しい。様々な観点と言うよりは対外的観点と言った方がより正確だろうが。中身は人質とはいえ、嫁として迎えた娘を納屋に案内したと他国が知れば、外道な行いだと嬉々として批判するに違いない。


「蛮族の私にピッタリって案内してくれたんだから、その好意を無下にはできないわ。助けてくれたのはありがたいけれど、そこは譲れない。私さっきも言ったよね? その兵士さんがもし間違っていたのなら、本人の口から聞きたいって。連れてきてるワケ?」


 とはいえ、言い分を理解できるのと受け入れるのは全くの別問題だ。引くわけにはいかないアーシャの口調は、ここで完全に素に戻った。


「彼はすでに処罰を受けて謹慎中です」


「その言葉を「はい、そうですか」って信じられるほど、この国を信用できないわ。彼が罰を受けたってどうやって私がわかるの? 口だけかもしれないじゃない」


「あなたの気が収まらないのはわかります。しかし、納屋へ帰すわけには参りません。相応の部屋でなければ国の面目にも関りますので」


 一方の女官長も、アーシャの「口から先に生まれたような」口撃を受けても全く動じず、冷静に返してくる。

 堂々巡りである。なんとしても部屋に閉じ込めたいという意思の表れにも見えてしまうではないか。

 ちょっとうんざりしてきたところで、オロオロしているセフィスが目に入る。そこで、アーシャによい考えが浮かんだ。


「あ、じゃあ彼が住んでる祠に厄介になるわ」


「えっ? ええぇっ!?」


 いきなり話を振られたセフィスが驚きの声を上げた。

 正直巻き込んでごめんね、とは思う。でもここは引けないのだ。名目だけでいいから貸してほしい。いや、間借りもできるのならばしたいけど。


「だって、納屋はダメなんでしょ? でも、王子様の住んでる場所なら普通は天井もあって壁もあるわけじゃん。……あるんだよね?」


「それはまあ……はい、屋根と壁はありますけれど……」


 セフィスの答えは歯切れが悪い。女官長もかなり困惑している様子が見てとれた。まさに今が勝機。一気に畳み掛けてうやむやのまま終わらせてしまおう。


「あ、あとほら。そいつみたいな兵士っていっぱいいるんでしょ? 私ボディガードになるわよ。私の武術ってこの国でもそれなりに通用するみたいだし。何より名目上王様の嫁なんだから、相手も少しは考えるんじゃない?」


 言っていて、自分でもしらじらしいと思う。

 けれど、女官長は立場上「二人揃ったら格好の的じゃないか」とは言いづらいはずだ。


「それはその……しかし、あなたと王子が同じ部屋というのは……」


 案の定、面と向かってボディガードの方面では反対できないようだ。彼女自身、セフィスの境遇には思うところがあったのかもしれない。


「大丈夫大丈夫。そもそも義理の母と息子ってことでしょ。そこで勘ぐるような人って相当アレな考えじゃない。ほら、浮気者だとか言ってくる人自身が浮気してるとか、蛮族蛮族って罵ってくる輩の方が野蛮とかあるじゃない」


「あ……」


 アーシャの言葉にちょっと納得したようにセフィスが兵士の方を見る。その視線を受けて、兵士は睨みつけてくるけれど、女官長の手前何も言うことはなかった。


「よし、じゃあ決まりね。納屋がダメって言うから、そっちに譲歩してあげる。それでもダメだって言うなら、やっぱりその罰を受けた兵士とやらを連れてきて説明を彼にさせてちょうだい。ちゃんと責任を果たしてもらわないと! はい。じゃあそういうことで解散!」


 一方的に捲し立てて、アーシャは解散を宣言する。と、同時にセフィスの手をとって歩き出した。

 方向は適当だ。間違っていればきっとセフィスが訂正してくれると信じて。


「解散してよかったんでしょうか?」


 意外にも女官長や兵はこちらを追いかけてくることはなかった。彼女らに声が届かなくなった頃ポツリとセフィスが呟く。


「とりあえず逃げ切れればオッケーかな。とりあえず、予定変更。セフィスの住んでる祠とやらに案内してくれる?」


「わかりました。……アーシャさんは本当に強いですね」


 諦めの苦笑にも、感嘆にもとれる表情をしつつ、それでもセフィスは少し楽しげに道案内をしてくれた。


「えーと、ここです」


 暫く歩いた後にセフィスがそう言って示したのは、かろうじて屋根と壁があるといえる建物だった。建物というか、土でできた小さなドーム、と言った方がいいかもしれない。恐らく魔法で無理矢理土の壁と丸屋根を作ったのだろう。

 これで祀っていると言っていいのだろうか、という疑問は湧いてしまった。


「……確かに、屋根と壁があるわね。扉はないけど。これ、祠って言っていいのかな?」


「一応、祠なんだそうです。あ、管理人用の小屋には扉もありますよ」


 土のドームもどき、もとい、祠の隣には、小さな木造の小屋があった。見るからに一人用の狭さのそこは、屋根も壁も扉も一応ある。確かにあの壊れかけた納屋よりはマシ、と言える。


「んじゃ、私は祠に住まわせてもらおうかな。まずはその岩にご挨拶した方がいいよね」


 失礼します、と一声かけてから祠へと入っていく。明かりとりのために一部に穴を開けているらしく、内部は真っ暗というわけではなかった。


「わぁ……」


 内部には、とても大きな岩があった。「祀られている」という表現は一応正しいのだろう。外観にそぐわない立派な台座に、何やら縄のようなものが装飾されている。どことなく、この国とは違う意匠なのではないかと思わせるものの、なかなか興味深かった。

 だが思わず声を上げてしまった原因はそこではない。


(何これ? なんか脈打ってる、みたいな)


 アーシャの目には、この岩がドクンドクンと脈打っているように感じられた。

 そして何よりも一番目についたのは、セフィスの首から繋がれている真っ黒な糸が、この岩に結びつけられていることだった。


(脈動に合わせて吸いとられてる……うん、絶対そうだ。でも、糸はバカみたいに禍々しいのに、岩そのものは清浄っていうか……どうなってるの?)


 よくわからない、大きな岩。

 何よりもこれからアーシャはこの岩とともに過ごすことになる。自分で言い出したこととはいえ、若干の薄気味悪さを感じてしまう。

 と、そこで——。


「え……!?」


「アーシャさん!?」


 薄暗い祠の中がいきなりパァッと明るくなったのだった。


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