神様の隠し娘
神様はただ只管待っていた。自分の死に方を死に際を……!アルコールに頼る日に出会った天使から最後のアイデアを貰う。
天使との出逢い
その初老の神様はアルコール中毒で更生院から出てきたばかりであった。
自分の記憶も薄れ欲望の残りに生きるだけの生活が神様に与えられていた。
取り残された倉庫街では暴走族が火種を探し何処からか盗んで来たバイクを燃やしている。
煤煙が爆発音の後に上がりサイレンが轟く。
この街の物騒な雰囲気が神様には故郷であった。
バンパーの凹んだキャデラックが神様の横を疾走する。
6人の小人と思われる賊が港のブリッチを目指す。
トラックが猛スピードで排煙を撒く国道を神様は歩き続けた。
ガソリンスタンドの裏にあるライブハウスではコンボバンドが演奏していた。
かってバンドマンとして数々のライブハウスを回った経験が神様にはあった。
擦り減った靴が神様の行き場所を覚えていたのが。
………神様暫く来ないからまた病院かなって心配していたよ。
演奏を終えた白髪の仏様がカウンターにいる神様に会釈した。
後から来たバンドのメンバー達も神様を囲み安心した様な顔を向ける。
神様はみんなが親切にしてくれる訳が分からなくなって来た。
酒と薬で浸った日々が脳を侵食していたからだ。
ガソリンスタンドの周りに先程のキャデラックが爆音を立てて到着する。
バンドメンバーはそのうちの天使に向い唾を吐く。
…あいつこんどはメッシュとつるんでいるぜ?!
天使はメッシュと呼ばれたグループに礼を言うと一人で店に入ってくる。
神様は若い天使が自分の隣に腰を降ろすとは思わなかった。
こんなくたばりそうな神様にたかるなら筋違いだと思っていたからだ。
天使は何を考えて神様の横に来たのか。
誂うでもなく真剣な目を神様に向けた。
化粧はしていないが少し精悍な瞳には野生児の力強さが秘められていた。
……おじさん遊びない?!
清楚だが売女だとわかる眼をした天使が腰を寄せてきた。
何処が気に入ったのか?遊ぶ相手なら他に幾らでももっと若い者がいるのに?
天使は神様が気に入ってしまったようだ。
店のジュークボックスから神様の 歌が流れる。
神様は社会派シンガーとして一世を風靡した日々さえ忘れていた。
ステージではモラルを説き楽屋ではファンと悦しんだ。
神様の現在は、自らが描いた歌とのギャップの延長線でもある。
赤い髪の先でグラスを撫でる天使は時たま指で空中に文字を書く。
その仕草が妙に愛しく胸を揺すった。
髭面の老耄じゃ最早恋も寄って来ないと神様は思った。
天使は肘をカウンターに乗せてハミングしていた。
神様は天使の声質に自分の若い頃の情熱を重ねた。
良い声をしているのに勿体無い。遊び呆けるしか能がないとは?!
…年齢は幾つだ?
17歳?!
トイレに立った天使に店の者が告げた。
…あの天使に関わらないほうが良いよ!
アレはエイズだ!
誰とでもヤラせるから自業自得さ!
あの娘と、遊ぶ奴は命知らずさ!
神様は老い先のない人生死ぬ事の恐怖は無かった。
バンドが引き上げ店内は静まり返りマスターが床を掃除する光景だけ視える。
隣りでは天使がカウンターに顔を埋めて眠っていた。
神様が揺り起こすと天使はポケットからアシッドを出して噛み砕く。
天使と同居するきっかけを得てから16日目の事である。
夜明けにいつもよりすっきりしたエナジーの躍動に目覚めると、天使が工具箱から鋸を取り出していた。
壊れそうな処は切って直さないとね!
天使は気の利く所がある。
神様のボロ家を修繕しようとするのかと神様は思い違いをした。
神様は清涼な空気の波動を吸い込み若さが甦るのを知った。
天使の漏らす呟きに気付かなければ、神様は幸福のまま寿命を終えれただろう。
……こいつがあたしを造ったのか!
神様は首を持ち上げ耳を疑った。
……こんな物が有るからあたしみたいのが産まれたんだね?!
万華鏡って好きかい?
色々な世界を男達に見せる。
神様は天使との人生に残り少ない希望を抱いた。
その瞬間……神様の下腹部に鋸の刃が接近して来た。
……おいおい危ない真似は止せ!
天使は立ち尽くすと笑った。
…此れが無ければあんたは天国に行く切符を無くすんだよ!
天国に行く切符は片道切符さ!
あたしは地獄が好きなんだ!
神様は冗談にしては真剣な天使の眼に観念した。
俺がこの世で見る最後の景色はこれだったのか!
萬華??!鏡!
其れは神様が娘に命名した名であった。
天使は鋸の刃先をあてると一気に引き込んだ。
血だらけのモノを切断した天使は泣き声とともにマンションの屋上に駆け上がった。
手摺に足をかけて飛び降りる瞬間、鳥が羽撃く夜明けの空は澄んだ様な青であった。
………Fin
神様のpenisは千人斬りをした。
1001人で神様は亡くしてしまった。
大切なモノを………!
社会派シンガーとして一世を風靡した神様と呼ばれたミュージシャン。社会の窓をあけ過ごしたその過去は欺瞞の日々であった。
ハメ撮りの達人、神様に過去を清算する時が来た。