12歳の侯爵令息からプロポーズされたので、諦めさせるために到底達成できない条件を3つも出したら、6年後全部達成してきた!?
「ハァ、相変わらず色気ねぇ体型してんな、お前」
「……!」
王家主催の夜会の入り口で会うなり開口一番、婚約者であるダリル様から呆れ顔でそう言われた。
自分が貧相な体つきをしている自覚はあるので、ズグンと胸が重くなる。
「も、申し訳ございません」
「ケッ、謝られたところでなぁ。まあいいや、行くぞ」
「はい……」
ダリル様の後に続いて、会場に入る。
ここからまた暫く憂鬱な時間が続くのかと思うと、まるで水の中にいるみたいに、息が苦しくなった。
「じゃ、俺は仲間に挨拶してくるから、お前は適当にその辺に座っとけ」
「……はい」
鼻歌交じりに、いつもの仲の良い令息令嬢グループに合流していくダリル様。
既にみんなお酒が入っているのか、貴族とは思えないギャハハという下品な笑い声が響いている。
私がこの夜会に参加したての頃は、私もダリル様の婚約者ということで、無理矢理あのグループに同席させられていたのだけれど、どうしても私はあのノリについていけなかったので、お互い気まずくなり、最近は夜会では別行動するようになった。
一人で放り出されるのが不安でないと言ったら嘘になるが、それでもあの連中と絡む苦痛に比べたらまだマシ。
とはいえ暇ねぇ。
どうやって暇を潰そうかしら。
「……?」
その時だった。
会場の隅で、一人で椅子に座って俯いている少年が目に入った。
はて、あまり見かけない子ね。
歳は12歳前後といったところ。
ウェーブがかかった金髪に、エメラルドに輝く瞳をした、人形のように美しい少年だった。
何となく少年のことが気にかかった私は、そっと歩み寄る。
「ボク、お父さんとお母さんは一緒ではないの?」
「……え?」
まさか誰かから話し掛けられるとは思っていなかったのか、少年は大きな瞳を更に見開いて私を見上げる。
近くで見ると、まるで天使みたいだ。
「ああ、父上と母上は国王陛下に挨拶があるからって、ここで待ってるように言われたんだ」
「あ、そ、そうですか」
えっ、国王陛下に直接挨拶できるって、ご両親は余程の大物なのでは?
「失礼ですが、あなた様のお名前は?」
「……ジョン・エルズバーグ」
「……!!」
まあ、このお方が!?
国内でも筆頭の侯爵家である、エルズバーグ家の嫡男……!
確かお歳は12歳くらいだったはず。
私みたいな没落寸前の弱小伯爵家の娘とは、天と地ほどの身分差がある……!
「こ、これはとんだご無礼を! わたくしはウィールライト伯爵家の長女、アイリスと申します!」
咄嗟にカーテシーを取る。
「……そんなに畏まらなくていいよ。偉いのはあくまで父上で、僕じゃないんだから。ねえねえアイリス、それより僕暇なんだ。一緒に遊んでよ」
「え? ああ、はい、私なんかでよろしければ……」
エルズバーグ家の嫡男様にそう言われては、断るわけにはいかないし。
「座って座って!」
隣の席をポフポフと叩くジョン様。
「あ、はい、失礼します」
おずおずと言われた通りに座る私。
今更だけど、本当に私なんかがジョン様のお相手をしていいものなのかという不安が、肩に重くのしかかってきた。
「何して遊ぶ!?」
「う、う~ん、そうですねぇ」
とはいえ、弟妹のいない私は、このくらいの歳の子と遊んだ経験に乏しい。
こんな時、いったいどうしたら……。
――あ、そうだわ!
「ではジョン様、あやとりなんかはいかがでしょうか」
「あやとり?」
コテンと首をかしげるジョン様。
その様が何とも愛らしく、少年愛好家なら鼻血を出しているところだろう。
私は愛用のあやとり紐を取り出す。
「あやとりというのはこういう輪にした紐で、いろんな形を作る遊びです。試しに私がやってみますね」
「う、うん!」
ジョン様がエメラルドの瞳をキラッキラさせながら、私の手元を注視する。
ふふ、もし弟がいたら、こんな感じなのかしらね。
「ここをこうしてこうすると――はい、『箒』です」
「おおッ!」
紐で箒の形を作ると、ジョン様は鼻息を荒くして大興奮。
「凄い凄いッ! それ、僕もやってみたいッ! やり方教えて教えて!」
「はい、もちろん」
まさかこんなに食いつくとは。
確かジョン様は一人っ子だったはずだから、歳の近い兄弟とこういう遊びをした経験がないのね。
私は子どもの頃から一つ上の兄がよくあやとりで遊んでくれたから、寂しい思いをしたことはないけど。
「いいですか、まずは左手の親指と小指に紐を掛けるんです」
「うんうん、それでそれで!?」
こうしてジョン様との楽しい時間は、瞬く間に過ぎていった――。
「オイ、アイリス、そろそろ帰るぞ」
「あ、はい」
ダリル様に声を掛けられて咄嗟に時計を見ると、もう解散の時間だった。
いつもは時間が経つのがあんなに遅いのに、今日は本当にあっという間だった。
「アイリス、もう帰っちゃうの?」
「……!」
ジョン様が潤んだ瞳で、上目遣いを向ける。
……カハッ!?
「え、ええ、でも、来月の夜会にも私は参加しますから、もしジョン様さえよろしければ、その時にまた遊びましょう」
「ホントに! 約束だよ! 来月までに僕、あやとりもっと練習しておくから!」
「ふふ、はい、約束です」
私はジョン様と、約束の指切りをして夜会を後にした。
「何だあのガキは?」
横を歩くダリル様が、眉間に皺を寄せながら訊いてくる。
「あ、エルズバーグ侯爵家の嫡男、ジョン様です」
「なっ!? あのガキが……!? ふうん、随分懐かれてたじゃないか。まさかお前に、そんな趣味があったとはな」
「……!?」
見下すような目を私に向けるダリル様。
くっ……!
「別に、たまたまお互い暇を持て余していたので、お相手をさせていただいただけです」
暗にあなたが私を放っておいたからですよと、皮肉を込める。
「フン、どうだかな。いいか、お前はあくまで俺の婚約者なんだからな。他の男に色目を使うような真似をしたら、タダじゃおかねーからな」
「そ、そんなつもりはありません!」
「フン」
自分は他の女性たちと遊んでおいて、この言い草……。
同じ侯爵家の嫡男でも、性格も天使みたいなジョン様とここまで差があるとは。
人間って本当に不思議だわ……。
「ではここをこうして、こうすると――はい、『蛙』」
ジョン様の手に掛かっている紐を私が取って、蛙の形を作る。
「じゃあ僕はここをこうして――『ダイヤ』!」
今度はジョン様が私の紐を取ると、ダイヤの形になった。
「凄い、もうすっかり慣れましたね!」
「フフン、毎日家で練習してるからね!」
あれから数ヶ月。
すっかり夜会で会うたび二人で遊ぶのが恒例になっていた私とジョン様は、今日もあやとりで盛り上がっていた。
「オイ、アイリス、帰るぞ」
「あ、はい」
と、そこへ、ダリル様が。
ああ、もうそんな時間なのね。
楽しい時間というのは、何故こんなに早く過ぎてしまうのかしら……。
「ねえアイリス、大事な話があるんだけど」
「え?」
ジョン様が、いつになく真剣な表情で、私を見上げる。
ジョン様……?
「チッ、俺は先に行ってるからな」
「は、はい」
肩で風を切りながら、ドカドカと会場から出て行くダリル様。
な、何をあんなにイライラしているのかしら?
「えーと、ジョン様、大事なお話というのは?」
「うん、アイリスは本当に、あの男のことが好きなの?」
「……!」
恨めしそうな目を、ダリル様の背中に向けるジョン様。
ジョン様……。
「アイリスが今のままで幸せだって言うなら、僕は何も言わないよ。でも、アイリスはいつもあいつといる時、悲しそうな顔をしているから……」
「……」
子どもというのは、本当に侮れないわね。
何も知らないようでいて、実は物事の本質は本能が察知している。
「……好きとか嫌いとかではないのです。私は貴族の娘ですから。家が決めた婚約には従う。それが貴族令嬢の責務です」
「で、でも――だったら僕だっていいじゃないかッ!」
「――!?」
ジョン様は頬を染めながら、真っ直ぐな瞳を私に向ける。
ふおっ!?
「そ、それは、どういう……」
「僕だったら、絶対アイリスのことを幸せにしてみせる! ――だからアイリス、僕の婚約者になってよ」
「ジョン様……」
ジョン様は震える両手で、私の手をギュッと包み込んできた。
嗚呼、私は何と不用意なことを……。
女性に免疫のないこのくらいの歳の男の子が、年上の女としょっちゅう会っていたら、恋心にも似た何かを抱いてしまったとしても不思議ではない。
私はとんでもない罪を犯してしまったのだわ……。
「……申し訳ございません、ジョン様。お気持ちは大変嬉しいのですが、私はあくまでダリル様の婚約者ですから、そのお話をお受けするわけにはいかないのです」
私はそっと、ジョン様の手を解く。
そもそもジョン様はまだ12歳ですから、仮に私がフリーでも、16歳の私がジョン様に手を出したとなったら、世間から白い目で見られてしまいますし……。
「で、でも、じゃあもし仮にアイリスがあいつに婚約を破棄された時は――」
「……それでもダメです。私では、ジョン様には釣り合いませんから」
ここで変に気を持たせてはダメ。
ジョン様が次の恋に踏み出せるよう、キッパリとフッて差し上げなくては。
「くっ……、確かに今の僕じゃ、アイリスには釣り合ってないけど……」
「え?」
いや、そういう意味で言ったんじゃないのですけど??
私がジョン様に釣り合ってないと言ったのですよ??
「じゃあ条件を出してよ! その条件を僕が達成したら、僕の婚約者になってくれるって約束して!」
「……!」
ジョン様……。
これは困ったことになったわね。
どう言えば、諦めてもらえるかしら。
……よし、ここは心を鬼にして。
「……わかりました。では今から私が言う条件を全て達成できた暁には、私も考えますわ」
「ホントに!? やったぁ! どんな条件!? 何でも言ってよ!」
「……ではまず1つ目は、『この国で一番頭が良い男になること』です」
「い、いち……ばん……!」
この時点でほぼ不可能でしょうね。
世の中には異次元の天才がたくさんいます。
それら全てを撥ね除けて頭脳で一番になるなど、それこそ夢物語。
でも、念には念を入れて。
「続いて2つ目ですが、『この国で一番のお金持ちになること』」
「お、お金……」
これまた無茶な話。
我が国には三大商家と呼ばれる、桁外れの財力を持った商家が存在している。
いくら筆頭侯爵家の嫡男であろうと、財力では商家には及ばないのが実情。
とはいえ、今言った2つの条件は、達成する可能性が完全にゼロではない。
だから3つ目は、絶対に達成できない条件を叩きつける――。
「そして最後の条件は、『伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンの鱗を私にプレゼントする』です」
「……なっ」
流石のジョン様も、これには絶句した。
無理もない。
伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンは、その名の通り伝説の存在。
大人なら誰でも実在はしていないと知っている、おとぎ話だ。
これで完全に、全ての条件を達成することは不可能になったわね……。
「……わ、わかったよ! 何年掛かっても、僕は絶対に果たしてみせるよ!」
震える拳を握りながら、瞳に覚悟の炎を宿すジョン様。
ふふ、頑張ってくださいねジョン様。
あなたがこれから身につける知力や財力は、きっとあなたの人生をより豊かにします。
……そしてそれを、いつかあなたの妻となる方に使ってあげてください。
「ねえアイリス、このあやとり紐もらってもいいかな?」
「え?」
ジョン様?
「今日から僕は、全力で勉強を頑張るよ。だからこのあやとり紐をアイリスだと思って、心の支えにしたいんだ」
「ジョン様……」
ジョン様の目元には薄っすらと涙が浮かんでおり、必死に泣くのを我慢しているようだ。
「わかりました。その紐は差し上げます」
「ありがとう。またね、アイリス」
「はい、ごきげんよう、ジョン様」
この日以来、ジョン様が夜会に参加することはなかった。
――そして6年の月日が流れた。
「アイリス、今この時をもって、お前との婚約を破棄する」
「――!」
いつもの王家主催の夜会で、突如ダリル様から告げられた一言。
嗚呼、遂にこの日が来てしまったのね……。
元々私とダリル様は、お互いが22歳になったら結婚する予定だった。
でも、22歳の誕生日が近付くにつれて、ダリル様の私に対する態度はどんどん悪化し、露骨に私の前で他の女性と仲良くするようになっていった。
今だってダリル様の傍らには、男爵令嬢のキャシーさんがまるで伴侶のように寄り添っている。
きっとダリル様はずっと、私と結婚するのが嫌だったんだわ。
その思いがここに来て、遂に爆発してしまっただけの話。
私とダリル様は、最初から結ばれる運命にはなかったのね……。
「何だその顔は? 言いたいことがあるなら言ってみろよ」
「……いえ、この婚約破棄、謹んでお受けいたします」
「チッ」
私は毅然とした態度で、カーテシーを取る。
嗚呼、これでやっと、私は自由になれる――。
……とはいえ、既に適齢期は過ぎてしまった身。
今から新しい婚約者を見付けるのは難しいだろうし、いっそ修道院にでも行くしかないかしら、ね……。
「そういうことなら、新しい婚約者として、僕が立候補するよ」
「「「――!!」」」
その時だった。
聞きなれない男性の声が、私の鼓膜を震わせた。
「あ、あなた様、は……?」
そこにいたのは、18歳くらいの長身の美青年だった。
ウェーブがかかった金髪に、エメラルドに輝く瞳をした、人形のように美しい青年。
私はこの美しい瞳に、確かな見覚えがあった。
ま、まさか、このお方は――!
「随分待たせてしまったねアイリス。でも、やっと準備が整ったよ」
美青年は私の間近まで歩み寄り、じっと私を見下ろす。
「も、もしかして……ジョン様でいらっしゃいますか?」
「ああ、その通り、僕だよ」
天使のように微笑む笑顔は、確かにジョン様のものだった。
嗚呼、まさかこんなにご立派に成長なされて……!
ですが、準備が整ったというのは、いったい……?
「まずはこれを見てほしい」
「?」
ジョン様が差し出されたのは、一枚の紙だった。
どうやらそれは卒業証書のようで、『フォックスオード大学首席 ジョン・エルズバーグ殿』と書かれている。
フォックスオード大学ッ!!?
それってニャッポリート帝国にある、世界一偏差値の高い大学の名前じゃない……!?
しかもそれをこの歳で首席卒業……!
それは最早、この国で一番の頭脳を持っていると言っても過言ではないのでは……?
――ハッ、まさか!
「これで1つ目の条件は達成だよね」
「ジョン様……」
嗚呼、そんな……ジョン様……!
あなた様は私が出したおよそ達成不可能な条件を、律儀に果たしてくださったというのですか……!
「次にこれを見てほしい」
「……!」
次に見せられたのは、我が国の今年の長者番付表。
そこの一位の欄には、ジョン様のお名前が――。
う、噓でしょ……。
「ど、どうやって」
首席卒業は、まだ本人の努力次第で達成は可能だとしても、長者番付はそうはいかない。
三大商家という大きな壁が立ちはだかっている以上、個人がどれだけ頑張ったところで、所詮焼け石に水なのだ。
「うん、大学在学中に、特許を14個ほど取得してね。その資金を元手に、信頼できる仲間と会社を立ち上げたんだよ。『アイリスコーポレーション』ていう会社、聞いたことはない?」
「なっ!?」
経済に疎い私でも、流石にその名前は聞いたことがある。
まだ立ち上げて数年しか経っていないにもかかわらず、ありとあらゆる事業に手を出し、そのことごとくを成功に収めているという、化け物みたいな会社……。
「これはあまり一般には知られていないことなんだけど、実はアイリスコーポレーションは、国内で唯一三大商家全てと業務提携している会社なんだ。その結果、社長である僕は、これだけの資産を得たってわけさ」
「え……あ……?」
サラッと事もなげに仰ってますけど、それってとんでもないことなのでは!?
も、もしかして私の不用意な発言のせいで、超弩級の化け物を生み出してしまったのかもしれない……。
「そして最後に――はい、プレゼント」
「――!」
ジョン様に渡された手のひらサイズの箱を恐る恐る開けると、そこには深紅に光り輝く、鱗のようなものが――!
ヒィッ!?
「それが、伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンの鱗だよ」
「そんなバカなッ!?」
あくまでアブソリュートヘルフレイムドラゴンは、伝説の存在!
実在しないことは、誰もが知っていることですよ!?
「大学で学んだ知識と、会社で得た資金を総動員して世界中探し回って、遂に大陸の最南端にあるエクフラ山脈の頂上に、アブソリュートヘルフレイムドラゴンがいることを突き止めたんだよ。大金で雇った冒険者たちと共に三日三晩戦い続けて、やっと倒すことができた。この鱗が、その証拠だよ」
「あ……あぁ……」
開いた口が塞がらないとは、このことね……。
どうやら私の目の前にいるこのお方は、世界一愛が重い男みたいだわ。
「因みにアブソリュートヘルフレイムドラゴンは、こんな見た目をしていたよ」
「っ!?」
ジョン様はあやとり紐で、瞬く間に二本の翼が生えたドラゴンの形を作った。
どうやったんですか、それ???
それに――。
「まさか、その紐は……」
「うん、君がくれたあやとり紐だよ。――この紐のお陰で、今日まで頑張ってこれたんだ」
「嗚呼、ジョン様――」
もう私は、涙で前が見えなかった――。
「約束通り、僕と結婚してくれるね、アイリス?」
ジョン様は雄々しく骨ばった両手で、私の手をギュッと包み込んできた。
ジョン様……。
「ク、クソがああああああ!!!」
「「「っ!?」」」
その時だった。
ダリル様が、突如頭を搔き毟りながら絶叫した。
ダリル様???
「やっぱりこうなるのかよッ!! なんでだよアイリス!? 結局お前は、そういうスペックが高い男が好きなのかよ!?」
「……」
何を仰ってるのかしらこの人は……。
意味がわからないわ……。
「俺だってずっと、お前のことが好きだったんだぞッ!」
「…………は?」
好き??
今私のことを、好きと仰いましたか??
「だから仲間とも馴染ませようと、夜会でお前も仲間たちと同席させたんだ! それなのにお前ときたら、全然俺らに合わせねーで!」
えぇ……。
そんなこと言われましても……。
「何とか嫉妬させようと、他の女とイチャついてもノーリアクションだし、最後の手段で婚約破棄したのに、あっけなく受け入れやがって! ちょっとは俺の気持ちも考えろよッ!」
「……」
どうやらこのお方はジョン様とは真逆の意味で、とんでもない化け物だったようね……。
「ふざけるなッ!!」
「なっ!?」
が、そんなダリル様に、ジョン様からの怒号が飛ぶ。
「何故アイリスのほうが、あなたに合わせなくてはいけないんだ!? アイリスのことが本当に好きなら、あなたがアイリスに合わせてあげればよかったじゃないか! そうしていればアイリスだって、あんなに寂しそうな顔はしていなかったはずだ」
「ぐっ……!」
他でもないジョン様にそう言われてしまっては、最早ダリル様は何も言えないようだった。
「う、うわああああああああ!!!!」
ダリル様はその場で、子どもみたいに泣き崩れた。
……本当に、哀れな人。
「さあアイリス、僕たちは別室で、これからのことをじっくりと話し合おうじゃないか」
天使みたいな笑顔を向けながら、左手を私に差し出すジョン様。
……ふふ。
「はい、そうですね」
私はジョン様の左手に、そっと右手を重ねたのだった。
最早私の視界には、ジョン様しか入っていなかった――。
拙作、『「私たちは友達ですもんね」が口癖の男爵令嬢 』がcomic スピラ様より配信される『一途に溺愛されて、幸せを掴み取ってみせますわ!異世界アンソロジーコミック 6巻』に収録されます。
・アンソロジー版
2024年9月26日(木)…コミックシーモア様で2ヶ月先行配信
・アンソロジー版_他社書店解禁&単話版
2024年11月21日(木)
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