二人の秘密
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二人を結びつけるものは裸だった。だがそれは哀しい事に一方的だった。長澤麻里はこの二人の間に流れるただならぬ緊張感のようなものを感じ取っていた。普段は何にもカラミがない男女にいったい何があったのか?麻里は興味を感じた。自分が知らないとこで彼らは付き合っていて、今喧嘩の最中なのではという考えが頭によぎった。麻里は空想上で頭を振った。親友である紗耶香がそんなことを秘密にしているわけはない。男嫌いを自称もしているし、これまで関係を匂わせる事柄は思い当たらない。では、いったい何があったのか?麻里はこういった推理をよく働かせるタイプだった。本来の彼女のこういった好奇心は隠されていた。注目をどうしても集めてしまうその魅力的な容姿のせいで目立たぬよう言動を抑制するようになり、麻里をそういったおとなしく控えめな性格と周囲に思われていた。麻里が麻里らしく振舞えるのは紗耶香の前だけだった。
ある日麻里は一緒に帰るときに聞いてみることにした。
「ねえ、最近紗耶香さあ、東都になんかされたの?」
「えっ何?」
紗耶香はドギマギした。
「えーと、最近なんか東都のこと睨んでるし、嫌なことでもされたのかなって…」
「あははは」
紗耶香は自分でも下手くそだとわかる誤魔化しの笑いに苦い気持ちになった。
「…いやあ、あいつね最近いやらしい目でこっち見てくんだよね」
と嘯く。
「そうなの?」
麻里は嘘だと思った。いや、嘘だとわかった。勘ではない、身体的感覚で紗耶香の嘘を感知した。彼女はそういう能力を持っていた。麻里は戸惑った。なんでこんなことに嘘をつくのか。普段の明け透けな紗耶香からは似つかわしくなかった。ちょっと紗耶香に意地悪して、掘り出してみようと思った。
「それって、紗耶香に気があるってことじゃない。嬉しくないの?」
「…お前にそれを言われたくないわー。麻里はずっと男どもからいやらしい目で見られていて、うんざりしてるでしょ?」
確かにそうだった。だからこそ麻里は紗耶香と一緒にいると守られている感じがして落ち着いたし、自然な自分でいられた。意地悪しようとした自分に罪悪感が湧き上がる。でも、やはり興味の方が勝った。
「でも、東都は胸が大きい子が好みだって男子が話してたから」
「あっそういうこと言っちゃう?私が小さいと」
「いやそういう意味じゃくて、…あっそういう意味か!」
「おい!」
と麻里に突っこむ紗耶香。二人は笑いあった。特に紗耶香は上手くはぐらかせたという安堵も合わさって豪快に笑った。麻里の疑問は残り続けたが、この雰囲気を大事にしたいと思った。
二人ともお互い知りえない大きな秘密を持っていた。