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異能者たちの最終決戦  作者: さけおにぎり
二章 異能力者との邂逅
5/40

透視する女子高生


 1


「ちょっと!お父さん!裸で家の中歩き回らないでよー!」


「何を言ってるんだ、紗耶香?」


「もう」


紗耶香は目を両手で多って、顔を赤くし恥ずかしがった。


「あれ?紗耶香いんの?友達と遊びに行ってるんじゃねぇの?」


と二階から降りてきた大学生の長男がリビングにやってくる。


「ちょっと!何でお兄ちゃんも裸なの!」


「はぁ?なに言ってんだお前…」


紗耶香はあわてて背を向ける。


「うちいつから裸族になったの?お母さん!お願い、何とか言ってよ!」


彼女は抗議するが、台所にいる母親はぽかんと口をあけ、紗耶香を見つめているだけだ。


「ねぇ、お母さん!」


となおも叫ぶ。父親は母親の所に行き、ひそひそと話しだした。


「受験ノイローゼかしら…」


と母はおろおろとし、不安げな様子で言う。父も困惑していた。


「あの子きっと疲れてるんだよ…。少し休めば大丈夫だよ…。紗耶香!落ち着きなさい。父さんも、大介もちゃんと服着ているぞ。ほら」


父は前に進み、大きく手を広げて紗耶香の視線を待ち受けた。

紗耶香はいぶかしげに振り返り、顔を覆っている手を少しずらしてのぞき見る。

しかし、どう見ても全裸であった。


「もういい加減にしてよ!」


怒鳴る紗耶香。顔全体がゆで蛸みたいに紅潮している。その声を聞きつけて、小学二年の次男がリビングのドアを開けた。


「姉ちゃんどうしたの?」


「あのねぇ、…ってお前も裸かよ!」


高校の合格通知が届いた翌日の出来事である。

 

 2


坂の浦高校二年三組、轟紗耶香、女、身長142センチ、体重41キロ、彼氏なし、常に男の全裸が見える。


 3


人もまばらなプラットフォームに電車が滑り込む。

紗耶香紗耶香はハードカバーの本で顔を隠すようにしてドアが開くのを待っている。ガコンと開くと、彼女は猫のようにするりと乗り込みドアの横にぴたっと身を置いた。


「紗耶香」


目の前に突然長澤麻里が現れる。


「わっ。びっくりした」


「いつも、本で顔隠しているから、驚かした」


と麻里はいたずらっぽく、無邪気に微笑む。朝にふさわしい笑顔だと紗耶香は思った。ドアが閉まり電車が動き始めると、麻里は紗耶香に体を寄せた。チビの紗耶香は麻里の豊満なバストを見つめる格好になる。

紗耶香は小高い丘のような麻里の胸の頂上から見上げて言う。


「今日、早いね」


「うん、雲っているうちに家を出ようと思って」


「そっか。もうそういう季節かぁ」


文庫本の上端から窓の景色を覗き見る。桜の木は鮮やかな緑に衣替えし、雲は速いスピードで風に流されている。なるほど、学校に着く頃には晴れそうだ。


「うん」


と麻里は少し暗めのトーンで返事をした。

紗耶香はその声音を聞くと自分もちょっと悲しくなった。彼女は日光を当たりすぎると気分が悪くなるのだ。


麻里は何かを発見し、愉快でたまらないって感じで子供のように口元をゆがませる。紗耶香はなんだろと不思議に感じた。でも、楽しそうな麻里を見るのはとても素晴らしい。さっきの暗い空気はすぐに春の風に追いやられた。


「ねぇ、訊いていい?」


「なに?」


「……コ、レ、」


と、麻里は人差し指で紗耶香の本を突っつく。


「あ、ああ。これね」


「ずっとこの本。ページだって一緒」


「ばれてたか」


「もちろん!」


「そうだよねー。本を読む柄じゃないうえに、ページが進まないとなれば何か裏があるはずと、…長谷川探偵は推理したのだね?」


「ふふふ」


「他に意味があるはずだーって」


「うん」


「そして、ラッシュを避けて一時間早く電車に乗るのも」


「うん」


「賢いなぁー。さすが麻里。オッパイがでかいだけはある」


麻里はむっとし、胸を紗耶香に押し付けた。紗耶香は本で鼻を打った。


「うがっ!」


「あっ、ごめーん」


「つうか…わざとだろ」


「揺れたんだよ」


「いや、揺れてないし、直線だし」


と、ふざけあいながら紗耶香はホッと胸をなでおろした。このことはまだ話せない。いや、たぶんずっと話せないかもしれない。麻里みたいなカワイイ子に自分の下品な能力の話なんて絶対無理と紗耶香は考える。今だって、隣の若いサラリーマンが麻里の顔と胸をちらちらと見ている。彼女はクラス一、いや学校一のかわいさを誇るのだ。そこら辺のアイドルだって負けない。親友だからといってすべてをあからさまにする必要なんてない。紗耶香は若いサラリーマンのアソコがむくむくと起き上がるのを見ながらそう思った。



でも、紗耶香は麻里以外の誰でもいいから自分の能力を告白したいという欲望に駆られていた。もし、告白したらどうなるだろうか?彼女は何度もシミュレーションを重ねるが、どう考えても信じてもらえず変態呼ばわりされるのがオチだった。それは当然だった。彼女にはこの世のすべての男性が全裸にしか見えないからだ。

「あいつは包茎だよ」

と言っても

「何?あいつとエッチしたの?」

と言われるのは決まっている。

自分の能力を証明しようと、クラスの全男子のアソコの形状を語りつくしても、淫乱女とののしられるのが関の山だ。ましてや、自分は処女である。そのような誤解は絶対避けなければならない。


「はぁ」


 と彼女はため息をつく。

 こう落ち込むたびに彼女は「王様はロバの耳」の童話を思い出す。


「自分にも秘密を叫べる『穴』がほしい。どうしたら良いのだろうか?」


一年のときからずっと思い悩んできた。自分の能力を話しても、引かず、信用してくれる人間を探していた。そういう人がいればどんなに楽だろうか。いっそ、精神科に行こうかとさえ考えていたときだった。二年になって同じクラスになったある男子がどうも変なことに気づいた。変というか常に元気なのである。下半身が。


(何であいついつも勃起してんの?)


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