とある男子高校生の秘密
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今泉東都がもうひとつ怖れるのがこの「病」が発覚すること。親しい友人でさえもこのことは知らないが、時々、彼が妙な行動を取ることは知っていた。例えば連れションに絶対付き合わないこと、というか必ず個室を使うこと、他人との体の接触に神経質なところ。文字通り彼はよく腰が引けていたのだ。
彼としてはなんとしてでも、この恒常的勃起症状を隠し通さないといけない。少なくとも高校三年間は…と彼は考えた。もし知られてしまえば、いじめどころではない状況になる。特に女子に知らたりしたら…と想像すると彼は血の気が引き、ガクガクと足が震えた。彼の心情を反映させ誇大な表現を用いるのなら、この秘密には人間としての尊厳がかかっていたと言える。
最初友人たちは、彼は潔癖症だと考えた。東都もそう思わせとくほうが安全だと考えた。なので、これを利用することにした。潔癖症の人間がとる行動をネットで調べ、それらしく振舞った。ハンカチとティッシュは3セット常備し、学校生活の効果的な場面でそれを有効に用いた。やりすぎには彼はもっとも注意を払った。あくまでも潔癖症よりの清潔好きを目指していたからだ。それは潔癖症だと思われると、友人たちが彼をおもんばかってよそよそしくなってしまう危険があったためだ。彼は友人たちにこう言っていた。
「俺は子供の頃に、感染症にかかって酷い目にあったことがあるんだ。それ以来、なんか癖がついちゃったんだよねぇ」
最初の一年はこれが成功していた。クラスメイトは彼のことを「潔癖症よりの清潔好きな人間」だと認識されていた。ばれる事はないと彼は自信を持った。ゴール下なんかに行かなければいい。距離を保ち、安全圏に身を置くこと。前線にいく必要なんかない。
(そうだ。あと二年、これをつづければいいだけなんだ)
と彼はほっとしていた。
ボールは放物線を描いて、リングに落ちてゆく。
「ガンッ」
決める必要はない。スリーポイントラインからだいぶ離れているのだ。ゴール下ではリバウンド争いが繰り広げられている。
(これでいい……)
シュートをうち終えた東都はホッとし、手をぶらんと下げ脱力した。
ゲーム終了の合図の笛が体育館に響いた。東都には囚人の解放の合図に聞こえた。
彼の股間は摩擦で熱をもっていた。だが、頭はクールであった。
そして運命は動き始めていた。