情報屋の力試し4
「お待たせいたしました」
「颯爽といなくなった時はどうしたかと思ったよ」
「驚かしてすみません。こちらを取りにいっていたのです」
「それは……地図となんだい?」
「見ていれば分かります」
私は荷台から白い粉と液体を取り出すと、それらを混ぜ始めました。白い液体になったところで、現場にあった足跡に流し込みます。
「急に何を?」
「これはですね、足跡の型を取っているのです」
「型?」
「はい。この足跡から犯人を絞り込めると思いまして。だから、犯人の足跡を記録しておくのです。これなら現場に来なくても手元に証拠を残せます」
「これは驚きだ。そんな方法があるなんて。確かに足跡が一致すれば、犯人の可能性が高くなるね。しかも、現場に都度行かなくて済むのは効率的だ」
今流し込んだのは石膏。時間を置くと固まるので正確に形を保管していられるのです。
この足跡を照合して、犯人を絞り込む魂胆です。
さらに私は荷台から紙を取り出しました。
「これは?」
「これも足跡の記録に使う物です」
「へえ、他の地点の足跡を取るのかい?」
「いいえ、レイバーさん、あなたの足の型をいただきたいのです。」
「ぼ、僕のかい? 」
「はい。これは靴底の型を取る用なのです」
「え、なんで? ……もしかして、僕のことを疑っているの?」
レイバーは怪訝な顔をしました。私は慌てて否定します。
「いいえ、まさか! 逆です! レイバーさんは私と一緒にいたので、アリバイがあります。犯人候補から外すために残しておこうと思いまして」
「あ、あー……そういうことね」
どうやら、疑っていないと納得してくれたようです。
私は作業を続けます。
「これは、ゼリー状の紙……お師匠さま曰く薄いシリコーンというものだそうです」
私はしゃがみ込むとレイバーの靴に、黒いインクを塗ります。
「こちらを踏んでいただけますか?」
「これを?」
レイバーは恐る恐るゼリー状の紙を踏みました。紙には足の跡が付きます。それを私が別に用意した普通の紙に貼り付けて、写し取りました。
「なるほど。インクで転写する仕組みなんだ!」
作業に興味があるらしく、手元を近くで見たいのか、レイバーは私の横にしゃがみます。
「はい。とても便利でしょう?」
「これは素晴らしい」
「でしょう? このように……」とまで言ったところで、私は顔を横に向けます。それと同時に、私は驚いて言葉を止めてしまいました。
ーーだって、レイバーの顔が大変近くにあったからです。その顔は、斜め下から私を覗き込んでいます。
どうやら、見ていたのは作業の手元ではなく、私の顔のようです。
お師匠さま似の顔が至近距離にあり、私はドキリとしてしまいます。
「わ、私の顔になにか……?」
惹き込まれそうな鮮やかな金色の瞳が、じっと私を見つめています。
しばらく沈黙が続き、私はなんだかお師匠さまに見つめられているような気がして、段々と挙動不審になってしまいました。その様子を見てか、レイバーはフフッと笑みを浮かべました。
「いや、急に見てすまない。実に面白いと思ってね。僕はがぜん興味が出てきたよ」
「興味?」
「うん、……君にね」
「私? ですか? 」
「情報屋とは本当らしい。僕が知りえないような知識を君は持ってるんだね。……良い。すごく良い」
そこまで言うと、レイバーは顎に手を当て、再び私をじっくりと見始めました。たまに興味深そうにうなずきます。
単純な興味で他意はないのでしょうが、お師匠さま似の顔にここまで真剣に見られてしまうと、私はなんだか顔が赤く火照ってきました。恥ずかしく感じているのでしょう。本人ではないと知りつつも、私は段々と耐えられなくなっていきました。
「あ、あの……レイバーさん?」
「ん?」
「そろそろ、会長とアルマ君の足跡を貰いに行きたいのですが……!」
私が気まずそうに声を掛けると、レイバーはハッと我に返ったのか、やっと私を見つめるのを止めてくれました。
「ああ、そうだったね。確かにあの二人もアリバイがあるから、貰っておくべきだろうね」
これ以上見られるのは耐えられそうになかったので、話が本題に戻り私は安心しました。少し動きがぎこちなくなってしまいますが、仕方ありません。
「では、私はお二人のもとに向かおうと思います」
「うん、ついでにアルマ君に現場付近の人物を教えてもらって、その人達の足跡も手に入れれば御の字だ」
「それがいいですね。……では、ここからは私単独で調査を続けますね。レイバーさんのお時間をいただくわけにはまいりませんし」
これ以上レイバーと一緒にいると心臓に悪いので、離れないといけません。
一人で向かう旨を告げると、突然の解散を言い渡されたレイバーは、なんとも悲しそうな顔をしました。
「僕の力はいらないかい?」
まるでお師匠さまが悲しんでいるように見えて心苦しくなります。
ただ、レイバーの性格や行動はまだ読めないので、警戒するに越したことはありません。まだ会長やアルマの方が信頼できそうです。それに……やっぱり私の心臓が耐えられそうにありません。
丁寧にレイバーの協力をお断りをして、私を調査を続けることにしました。
途中、丁度アルマに出会ったので、私は早速足の型を貰いに行きました。ついでに、当時現場周辺にいた人も聞き出しておきましょう。
「アルマくん! お願いがあるのですが、協力してくれますか!」
◇◇◇◇◇