力を貸して
「お師匠さまを攫ったからです」
ジェールは驚いて目を丸く見開きました。
「え? ……は?」
「お師匠さまはその竜に攫われたのです」
「さらわ……え?」
「信じがたい話ではあるのは重々承知しています。でもこれは事実なのです」
「……クラートのやつが?」
「はい。だから、私はこの紋章を付けた竜の情報を常に探し回っているのです。これは普段の依頼などでは無く、もっと大切な話で……簡単に知らないからと終わらせられる話ではないのです」
すると、ジェールの口角は段々と下がっていきました。
「まてまてまて。……本当にクラートが竜に?」
「ええ。嘘はつきません。だって目の前で攫われたので」
急な話でジェールは動揺して、宙を仰いでいました。
そういえば、この方は私のことは好きではありませんが、お師匠さまのことは割と気に入っていた記憶があります。昔に何かあって、その縁でアトリアとの繋がりがあるのだと思いますが、私は知りません。きっと思うところがあるのでしょう。
ジェールはしばらく考えるように黙り込みました。
そして、先ほどまでとは打って変わって、真剣な表情を向けました。酔いが覚めたようです。
「……本当なんだな」
「……はい」
「……お師匠さまを助けるために、力を貸してくれませんか?」
私が問うと、ジェールはレイバーを一瞥しました。
「その護衛さんは話しても問題ない奴か?」
「この方は私の話を全て聞いていて、協力してくれているのです」
「そうか……」
ジェールは大きくため息をつきました。
「いいだろう。クラートの奴に俺も借りがある、情報くらいなら暮れてやらろう」
「……いいのですか!?」
「ああ。ただ、この俺を解放してくれ。身動きがとれない状況じゃフェアじゃない。」
それはもっともです。
「分かりました。いいでしょう。」
私は、ジェールを拘束していた紐を外しました。
ジェールは解放された手足をパタパタと動かします。
「ちっ。俺を飛んだことに巻き込みがって。確かに情報はくれてやろう。ただ、俺が言ったということは秘密だ。必ず。俺を危険に巻き込むな」
「それは勿論です」
「ならいい……そういや、お前さんは貴族との交流は無かったよな?」
ああ、そういえば私は平民街専用で商いをしている設定でした。でも、最近はアトリア貴族店があります。
「実は……最近貴族街の方でも活動するようになりまして」
「ん? 貴族街に行けるようになったのか?」
「はい、お師匠さまが残してくださった情報でなんとか」
「そうか、なら貴族とは会っているんだな」
「ええ。と言っても、まだ領主様や宰相様にお会いした程度ですが」
「いきなりそのメンバーと会ったのか。……そうか……まあ、なら話が早い」
ジェールは何かを思い出すように腕組みをしました。ただ、どこかぎこちない様子です。私は気にせず話を続けます。
「貴族街に行けるようになったので、この星の紋章の人に近づきやすくなりました」
「なら、良かったな」
「そういえば、この星の紋章の持ち主について思い当たる節がありそうでしたよね。……教えてもらっても?」
やっと話が聞ける。そう思うとなんだかワクワクとしてきました。ただ、ジェールは段々と話に饒舌さが無くなってきました。
「教えてもらえるんですよね?」
「ああ。まあな。と言っても酷似したマークを使っている奴が思い当たるだけだが……いやしかし……」
「似てるだけでもいいのです。教えてくれませんか」
「それは……良いが……その」
段々と言葉に詰まるようになってきました。何を言い渋っているのでしょうか。
「何か、ありましたか?」
「いやその、お前を取り巻く人を知って、今更だが少し厄介なことになったかもしれないと思ってな」
「何故です? まだ宰相閣下くらいしか頻繁に話していませんよ?」
すると、ジェールは大きくため息をつきました。
「その宰相閣下なんだよ。例の星のマークと酷似している家紋は」




