悪すぎるタイミング
ーーだって、そこにはレイバーがいたからです。
店のカウンター部分でにこやかに笑みを浮かべてこちらを見ています。
月明かりに照らされた髪がキラキラと美しく輝いていました。とても美しい光景です。そう光景は。
事態は、全く美しくない状態でありました。
「レ、レイバーさん?!」
私は小声ですが、驚いて声がでてしまいました。
「何故ここに?!」
「ん? ここにいてはいけないの?」
私の動揺して、裏返りそうな声とは反対に、レイバーは少し茶目っ気のある余裕のトーンで返してきました。
「い、いけないことはありませんが……」
タイミングが悪すぎます。今まさにジェールを捕ま……いえ、お会いできるチャンスだったのに。
「な、何か御用ですか?」
私が恐る恐る聞くと、レイバーは少しはにかみました。
「んー、なんだろう。今行けば、とっても面白そうな光景がありそうだなって思って」
「面白そう? で、でもそんな面白そうなことはないと思いますが?」
私は一所懸命はぐらかします。早く行って、ジェールの酔いがさめる前に会わなければならないので。でも、レイバーそんな私の様子を見過ごしませんでした。
「そうかな? ところで、君はなんでそんになに急いでいるんだい?」
「べ、別に急いでなんか」
「閉店後だろ? あれ、でも店の奥から何か音が聞こえるような……」
しまった、ジェールの口も封じておけばよかったですね。
「い、いえ、気のせいですよ」
「なんだ。じゃあ尚更僕はここにいてても問題はないね」
し、しぶといです。私はどう切り替えそうかと少し無言になってしまいました。
すると、レイバーがこう続けました。
「ねえ。いい加減隠すのを止めてよ。今から何をしようとしているの?」
そう話すレイバーの口元は笑っているものの、目は少し怒っているように冷たく感じました。
真剣な眼差しで見つめられます。
お師匠さまと似た顔に睨まれているような感覚になってしまい、私は身体が硬直してしまいました。
どうしましょう。素直に言ってしまおうか、それとも誤魔化すか……迷ってしまいます。
すると、レイバーの少し悲しそうな声が聞こえました。
「ねえ、僕のことは信用できない?」
「え?」
「最近はせっかく、仲良くなれたと思ったんだけど、肝心な所は教えてくれないんだね」
「そ、それは……」
「僕は関係ないとは言わさないよ。きっと、君のことだから今回の調査の件なんだろうなぁと、僕は踏んでいるんだけど?」
「……」
「僕は君に協力する予定だったんだけど。それとも何?君は今更協力できないって?」
「い、いえそんなことは」
「なら、別にいいじゃん。僕も力になるよ。」
「……」
「一人で抱え込もうとしないで。君は強いし、今まで一人で頑張ってきたことは認めるよ。でも、一人では限界がある。だから、僕が君の力になる」
レイバーは私に近づくと、私の両手をぎゅっと握りました。
「今は僕が信用できないだろうけど、信用してもらえるよう僕も歩み寄りたいんだ」
確かに、レイバーの意見は一理あります。だって、信用して仲間になったはずなのに、私はコソコソと隠すように行動しているのですから。
これでは仲間とはいえません。確かに、いくら仲間とはいえ、言えない部分もあるでしょう。しかし、協力を要請している以上はこちらも多少の歩み寄りをする必要がありそうです。
私は大きく深呼吸をすると、自分の頬を軽く叩き、レイバーに向き直りました。
「分かりました。いいでしょう。」
私が頷くと、レイバーの顔はぱぁっと明るくなります。
「いいんだね?」
「ええ。こうなっては仕方ありません。お連れしましょう。」
私はレイバーを部屋の前まで迎え入れました。
「レイバーさん、今から何をしようとしているか分かりますか?」
「うーん、具体的には分からないけど、きっと誰かから何かを聞き出そうとしているのは想像がつくね」
「あら、よくお気づきになりましたね」
「だって、大声で居酒屋の女性がここに人を連れてきているのを見たんだ。それにあの大声でフィリーを呼ぶ声。あんな声じゃ僕も気づくよ」
「あ、あー……そうでしたか」
ベリーシャがジェールを連れて来ていたのを見られていたのですね。思わず腹部がヒヤリとしました。
「それ以外には何か見ましたか?」
「いや? その後は君がアトリアにいると思って玄関に向かっただけさ」
どうやら、私が着替えているところは見られていないようで、少し安心しました。
「そうなのですね。騒がしくしてしまって申し訳ないです」
「いや。それはいいんだけど、もしかしてその連れてこられた人が今後の情報収集において、重要になってくるのかなと思ったんだ。だって、このタイミング且つ、少し手荒な真似をしてでも連れてきた存在だし」
本当にこの方の観察力には脱帽します。
「さすがですね……。大変悔しい所ではありますが、その通りです。実は、今から例の件についてお伺いするのです。だから、少しだけ見守っていてくださいませんか?」
すると、レイバーは頷きました。
「もちろんさ。では、僕は……そうだね、念のため君の護衛ということにしておこう」
「まあ、そうですね。雇われの関係という設定でいきましょう。」
私は、ドアノブに手をかけました。
「それではお連れしましょう」




