情報屋の力試し2
「惨状を見た直後に申し訳ないんだけど……君はこの爆発について何か知っていそうだったよね。さっきの続きを聞いても? 」
謝っていはいるものの、そう話すレイバーの目は私を逃すまいと捉えていました。どこか警戒しつつも、真相を知りたがる好機に満ちた目をしています。
「ああごめんね。さっきもだったんだけど、君がこの惨状を見た割にはなんていうかその、気持ちの切り替えが早いように見えてね。何か爆発に思い当たる節でもあるのかと思って」
ーーなんて鋭いのでしょう。
虚をつかれて、私は一瞬黙ってしまいました。もう少し驚き、ショックを受けておくべきだったのでしょうか。一旦惨状に驚きはしましたが、爆発物にだけは見当がついていたので調査を速攻で開始しました。この切り替えの早さで状況を察されるとは……。今後は態度にも気を配りましょう。
レイバーはよほど、先程の会話の続きが気になったのでしょう。少しソワソワとし始めました。これは黙っている方が面倒な感じがしますね。私はひとまず話せる範囲で説明することにしました。
「火災の原因は分かりませんが、爆発物にのみ見当がついています。実はこの建物には、可燃物を含む多数の物が保管されていました。その中で今回、爆発に直接関与したのは”ガス”だと私は考えています」
「ガス?」
レイバーが聞き返します。
「ええ。……ガス灯はご存知ですか? 最近貴族街では普及が始まっていますし、知っているかもしれませんね。あれはガスを燃焼させているんです」
「ああ、ガス灯の! 」
「ええ。そして、ガスを圧縮保存したガスボンベと呼ばれるものが、私の小屋には保管してありました。あれが残骸ですね。」
私は銀色の筒の残骸を指差してさらに話を続けます。
「ガスボンベは高熱に晒されると爆発します。今回爆発したのはそのガスボンベだと思われます」
「なるほど、ガスボンベは聞いたことないが、ガスが起因であれば爆発しそうだ」
レイバーは納得したように頷きました。
しかし、後ろで同じく解説を聞き始めた会長とアルマは、あまりガスに馴染みがないのか、首をかしげています。
「私達にはそのガスとやらは分かりませんが、そんなにも危険なのですか?」
会長が不安そうに聞きました。
「ええ。それにボンベに関してはお師匠さまの独自入手なので初めて聞かれたでしょうね。危険なので今はアトリア店主の私しか持っていません」
それを聞いたレイバーは少し興味を示しました。
「それは驚きだ。君は何故そんなものを持っているんだい?」
「なぜって、研究開発に使用するに決まっているではありませんか。特に人口密集地ではできない実験もありますしね」
「ふむ。話を聞くに、他にも大層興味深い物が保管されていそうだ。ただの物置小屋ではなく……ね。どんな用途で使っていた場所か気になるね」
レイバーが詮索するような視線を送ってきたので、私は慌てて話を戻しました。
「そ、それよりも、問題はどうして火災が発生したかです!」
レイバーが話の腰を折られて残念そうな顔をしましたが、私は気にせず話を続けます。
「アルマ君が火事を教えてくれたタイミングと、爆発のタイミングから推測するに、何らかの原因で火災が発生した上で、爆発したと考えられます」
「火災の原因に心当たりは?」
「いいえ。小屋の火災対策は徹底していました。まず、私が火気を持ち込むはずありません。それに加え、今は吹き飛んでいますが柵などの防犯にも努めていました。勿論、自ら発火するような物は保管していません」
「うーん、そこまで対策をしていて、何故火災が発生したんだろうね?」
私が意図的に持ち込む以外での火気の原因。発雷など自然発火に関しても現状では可能性が低いため、恐らく……
「……何者かによる犯行が高いでしょう」
レイバーたちの息を呑む音が聞こえた気がしました。
「考えたくはありませんが、悪意ある誰かが意図的に仕掛けたのかもしれません」
ーーもし本当だったら、私の小屋を破壊した者に裁きを与えなければなりません。
◇◇
以降、私は謎を解明するために、現場を自分の目でくまなく見て回りました。当時の状況もアルマに聞いてみます。
現場周辺の人はアルマ含め、少ないようでした。
アルマ曰く、私の借用地の少し離れた場所は、空き地の為、事情を知らない子供の溜まり場だったそうです。当日はいつものように訪れた際に、近くで小屋が燃えていたことに気付いたとのこと。
実際に現場を案内しつつ教えてくれました。
「僕はあの木の辺りで気づいたんだ。既に火が燃え広がっていたから、慌てて教えに来たんだよ」
「途中に怪しそうな人はいましたか?」
「分かんない。遠くに大人がいるなと思ったけど顔見知りだったし、たまり場にも子供は来てなかったし」
「そうですか……」
現場近くにいた人は、念のため後で聞き込みをしておきましょう。
今のところ、調査に手応えはありません。
この手の犯行をされるような個人的な恨みを買うことは大いにありますが、実行犯の候補が少しも見えてこないのが歯がゆいところですね。
ー-私は何か見落としているのでしょうか?
そんなことを思い、ふと小屋の周囲をくまなく観察していると……あるものに気付きました。
直後、私の脳内が動き始めます。同時にお師匠さまの言葉が蘇ってきました。
「いいかいフィリー? 何気ない物でも大切な情報を持っているんだよ」
◇◇◇◇◇