貴族のだれか
「もしかして、彼らの誰かがお師匠さまと竜について何かしら知っている可能性も?」
すると、レイバーは頷きました。
「ありえるね。むしろ、クラートさんに依頼をした本人かもしれない。もしくは……竜でクラートさんを攫った側かも」
「攫った側。ですか」
私は急に胸がドキドキと高鳴り始めました。これは、このドキドキは高揚感ですね。だって、急に話が展開してきたように感じているのですから。
やっとお師匠さまと竜の真相に一歩近づけそうです。
ーーここまでどれほど時間がかかったか。
いえ、感慨深く浸っている場合ではありません。調査はこれからです。
それに……
「では、もしかしてレイバーさんのご家族を襲ったのも関係していたり……」
すると、レイバーは少し黙ると、大きく息を吸いました。そして、自分を律しているかのようにゆっくりと息を吐きました。
「……そうだね。竜の紋章と僕の家族を襲った紋章が同じだもん。関係してくるだろうね」
そういうと、ハハッと乾いたような笑い方をしました。
「まさか、ここで繋がってくるとはね。意外だなぁ。」
レイバーは広げた資料をゆっくりと撫でて言いました。どうやらレイバーも少し感慨深くなっていたようです。
「ついにここまできたか。後は、この中から犯人を見つけるだけ。とっても素敵だ」
きっと何か思う所があるのでしょう。少し資料を見て、何かを思い出しているかのようにぼんやりとしている様子でした。
やっと、ここまできたのですから、あともう一息です。
私は紋章、竜……と考えていてふと気づきました。
「レイバーさん、レイバーさん。この国の兵士の階級はどうなっています? 隊長レベルだと、貴族階級になると思うのですが」
「ん? ああ、そうだね。ドミニク隊長も子爵だ」
「では、貴族階級でおのずと爵位が分かりませんか? 私達が探しているあの星の紋章は、星が一つでした。そうなると、公爵、侯爵辺りに該当するのでは?」
「たしかにそうだ。星の数が減るほど爵位が挙がるのであれば、星が一つの紋章はその辺りの爵位になるね」
「となると、おのずと公爵か侯爵の方が竜に関わっている可能性が出てきませんか?」
「……言われてみればそうだ! さすがフィリー! 可能性は十分にあるよ」
レイバーは嬉しそうに、私の手を両手で握ると激しく握手をしてきました。
私は激しい動きに、少し圧倒されてグワングワンと揺れてしまいます。
「あっと、ごめんね。あまりに嬉しくってつい」
レイバーは私が動揺しているのに気付いて、手を離しました。
「やっぱり君と組んで正解だったよ。なんだか僕は急に自体が進展しそうでとっても心が躍っているんだ。ああ、なんて高揚感なんだ……」
犯人候補が絞れて、よっぽど嬉しかったのかレイバーは恍惚としています。
私はクスッと笑ってしまいました。
「ええ、そのお気持ちよく分かります。私も先ほどからドキドキとしています。このドキドキは恋でも緊張でもなくて、高揚感だと思っています」
私はそっと胸に手を当てました。やっぱりドキドキしています。
すると、「あれ? 僕を見てドキドキしてくれたんじゃないんだね」なんてレイバーがいうので、「もう!」と怒っておきました。
こういった冗談が言える空気になってきて、やっとレイバーへの警戒心も薄れてきたのだなと、ふと思いました。
私はメモをするべく、紙を広げました。
「では、その該当しそうな方々をふるいにかけてみましょう。ただ、ここにある資料が古いのが難点ですね」
「それなら、僕が新しい一覧を用意しようか?」
「いいのですか?」
「ああ、貴族向けの商売をしてるのだから、今活かさなくてはね」
レイバーはパチンとウインクをしました。
◇◇
後日、レイバーは貴族の名前が載った一覧を持ってきてくれました。
「この中に犯人が?」
そこには該当しそうな貴族達の家名が並んでいました。
公爵や侯爵の爵位を持ち、兵に関わる役職者はおよそ10人。この中でから探し出す必要があるようです。
ただ、お師匠さまの残した資料集に関しては、各家の紋章までは記載されていませんでした。
「この中から、紋章が該当する人を導きだせばいいはずなのですが、肝心の紋章が分からないのが、歯痒いですね」
ペラペラと資料を捲ってみますが、やはり見つかりません。
レイバーが横で腕を組み、考えつつ呟きました。
「僕も貴族関係は自分の担当したお客様しか分からないな」
「でしょうね、だって見つかっていたら今ここにはいらっしゃらないと思いますし」
「うん。どうにか、紋章を知る術はないだろうか……」
「いっそ、宰相のサイモンさんに聞いてみますか?」
「でも、以前の様子だと個人情報の観点で教えてくれなさそうだ」
「それもそうですね。では、別の方でそういうのを知って良そうな方に聞いてみるとか? でも誰が……」
「そうだね、紋章を必ず知っていそう、もしくは紋章を見る機会がある人がいるといいんだが……」
ここで、私はふと思い出しました。
もしかして……あの人だけは……
「レイバーさん、少し思い当たる筋があるので、聞いてみようかと思います」
「え……? ……いるの?」
私が思ったより早く人物を思いついたからでしょうか。
この時のレイバーの驚く顔は、少し笑ってしまいそうでした。




