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機械仕掛けの情報屋 〜異世界の大好きなお師匠様〜  作者: ビオラン
お師匠さまの情報を探しに

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竜についてご存知ですか?

「お呼びですかな?」


 宰相のサイモンが穏やかな笑みを浮かべて、私達の部屋に訪れました。


 いつも思いますが、この方の立ち振る舞いは上品で、見習いたいくらいです。


「おや、今日はクラートさんもご一緒で?」


 サイモンが部屋を覗き込みました。


「はい。ただ、まだ声が出ないようなので、私が話すことになりますが」


 そう言うと、サイモンは「おや、まだ快復とはいかないようですね」と少し残念そうな顔を見せました。今回も、偽物が来ているとは疑っていないようで、失礼ながら安堵しました。


「実はお伺いしたいことがありまして……」

 私は少し控えめに、でもこの機会を逃してはならないと思って単刀直入に聞いてみました。


「”竜”について、何か知っていることはありませんか?」


 見上げて、サイモンの顔色を窺ってみます。


「竜?ですか」


 サイモンは意外な質問がきたためか、少し目を開きました。


「はい、竜です」


 サイモンは顎に手を当てると、少し思い出すような素振りをしてみせました。


 しばらく沈黙の時間が続きます。


 いえ、正確には私が緊張していて時間の流れが遅くなったように感じていたのでしょう。


 サイモンが何か言おうと少し息を吸ったので、私は身構えました。


「知りませんね」


 知ら……ない?


 私は予想していなかった答えに、少し戸惑いました。


 だって、お師匠さまに竜の調査依頼が領主から来たということは、サイモンを伝手に連絡が来ている可能性が高く、サイモンならば存在くらいは知っていると思っていたからです。


 以前お話を聞いた限りでは、依頼は基本的に領主直接ではなく、宰相のサイモンを通してからくると言っていましたから。


 では、どういうことでしょうか?


「知らないのですか?」


 思わず、聞き直してしまいます。


「はい、竜とは、あの架空の生き物の話ですよね? その程度しか知らないのですが、何かありましたか?」


 サイモンは穏やかな話口調を変えず、ただ不思議そうに私を見ました。

 本当に何も知らないといった様子です。


「で、では、つい先日、領地境界付近で起こったことをご存知ないのですか?」


 私は思わず聞いてしまいました。だって、あのドミニク隊長が上に報告していないわけがありません。


 すると、サイモンは再び思い出す素振りをしました。


「先日……あぁ、あの領地境界のことですね。確かあなたもご一緒されたとか。兵からは一般人が紛れ込んだだけで、特に問題が無かったと聞いておりますが……何かあったのですか?」


 サイモンは逆に、心配そうに聞き返してきました。


 ーーそれだけ?


 竜の話が無かったことにされています。


「あの……竜の話は……聞いていませんか?」


「竜の話? いえ、そんなものは聞いていません」


 なんてことでしょう。一番重要な部分が欠けています。


 もしかして、まだサイモンまで竜の話は挙がっていないのでしょうか? もしくは、敢えてサイモンに報告されていない? 


 これは、現地での竜の話がどうなったか境界警備隊の方々に進捗を聞いてみた方がいいかもしれません。


 そんなことを考えていると、「先程から話に出てきますが、架空の竜がどうかなさいましたか?」とサイモンが再び心配そうに聞いてきました。


 これは、本当に知らなさそうです。一旦保留にしましょう。


 私は後ろにいたレイバーに目線を送りました。

 レイバーも驚いたような顔をしていますが、自分はクラートであることを思い出して、ゆっくりと頷きました。


 これは、レイバーも同じように保留と思ったのでしょう。

 私はさらりと話の流れを変えて、本題に試みます。


「いえ……実はですね、以前竜についての依頼をこのクラートが受けたようでして。そのそれで竜のことを思い出しまして。丁度似た場所だったので気になただけです」

「ほお、そんなことが」


 ーーほお、そんなことが? ですって?


 おかしいです。だって『領主の依頼』とお師匠さまは言っていました。だからサイモンが知らないわけがありません。


 私はそれとなく聞いてみることにしました。


「そういえばクラートは事件以降、記憶が錯綜(さくそう)しているようでして……この機会にお伺いしたいことがあるのですが良いですか?」


 すると、サイモンはびっくりとしたように目を見開きました。


「失踪されてからの話はまるで聞いていませんでしたが、まさかそんなに体調が芳しくないとは……。お声を失っている上に、あなたの売りである記憶まで……それは辛かろうに……お答えできることなら何なりとお話しますよ」


 サイモンはさすがに動揺したのか、穏やかな声のトーンは残っていても、顔は眉が八の字に下がってしまっていました。


 私は遠慮がちに「ありがとうございます」と言うと、話を続けました。


「実は、先ほどお伝えした竜の依頼を、どなたから受けたか正確に覚えていないようなのです。何かお聞きになっていませんか? 私は貴族関係の可能性が高いとみていまして。」


 私はゆっくりと見上げて、サイモンの顔色をうかがいます。


 サイモンは少し逡巡しました、が、そこまで時間もたたないうちに「はて、わたくしは把握していませんね」と言いました。


 ーーなんですって?


 私は自分の耳を疑いました。


 思わず、「聞いておられない……のですか?」ともう一度聞いてしまいます。


 サイモンは今度は両手と首を左右に振り断言しました。


「竜の依頼を? いえ、私どもは何も聞いておりません」


 なんということでしょう。予想外の答えでした。


 もしかして、サイモンだけが聞いていない?


「では、サイモン様が把握してないだけで、領主様から直々に依頼されたの可能性もあったり……」


 すると、サイモンはこれにはすぐに返答してきました。


「いえ、いくら領主様とはいえ、依頼は基本的にこの私を挟むよう言っています。私を通さないことはございません。」


「そうなのですか……?」


 ーーでは、領主からではない?


 サイモンの言葉を受けて、私は何か周りの時間が止まったかのように感じました。


 ーーじゃあ、依頼はどこから?


 私の中で急に疑問が大きくなりました。お師匠さまは確かあの時、「領主の依頼」と言っていました。しかし、領主の依頼が経由するはずのサイモンは把握していなかった。これは、話が違ってきそうです。


 つまり、今の話から整理すると、『領主がサイモンには内緒で直々に依頼してきた』か『別の者が領主のふりをして依頼してきた』可能性が出てきました。


 竜について依頼主に確認する想定で本日はここにやって参りましたが、依頼主が不明となった今、確認する術がありません。


 これは困りましたね。


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