早速の緊急事態?
指さす方向を見て、私は再び驚きます。
向こうに黒い狼煙があがっているのが見えました。
◇◇◇
「狼煙が挙がっています!」
私は驚き、口元を押さえてしまいました。
レイバーが首を傾げます。
「訓練かな? と思って君に確認しに来たのだけど、君も把握してなさそうだね。事前通告もないとなると……あれってつまり」
「今まさに、非常事態が発生……」
「してる。ということか」
以前私が考案した狼煙での伝達方法は、既に現地にて導入されています。
領地境界付近に侵入者が現れた場合、白黒の色分けにて人数を伝える方法です。
「境界で何かあったんだね。黒が一本だけか。となると、敵の数は10人程度か」
「ええ、こちらの境界警備隊の人数がやや少ないので、今ごろ城から何人か追加で向かい始めているでしょう」
「それならいいけどね」
レイバーは現場方面を眺めて、少し黙りました。
不安を感じているのでしょうか?私が覗き込むと、レイバーは私の心配とは裏腹に、何故か笑みを浮かべていました。
目が合うと、レイバーは茶目っ気のある顔してこう言いました。
「ねえ、今から現地に行ってみない?」
「……え?」
聞き間違いでしょうか?「……え?!」と、もう一度聞き返してしまいました。
「まさか……本気で言ってます?」
「僕はいつでも本気さ。だって心配だろ?」
「心配ではありますが、危ないですよ?」
「でも、気になるだろ?」
「ま、まあ気にはなりますが……」
「僕は、好奇心旺盛な君が気にならないはずがないと思うんだ。どうせあれだろ? 気になってしまった以上、後で僕が返った後に一人で調査を始めるだろ?」
「……ま、まぁ?」
否定はできません。ちょっと見に行きたいと思い始めてしまっています。
「ほらね、やっぱり。なら、僕と一緒にいこうよ。君のことだしある程度は身を守る術をしっているだろうし。僕も護身用品は持っていくよ」
ここまで言われてしまっては、後戻りできなさそうです。
自制心よりも好奇心の方が勝ってきた自分にあきれつつも、私はレイバーにそそのかされるままに、現地に向かう準備を始めてしまいました。
◇◇◇
私達は領地の境界に向かって、北を目指して進みました。馬車を乗り換え、川に近い岩山のような場所までやってきました。
ここに来るのは久しぶりです。お師匠さまが行方不明になった場所の近くでもあり、私は少しだけ胸がきゅっとしました。
しばらく歩くと、見慣れた隊服の集団が見えました。
境界警備隊です。なんだか物々しい雰囲気をしています。
どうやら、数人と境界付近で言い合いになっているようです。
岩に隠れつつ、目を凝らしました。
「あの人たちは?」
「あれは……」
レイバーも呟きながら目を凝らします。ほんの数秒後、少しレイバーの声色が明るくなりました。
「あの服装は僕の領地の服装だ! ん?……でも、一般人のようだね。それに
なんだかただ事ではない雰囲気だ。何があったんだろう」
少し喜んだのも束の間、レイバーの口調がどんどん暗くなっていきました。
私はその場でしばらく様子を窺うことにしました。
聞き耳をたてていると会話が聞こえてきます。どうやら私達がゆっくり向かっている間に、隣領の数人が囚われてしまったようです。
「……だから……!」
囚われている彼らから何かが聞こえてきます。
何かを必死に伝えているようです。可愛そうに思ったのも束の間、私は自分の耳を疑いました。
会話の中で「竜」という言葉が出てきたからです。
「……だから、竜が……」
やはり竜と聞こえます。
竜の話をしている?
何度聞いても、「竜」と聞こえます。
私は視界が急に晴れたように感じました。
大変不謹慎ではある状況ですが、私はとても嬉しさが込み上げてきてしまいました。
今まで、お師匠さまの手がかりを探してきました。ただ、竜に関しては領主の極秘依頼であるため、周囲に話すことが出来ませんでした。
それに、やんわりと竜の話題をしてみても、おとぎ話の世界の話だと思われて、相手にもされません。
私にとって、始めて竜について話に出している人に出会えたのです。
これが私にとってどれだけ大きなことか。
しかし、ここは距離が遠く、竜という単語と共に何を言っているのか、聞こえません。
ーーもっと聞きたい。何か手がかりを掴めるかもしない。
気づけば、私は必死に止めるレイバーを振り切って、警備隊の所に向かっていってしまいました。




