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機械仕掛けの情報屋 〜異世界の大好きなお師匠様〜  作者: ビオラン
お城の部屋にて

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実験

「狼煙……だっけ?」


 レイバーは荷車から、着火できそうな木材を取り出します。

「はい。狼煙を少しアレンジするのです。これなら、元々荷物に入っていますし、皆さん扱いやすいかと思いまして」


「新しく難しい機材を使うわけでは無いのはありがたいね。では、僕は火を起こすために木を組んでいくよ。”50人”だから狼煙の土台は何か所だっけ?」

「3か所ですね、煙が混じりにくいように間を空けてください」

「わかった。」


 レイバーが気を組み、火をつける土台を用意してくれます。その間、私は出来上がった土台に一つ一つ、細工施していきました。

 3か所に火を起こす土台が出来上がります。実際に目にすると少し場所をとりそうな印象ですね。それに、多少普通の狼煙より数が多いので手間はかかります。ただ、領地の境界から走って伝えに来る労力よりは比較的マシかと思いますのでこれは致し方ありません。


「レイバーさん、これで準備は出来ました。後は火をつけるだけです」

「ついに始まるんだね! では着火していこう」

 レイバーは期待に満ちた目でうなずくと、手早く着火作業をしていきました。


 レイバーが用意した火種から炎を移していきます。次々に火が付くと、それぞれもくもくと煙を出し始めました。

 しばらくすると段々と煙の出る量は多くなります。今日は幸いにも強風はないので、順調に空へと煙が立ち昇っていきます。

 この様子だと、狼煙としては問題なく使用できそうです。そして、私の細工も無事に機能したのか、煙は独特な様子を見せ始めました。


「僕はね、とても面白い案だと思ったよ。だって、まさか狼煙でこんな使い方をするなんて、誰が思いついただろう」


◇◇


 私達の目の前にある狼煙はただの狼煙ではありません。いえ、普通の狼煙ですが少し見た目が違うだけなのです。


 ーーそう、狼煙の色が「黒」と「白」の二色であること以外は普通の狼煙です。


「まさか、ただの狼煙と思っていたのだけど……本当に色が変わるなんてね」

レイバーは見上げながら、感心したように呟きました。

「ええ。少し燃やし方に工夫をしたのです」


 今回私は狼煙に工夫を2つ行いました。

 一つは狼煙の色、もう一つは狼煙の色から情報を得る方法の伝授です。

レイバーは煙と炎をまじまじと見ています。


「白い狼煙の方は従来通りの作業に加えて、少し湿った藁などを追加したくらいなんだけど……黒い方は一体どうやって出したんだい?」

「こちらは、少し狭い囲いをした上で、油類を使って燃やしています。不完全燃焼にすることで黒い煙を出す仕組みなのです」


 目の前にはもくもくと黒い煙が立ち昇っています。

「燃やす物で色が変わるなんて不思議だ」

 レイバーは黒い煙を出す台をまじまじと見つめました。


「あまり近づくと危ないですよ?火の勢いが強いですし」

「だって、黒と白の煙が出るなんて面白いじゃないか。それにこの煙の色を使って……この後は暗号のように伝達をするんだろ? 僕には思いつきもしないや」

「ええ。そうです。では伝達方法をおさらいしましょう」


 今回は燃やす位置を3か所用意しました。

 全て燃やしているのですが、横並びに黒い煙と白い煙、黒い煙の順となっています。


「煙の並びは、何故こうなっているのだと思いますか?」

「えーっと、確かこの2種類の色と、並び方がポイントなんだったよね? 白と黒で数字を表すんだったっけ」


「正解です。

 白黒の二つに分けることで、”0”と”1”を表すことができるのです。

 これは二進数と一般には言われていて、本来は1から10までの十進数で表示られる数字を0と1で変換できるのです」


「だから、たとえば本来なら10種類の記号が必要でも、二つの数字を用意するだけで数字が伝えられちゃうんだね」


「そうなのです。

 今回は白を0、黒を1とみなします。

 さらに、1の位は無視するルールとします。


 すると、今回は50人の想定だったので、二進数に換算すると5は101となります。

 101は色に変換すると”黒”と”白”と”黒”となるのです」


「少し難しいけど、変換方法の一覧を紙で書いてくれてるのでこれを見れば分かりやすいね」

「ええ。これで、10人以上100人未満までは敵の人数を伝にえることが出来るのです。


 10人以下については0(二進数で0=白)として扱って知らせることもできますし、

 逆に100人以上の大規模な進軍については10(二進数で1010=黒白黒白)として応急的に伝えれば良いでしょう」


「いやあ、これは素晴らしい。あとは、城の監視をしている人にきちんと数が伝わっていれば成功だね」

「はい。多少天候に左右されますがないよりはいいでしょう。夜間などは同じようにして松明の炎を色を変えるなどすれば伝わるかもしれませんね」

「それは良い案だ。また今度続きを聞きたいよ」


 しばらく待っていると、早馬で知らせが届きました。どうやら城からきちんと狼煙の煙が確認できたようです。


 そして、サイモンからの手紙を預かりました。

 手紙には私達の狼煙を見て実際にサイモンに伝えられた人数が記載されているとのことです。

 ここに記載されている数字が50人であれば、実験は成功となります。


 急に心臓がドキドキと脈打つ感じがしました。これは、緊張している方のドキドキですね。

 振り向くと、レイバーも少し緊張しているのか顔がこわばっています。


 私達は顔を見合わせると、恐る恐る手紙を開きました。

「せーの!」と掛け声と共に手紙を覗き込みます。


 そこには……「敵は50人ですね」という文が書かれていました。


 ーー正解です。


 私達は二人して肩をなでおろしました。


「実験は……成功したようですね」

 どうやら狼煙と二進数を駆使して敵の数を知らせる方法は無事上手くいったようです。


「なんだか、僕は狼煙をあげる時よりも手紙を開く方が緊張したよ」

 レイバーはふぅーっと息をつくと、ドカッと地面に座りました。

 私も手に汗を握ってしまいました。


 今回は領地内の比較的領主の城から近い場所で行ったので、目視での確認がしやすかったとはいえ、先ずは実験の成功に安堵しました。

 あとは、実際の領地の境界付近で無事機能してくれるよう改良を加えるのみです。


◇◇

 後日サイモンから「実験が成功したので、ぜひ現地で狼煙を活用したい」との連絡がありました。どうやらすぐにでも境界警備隊で使用をするらしいです。


 あの実験の後、警備隊の方々に使用方法や伝達方法をお教えしました。

 上手く機能するか少し心配ではありますが、現段階での最善方法をお伝え出来たはずなのですから、自信を持つようにしましょう。勿論、新しい方法があれば、今後も情報を提供できるよう努めますがね。

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― 新着の感想 ―
 二進数ですか・・・  上手く伝達出来て良かったですね。
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