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機械仕掛けの情報屋 〜異世界の大好きなお師匠様〜  作者: ビオラン
お城の部屋にて

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領主のお願い


 私の手には不意に感触がありました。ハッと我に返ったところで視界を手元に移します。領主が私の手を勝手に取り、両手でぎゅっと包み込んだようです。


「で? 私のお願いは聞いてくれるのか?」

 先程まで立っていたはずの領主は、気づけば私のすぐ横に肩を並べるように座っていました。いつの間にか椅子が用意され、美しい顔が横から私を除き込んでいます。


 至近距離で銀色の瞳に見つめてられて、再び緊張で身体がこわばりました。


「あ……あの?」

 精一杯声を絞り出すと、領主はクスリと笑いました。

「すまない、状況を把握できずに困惑してしまったか」

 領主はサイモンに目線を向けると、「人払いを」と言いました。


……何が始まるのでしょうか?


「そんなに身構えなくていい」

 私の様子を見て、領主は今度は優しく微笑みました。私の手を放すと、肩ひじを机にたて、机に頬杖をつきました。

 先程よりも少しくだけだ様子に見えます。


「いや、実はな。クラートの可愛い弟子である君に、力を借りたいんだ」

「私の……?」


 どういうことでしょうか?


「あのクラートが選んだ人材に興味が湧いてな。丁度、相談事もあったので君に依頼をしてみようと思ったのだ。……まあ、力試しというやつだ」

「力試し……ですか」

「ああ。突然で驚いたと思うが、協力してくれないだろうか?」

 力試しなんて言われたら、受けて立つしかないでしょう。お師匠さまの顔に泥を塗るわけにいきませんし。そもそも、領主のお願いを断ることなんてできません。


「それは、私に断る余地はないようにお見受けしますが……」

 私が返事すると、領主は少し噴き出すかのようにハッと笑いました。


「君はクラートと似たような返事をするのだな。あいつも、”私に拒否権はないのでしょう?”と毒を吐きつつ渋々依頼を受けていた。まあ、そうだな。是非、君にも嫌がらずに私の依頼を受けてもらおう」

 お師匠さまと同じ反応なんて身に余る光栄です。この流れでお師匠さまが毎度依頼を受けていたのであれば、私も受けるべきでしょう。


 私はゆっくりと頷きました。

「では、私の相談に乗ってくれるということでいいか?」

「はい。精一杯やらせていただきます」


「それは心強い。ちなみに、クラートがいたら、奴は余計な口出しをしそうだからな。退出してもらった」

 ああ、だからレイバーは退出させられたのですね。別人だとばれて恐ろしい目にあうことなどが無いようで、私は少し安心しました。

「本当にあいつは弟子に対しては本当に過保護だからな。力試しなんて言おうものなら、危険だなんだうるさくて仕方ないだろう」

 「そうなのですね。」私は苦笑いをしておきました。でも、内心はお師匠さまが私を大切にしてくださっていたことを知って、少し口元が緩くなるのを必死にこらえてしまいます。


「では、本題に入るぞ」

 領地の声のトーンが少し落ち着いたので、私は背筋を伸ばし直しました。

「はい、お聞かせください」


「依頼の内容だが、今回は迅速に敵兵の数を把握する方法を知りたいのだ」

「兵の人数……ですか?」

 意外な内容です。平民街とは違い、貴族らしくも感じます。

「ああ。最近我が領の境界付近に、隣領の兵士と思われる集団が度々やってくるのだ」

「そんなことが……」

「今は攻撃を仕掛けてくる様子は無いので、ただ様子を見守るしかない。しかし、ここで問題は、日ごとに来る人数が変わることだ。先日は大勢で来たこともあって一触即発の危機でもあった。

 こちらとしてはいつ大群で攻められるか気が気ではない。今は数人の兵士を境界に配置しているが、もし戦いとなった際には、我が領の兵士を敵の人数と少なくとも同程度、すぐに集める必要があるのだ」

「確かに今の人による伝達方法では、時間差ができてしまいますものね」

「だから、早く人数を知らせる方法がほしい」

「なるほど……」

「今すぐにとは言わない。ただ、いつ何時攻めてくるか分からない今、解決方法は早く見つかるに越したことはない。何か良い案があれば教えてくれ」


 私が過去に依頼を個人的に受けたことな無い内容です。大変難しそうですが、この領地の安全を考えると、お受けしなければならないと感じます。


「はい、かしこまりました。私も領地の皆さまの安全が脅かされる事態は避けたいので、力の限り協力させていただきます」

「よろしく頼む。何か必要なものがあれば、気軽にいいたまえ」

 領主は頼んだと言いたげな様子で私を見ました。


「お気遣い痛み入ります。ちなみに、お師匠さまにこのご依頼のことは話しても?」

「構わない。あいつも力試しのことは察しているだろう。ただ、うるさいので余計な口を挟まないようくれぐれも伝えておいてくれ」

 私はクスッと笑って「はい」と返しておきました。

「では、私は戻って一度情報を集めさせていただきたいと思いますが……」

「ああ、そうだな。仕方ない」

 領主はそう言うと、パチンと指を鳴らしました。

 サイモンが一時姿を消したと思うと、使用人と思われる人々が続々と入ってきます。使用人に密偵がいる可能性もあるので人払いをしたのかもしれませんね。


 ということは、大事な話は以上なのでしょう。


「あまりに君を独占していては、クラートが怒りだすだろう。そろそろ解放してあげなくてはな。あいつは思ったより独占欲が強い」


 そう言うと、領主はサイモンに私を元の部屋に送るよう言いました。

 気づけは、領主は先程より姿勢を正しており、領主を取り巻く穏やかな空気は無くなっていました。

 どうやら私はやっとこの場を離れることを許されたようです。私は丁寧にお辞儀をして、この場を離れることにしました。


 別れ際、領主は私に「クラートの風邪が治ればいいな」と言いました。


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