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機械仕掛けの情報屋 〜異世界の大好きなお師匠様〜  作者: ビオラン
お城の部屋にて

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32/41

領主様とお師匠さま

 私達の部屋はどうやら、屋敷の廊下の一角にあったようです。何の変哲もない他の部屋の扉と同様のデザインで、帰りは部屋を間違えてしまいそうです。扉に厳重な鍵があるのが唯一の違いでした。


 建物を歩いていくと、メインの建物に入ったのか、次第に豪華さが増していきました。白く洗練された大理石の床に、目を見張るような調度品。私は浮足立つ気持ちを抑えられず、再びキョロキョロと周囲を見てしまいました。想像以上に立派な空間に圧倒されてしまいます。

 私が楽しそうに周囲を見回しているのを察したのか、サイモンは微笑ましいと言わんばかりの顔をしてきました。

「あ、すみません。また私ときたら……」

「いいんですよ。少しだけ時間がありますし、見ていきますか?」


 サイモンはその後、遠回りをして敷地内を軽く案内してくれました。


「ああ、そうそう。あちらは領主様の居住空間になります。まぁ、あなたなら今後入ることはいくらでもありましょうが、使用人にも立ち入りが禁止された区域があるのでお気を付けくださいね」

 サイモンが指をさす方向には、別棟への渡り廊下がありました。私が今後入る機会があるということはきっと、お師匠さまもあちらでお仕事をされていたのでしょうね。



「さぁ、ここです」


 前をゆくサイモンの足が止まりました。大きな扉を開けると、向こう側から光が眩しく差し込んできました。どうやら外に出たようです。

 お城の庭でしょうか。トピアリーが整然と並び、石が道のように敷き詰められていました。綺麗に手入れされた花々が、黄色の絨毯のように広がり、木々がそれらを敷居のように囲っていて、自然の部屋のような印象を与えています。

 道中で見る限り、木々で部屋のように囲まれた空間がいくつかあるようでした。

 サイモンはバラに囲まれた空間に差し掛かると、「ここでお待ちください」といいました。そして、「失礼します。閣下、お客様をお連れしました」と言うと中に入っていきました。何かを話しているのか、会話が聞こえたあと、しばらくして、奥から「お入りください」と声が聞こえます。

 私は身だしなみをサッと整えると、レイバーと主に入りました。


 中はバラに囲まれた空間で、中央に丸いテーブルがありました。その傍らに、一人の男性が座っています。優美さが漂う横顔に、質の高い生地と丁寧な縫製の服、気品のある佇まいに、一瞬でこの人が領主であると分かりました。歳はお師匠さまとレイバーの間くらいでしょうか。

 肩の辺りまで伸ばした長めの黒髪は、以前事件を起こしたデリックとは全くといって良いほど違い艶やかで、銀色の瞳は磨かれた宝飾品を思わせる輝きを放っています。


 私達が入るのに気付いたのか領主はこちらに顔を向けると、低く威厳を感じさせる声で「ああ、君たちか」と言いました。無表情ながらも、目は私達をしっかりと見据えています。私は口の中が乾きそうなのを我慢しました。

「お初にお目にかかります。こちらは、アトリアのクラート。わたくしは弟子のフィリーでございます。本日は私が声を発せぬクラートの代弁をいたします」

 私はニコリを微笑むと丁寧にお辞儀をしました。

 貴族のマナーは、お師匠さまの貴族部屋で私の脳内辞書に入れておいたので、完璧なはずです。しかし、資料の知識だけで上手く切り抜けられるかは心配なので、笑顔の反面、内心はすごく鼓動が早くなっていました。


 私はちらりとレイバーを横目に見ると、レイバーもお辞儀をして顔を下げつつも少しばかり緊張しているようでした。


 「こちらに」と声が聞こえたので、顔を上げて恐る恐る近づきます。領主はスッと立ち上がると、先ずレイバーの方へ向かいました。

「クラート、久々ではないか。例の頼んだ案件以降、行方不明とのことで心配したぞ。無事で安心したが、生きていたのなら少しは顔を出してくれても良かったのに」

 領主はレイバーの肩にポンと手を乗せました。レイバーのことを本当のお師匠と思っており、疑っている様子はありません。

 レイバーは少し困った顔で微笑み返しました。話せないのでこうするしかないでしょうしね。


 すると、領主は怪訝な顔をしました。


 不審に思われたのでしょうか?

 私の腹部にヒヤリとした感覚を覚えます。すぐさま私はフォローに入ろうと思って、レイバーと領主の間に入る体勢に入りました。

 しかし、私の警戒は無用だったようで、領主の怪訝そうな目つきは変わらずも、口元は元の穏やかさを取り戻しました。そして、少し茶化すように続けました。


「ん? クラート。お前はずいぶんと大人しくなったのだな。以前のお前であれば、私のことを子供扱いしたではないか。声を発さないとはいえ、肩を激しく叩き返すでもしそうなのに」


「えっ」


 私は意外な領主の言葉に、思わず声を出してしまいました。すぐさま、「し、失礼しました」と詫びました。領主の目は私に向きます。

 

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