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機械仕掛けの情報屋 〜異世界の大好きなお師匠様〜  作者: ビオラン
貴族とお師匠さまの置き土産

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27/41

宝箱は突然に


 呼ばれたため、慌ててクローゼットを閉めてレイバーの方に向かいました。


「はい、なんでしょうか?」

「いやね、クラートさんは化粧台を使うのかい?」

「まぁ……こんな仕事ですから……」

「変装でもするってことか。さすが情報屋だね。しかしなんだか台が分厚くないかい?」

「そんなものでは? 中に化粧品の入った引き出しもありますし……」

「ふーん、女性が言うならそんなもんなのかなぁ。それにしても立派な鏡だ」

 

そう言うと、レイバーは化粧台に備え付けてある椅子に腰かけ、鏡をのぞきました。


 と、その時です。


 化粧台から急に機械音がし始めました。


「え! 何!? 僕、何かした!?」

 レイバーが驚いて席を立つと、化粧台の中から勝手に引き出しが現れました。

 それも、化粧品の入っている引き出しではなく、その下の取っ手の無いスペースが動きだしたのです。

「なにこれ、引き出し?!」


 私とレイバーは驚いて、思わず化粧台の引き出しを覗き込みました。

 そこには、懐中時計のような金属製の円盤状の物体と、鍵が入っています。

「まさか、こんなところに引き出しがあるとは……知ってた? フィリー」

「いいえ。初めて見ます。まさか、長年ここにいるにも関わらず私の知らない仕掛けがあったなんて……」

 驚きのあまり、口を開けてしまいました。はしたないので慌てて手で口元を隠します。

「なんだって?! 君も知らないのかい?!」

「はい、だって知っていたらこんなに驚きませんもの」

「それもそうか! ははっ……これは面白い。では、この中に入っているものが、僕も君もこれが何かは知らないというわけだ」


 私は恐る恐る、引き出しの中の物を取り出してみました。金属の円盤は蓋のようになっていて、開けると時計のように目盛りのようなものが描かれています。

「目盛りか……中央に矢印の形をした針があるね。時計だろうか? いや、時計の割には芯が不安定で動く。目盛りも60刻みではないね」

「1、2……36あります。この数……もしかして、これは方位磁針ではないでしょうか?」

 私が色々な向きに動くと、矢印は一定方向を常に指していました。


「ビンゴだ、これは方位磁針らしい!」

 よく見ると東西南北を表すような装飾がされています。


「でも、おかしいですね。方位磁針でしたら、ずっと北を指しますが、この角度は北ではありません。西といったところでしょうか」

「方位磁針が狂っているのか? いや、君の師匠のことだ。壊れたものをこんなに厳重に保管する訳が無い」

「はい、お師匠さまは必ず修理するか廃棄するかされます。それに、見たところこれは機械で管理されています。この手の場合、何かしら重要なものを管理していると考えられます」

「じゃあ、クラートさんの貴重品であることは間違いないね」

「そうだと思います」


 だとすると、これは何でしょうか?

 アトリアの大抵のことは、お師匠さまから聞いていますが、これについては一切存じ上げません。

「鍵も一緒に入っているとはね」

 レイバーが鍵を興味深そうに観察しています。


 その間、私は化粧台を覗き込み、もう一度引き出しを開けることにしました。

 しかし……鍵がかかってしまったのか開きません。

 そういえば、先程レイバーが椅子に腰掛けた時に機械音がしました。もしや、椅子がトリガーになっているのかもしれません。

 同じく座ってみることにしました。

 ですが……化粧台はピクリとも動きません。


「レイバーさん、先程座った時に引き出しが開きましたよね? 他に何かされましたか?」

「ん? いや僕は何も。強いて言うなら鏡で自分の顔を見たくらいさ」

「そうですか……もう一度開けようと思ったのですが、開かなくて……でも、何がきっかけで引き出しが開いたのか分からないんです。同じように座っても反応しなくて……」

「うーん、何でだろう。もう一度再現してみよう」

 そう言うと、レイバーは再び化粧台の椅子に腰掛けました。

 するとどうでしょうか、化粧台からは再び機械音がし、引き出しが開いたのです。


「なんと! 僕だと反応するらしい。座る以外何もしていないが……」

「まあ! びっくりですね! でも……どうしてでしょう? 椅子に座るだけ、且つ、レイバーさんに該当する何かがトリガーになっているのでしょうか?」

「そのようだね。椅子で反応するもの……もしや体重かい?」

「確かに、重量の可能性はありますね。基準値以上でロックを解除するなど……」

 試しに、レイバーの体重を再現すべく、私はガラクタを抱えてレイバーと同じ体重の状態で座ってみました。

 しかし、化粧台はビクともしません。

「体重ではないのか? では、何なんだろうか」

 レイバーが立ちながら化粧台の鏡を不思議そうに覗き込みました。

 その時です、椅子に座ってもいないのに化粧台の引き出しが動き始めました。

「えぇ!? 椅子に座ってもいないのに!」

「まぁ! なぜ反応したのかしら」

「これは、椅子がトリガーではないということか! だとすると、あとは……この鏡かもしれない」

「鏡?」


「フィリー、この鏡に顔を映してみて」

「はい……?」

 言われた通り、鏡に顔を映してみます。なんの変哲もないただの鏡からは私の金色の目が見ています。

 化粧台は、案の定微動だにしません。レイバーはその様子を少し納得したように確認すると「代わって」と言い、私と同じく鏡に顔を覗かせました。


 すると、どうでしょう。

 化粧台がまた音を立てて動き出したのです。

「分かった。やはりこの鏡がトリガーなんだ。そして信じられないが、顔が鍵になっている可能性が高い」

「顔が鍵?」

「恐らく、この鏡で顔を判別しているようだ。驚いたな。顔認証なんて技術は聞いたことは無いが、この機械仕掛けの店を見る限りクラートさんなら入手していてもおかしくない」

「顔認証……」

「さらにこの様子だと……どうやら、僕の顔が何故か鍵になっているようだ」

「レイバーさんの顔が……?」

「ああ、僕の顔にだけ反応するのが証拠だ。何故僕の顔に反応したんだろう?」

 確かに、レイバーさんの顔に反応しているといえば納得はいきます。しかし、顔が鍵とはどういうことでしょう?


 そう思った直後、はたと気づきました。顔が鍵?


 レイバーさんの顔に反応した? お師匠さまの私物が?

 そんなの……


「そ……」

 それはきっとと言いかけて思わず黙った私を、レイバーは見逃しませんでした。

 次の瞬間には、レイバーの顔が間近に迫っています。詰め寄る顔にはお師匠さまそっくりの目が、私を訝しむように見つめています。


「その様子だと何か知っているようだね」


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