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機械仕掛けの情報屋 〜異世界の大好きなお師匠様〜  作者: ビオラン
貴族とお師匠さまの置き土産

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何気ない景色

「ここが、君のアジトだね!」

「アジト……まぁ、ただのお店ですけれどね」


 ここは情報屋アトリアの正面入り口です。

 建物を前に、レイバーが期待を込めた目でこちらを見ています。


 何故アトリアの前にいるのかと言いますと、レイバーにアトリアをご案内することになったからです。


 本来、外部の方をご案内するのは気が引けます。だって秘密が漏れてしまうかもしれないですし。

 ただ、今回は例外的にレイバーのみ許可することにしました。

 理由は至って簡単です。

 レイバーは信用に値すると判断したからです。


 あの後、私はお師匠さまのことなどをレイバーに打ち明けました。互いの手の内を明かし、いかに互いが信用できるかを証明し合うことにしたのです。

勿論、簡単に相手を信じはできません。

 なので、レイバーと私は互いが裏切らないように大事なものを預け合いました。レイバーは星の柄の指輪、私は最後にお師匠さまを見た望遠鏡です。いわゆる担保ですね。

 私達の性質上、情報戦に発展しないよう目に見えるものにしています。

これで、お互いに裏切れないようになったのです。


 なお、私が信頼に値すると感じたのには、もう一つ理由があります。私自身がレイバーから学びを得たということです。

 お師匠さまの話をした際、レイバーは大変同情してくださいました。特に、事件以降ずっとお師匠さまの帰りを待ち、探していることについて触れた際には、私のことを「健気だ……」と言って涙ながらに聞いてくださいました。そして、街で集めたお師匠さまの素晴らしい偉業話を沢山私に聞かせたり、アトリアの今後の方針を提案したりなど大変励ましてくださいました。

 正直なところ、そこまでしてくださるとは思ってもいなかったので驚きましたが、わざとではなく純粋に元気づけようとしてくださっている様子に大変感銘を受けました。


 それと同時に、私は気づいたのです。

 ーーなんて私は視野が狭いのかと。


 情報を扱っていると、暗い内容ばかり耳にします。特に御用聞きなので仕方ありません。だって、事件の際はその人物の悪癖などがどうしても注目されてしまいますから。しかし、世には悲報がある一方で朗報も勿論存在します。ただ、私は朗報は参考程度に収集する程度で、ただの情報としてしか認識していませんでした。でも、それではいけなかったようです。


ーー朗報こそ人の力になる。


 褒められて育つとはよく言ったもので、朗報は人のやる気を引き出します。

情報は収集するものでは無く、活かして初めて力を発揮するのです。レイバーはお師匠さまの情報を使って、私に元気を与えました。今まで情報を脅しのような形でしか使用していなかった私にとって、真逆の使い方に驚きを隠せませんでした。

 レイバーからお師匠さまの話を聞いて、初めて情報の価値に気付きました。

情報は人を喜ばせ、今後の発展に繋げます。

 お師匠さまの偉業の痕跡はまだこの世に沢山残っているのですから、失ったものを嘆くのではなく、痕跡を探して未来へ繋がればいいのです。


 お師匠さまを探して陰鬱な同じ毎日を過ごすのではなく、新しい情報屋のあり方を追求し、そろそろ前を向く頃なのでしょう。



 しばらく私達は話をし、互いの近況や価値観などを話し、お互いの手の内を明かすにつれ、段々と意気投合をしました。


 そして、アトリアの中を見学したいとのレイバー本人たっての希望だったので、私は連れてくることにしました。

 何かしないよう目を光らせていれば大丈夫でしょうし。



「お、すごく立派な椅子があるね」

 そう言うと、レイバーは店先にある椅子にレイバーが腰かけました。

お師匠さまがよく使っていた椅子です。何も知らないレイバーは座り心地を確かめると、少しリラックスしたように背もたれに身を任せ、景色を眺めました。


 何気ない光景ですね。

 そう、何気ない光景です。


 でも、その何気ない光景を見て、私は息を飲みました。

 だってお師匠さまのクラートが、まるでそこにいるように感じたからです。

 ぼんやりと椅子に座って考え事をしていらっしゃった時の様子が重なります。

 目の前にいるのがレイバーだと知っていても、見た目がそっくりなのでどうしてもお師匠さまに見えて仕方がありません。まるで生き写しですね。

「どうしたの?」

 私がボーっと見ていたからでしょうか。

 レイバーが少し不思議そうに尋ねました。

 お師匠さまと重ねて見てしまった私は、慌てて目をこすり、笑顔を作りました。


「い、いえ! さぁ中にご案内します!」

 私が店の扉を開けると、レイバーは何も知らず嬉しそうに中に入ります。

「いいね! 一見カフェのようで、ゆっくり中で他愛もない話で花が咲きそうだ!」

 レイバーはくるくると部屋を観察するように見て周ります。まるで踊っているような動きなので、私は少しクスリと笑ってしまいました。


 レイバーは部屋に備えてある機能にも興味津々です。

「そして、情報屋らしく資料も揃っていると。やや、何やらボタンがあるね」

「ああ、そのボタンは自動でお茶を出してくれるんです。その横のレバーは遠隔で棚の本を取ってくれます。他にも様々な機能のボタンがありますよ」

「はー! すごい! 多くが機械化されている! さすが機械仕掛けの情報屋と言われるだけあるね! 店そのものが機械のようだ!」

「そうでしょう? これは全てお師匠さまのクラートが用意したのですよ」

「それは素晴らしい! 君の師匠は本当に優秀だったんだね!」

「はい、それはもう」


 お師匠さまのことを褒めていただき、私は少し機嫌が良くなりました。

そうです。お師匠さまは素晴らしいのです。

 お師匠さまは唯一無二なのです。


 先程、お師匠さまとレイバーを重ねてしまっていた自分に喝を入れます。

目の前にいるのはレイバー。お師匠さまではありません。自分に言い聞かせました。


 そんな私の葛藤はつゆとも知らずしばらく店を見て回っていたレイバーでしたが、しばらくして、真面目な話になりました。



「では、僕と君の知見を合わせよう。僕らの目標はあの星と羽のマークにどんな意味があるのか。そして背後に誰がいるのかを突き止めること。そしてあわよくば、僕は復讐、君は師匠を助けることが最終目標になるだろう。これに異論は無いね?」

「はい。ありません」

「よし。では、現状を確認するとしよう。僕は星と羽のマークがある指輪を他領で見つけた。このタイプの指輪のデザインはこの領地特有であり、すぐにこの領地が関係していると分かった。しかし、商人に扮して貴族の装飾品を探しても似たマークは見られなかった」

「私は、お師匠さまを攫った竜の首輪にこの柄があったのを覚えています。その後、竜やお師匠さまの行方は分かっていません。領地内を捜索しても見つからないため、幽閉されているか他領にいらっしゃるかだと思っています。マークの出処についてはまだ不明です。私は平民街しか行けないので、平民街は徹底的に調査しましたがこの有様です」


「ふむ。それぞれの知見は以上だね。そして、僕らがそれ以上に唯一情報を聞き出せたのは、ミラージュ様達貴族でも知らないマークだったということ」

「そうですね、貴族が知らないマークというのが引っかかります」

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