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令嬢の雲隠れ7

「おや、フィーじゃないか!」


 声の方に振り向くと、誰か立っています。


「お師匠さ……ま?」


 私は少しドキリとしました。だって、遠くからはよく分かりませんが、銀髪に金色の目をした男性が近づいているからです。私のピンチに駆けつけてくれたのでしょうか。


 しかし、そんな私の淡い期待は虚しく、最愛のお師匠さまではないと直ぐに分かりました。


 近づくにつれて、知った姿が見えたのです。


「レイバー……さん?」

 なぜここに? 私の思考が一時的に停止します。


 直後、レイバーはさらに思考が止まるような発言をしました。

「これはこれはお騒がせしました。衛兵様。うちの部下が何かしましたでしょうか?」

「ぶ、部下?! 侵入者だと報告があったもので」

「それは失礼しました。大きなお屋敷で迷子になったようで……探していたのです」

「では、この者はレイバーの所の従業員だったのか? 」

「はい。うちのフィーはなんせまだ新人のため、お客様の相手もままならないのです。どうか許してやってください」

「これは失礼した」


 私は状況を把握できませんでした。何故ここにレイバーが?それに何故顔見知りのような会話を?頭が混乱してきます。


「さあ行くよ、フィー」


 あとは、レイバーに促されるまま、行動していたように思います。「僕に合わせて、新人商人のフリをして」と言われたので、それに徹し、気付けばレイバーが乗ってきたであろう馬車に乗って、屋敷の外に出ていました。


◇◇


 馬車の中で、私はレイバーと向かい合わせに座りました。私は状況がいまだつかめず、何を言うべきかも分からず、顔を俯けたままちらりとレイバーを見ることしか出来ませんでした。一方のレイバーはずっと窓の外を眺めています。


 そうした、微妙な空気がしばらく流れていきました。


 そしていくらか経った時、やっとレイバーが口を開きました。


「で、なんで君が貴族の屋敷にいたんだい?」

「……」


 何も答えることが出来ません。


「しかも何故あの屋敷?」

「……」

「もしや君の仕事の依頼か何かかい……?」

「……」


 レイバーの質問攻めが始まりましたが、私は何も答えませんでした。

 勿論極秘任務のため、口外できないからです。それに、警戒もしています。

 でも、一番の理由はただでさえ察しの良いレイバーなのだから、何を言ってもばれる気がしてとても怖かったからです。


 しばらく質問を続けたレイバーは、私が答える気が無いと知り、大きなため息をつきました。


「ねえ、僕は君をは助けたつもりなんだけど、なんで何も答えてくれないの?」

「……助けていただいたのは、本当に感謝しております。……でも、言えないこともあるのです」

「それは、恩人の僕にも言えないこと?」

「……はい」

 そう答えるのが精一杯でした。


「ふぅん」

 レイバーは面白くなさそうにしています。


 しばらくするとまたレイバーが口を開きました。

「君は警戒心が強いようだね。ならばこちらが君に興味がでるような情報を与えてみれば、心を開いてくれるかな?」

 そう言うと、私が「え?」と言うまえに、レイバーはにっこりと笑うと窓のカーテンを開けました。


 窓の景色は貴族街と平民街を隔てる門の中でした。

「検問をします」

 門番がそう言い、近寄ってきました。レイバーは門番に「やあ」と声を掛けます。

 すると、門番はレイバーの顔を見るなり慣れた様子で許可証を作り始めたのです。

「レイバーさん。ご苦労様です」

 そしてものの数分で門を通過し終えました。普通の人なら身分証明など時間がかかるところを、検閲など無くすんなり通過。いわゆる顔パスと言うものでしょう。顔パスは、余程の身分の方の許可が必要なはずです。


「あの門を顔パスですか……?」

「うん。僕にはね、あの門を通る許可が下りているんだ」

「許可と言うことは頻繁に貴族街に行かれているのですか?」

「うん。そうなるね」

「……」


 私はますます混乱ました。何故レイバーが許可を貰っているのかと。何者なのかと……。考えこんでいると、レイバーが面白そうにこちらを見ていました。


「僕のことが……気になる?」


 気にならないと言えば嘘になります。私は少し悔しいと思いながらも、情報屋をやるほどの自分の好奇心を抑えることが出来ず、思わずうなずいていました。

 すると、レイバーは嬉しそうにふふふっと笑いました。


 そして、私の横に座るなり一枚の紙を手渡してきました。私はそれを読み上げます。


「被服専門店『レイリー』 経営者 レイバー」

 どうやら名刺のようです。


「……レイバーは旅商人と言っていましたが、被服店の経営者でらっしゃるのですね?」

「そう。僕は被服関連を商売にしている旅商人。それも、貴族御用達のね」

「貴族御用達? では、平民街にいらっしゃるのは……仮の拠点か何かですか? 」

「ああ。布地がメインだから店は平民街にあって、呼ばれれば貴族街に向かう感じかな。手の内を明かすと、僕は表上旅商人だけど、正式には各地の貴族を相手にした貴族専門の旅商人なんだ」


 なるほど。少し納得がいきました。

 通りで特殊な雰囲気をされているなと思ったわけです。下町に似合わない上品な喋りをされますし、観察力や着眼点も鋭い。

 なにより先ほど貴族の屋敷に平然といらっしゃったのも理解できます。きっと営業にでも来ていたのでしょう。

「貴族御用達の店を経営なさってたんですね……この若さで素晴らしいです」

「まあね。そうせざるを得ない理由があるっちゃあるんだけどね」

「そうなのですか?」

 レイバーが意味ありげな回答をしたので、私がレイバーの顔を見上げると、少し気まずい顔をされてしまいました。今は話したくない。と言う、ことですね。



「ところでだけど!」


 レイバーは仕切り直したように、表情をコロッと変え笑顔を作ると私にこう聞きました。


「僕はこんなにも手の内を明かしたよ? 情報は対等がいいと思うんだけど、君は何か僕に教えてくれないの?」


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