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令嬢の雲隠れ5

「ん? 質問が抽象的だな。不穏な動きなんぞ日常茶飯事だが」

「よくある……と?」

「ああ。例えば……没落した家では、一家で姿を晦ますこともあるしな」


 なるほど、そういったパターンも考えられますね。しかし、ミラージュの家は没落していないため、このパターンには当てはまらないでしょう。


「では、質問を少し限定的にしよう。名前は出せないが中級貴族間でなにか異変を見にしたことは? 例えば……令嬢の誘拐など」

「特定の個人の行方不明か。中級貴族は把握してはいないが……」

「本当に把握していないのか? 君ともあろう人が?」

「……さては、私達がそれに加担していると言いたいのか」

「いや、事実の確認だよ。君の世界の抜け道の番人、または裏にいらっしゃるだろう偉い人が把握していなかな。と、思ってね」

「貴様、俺のことをそこまで知っていて……」


 ジュールが睨んできました。が、こちらも負けていられないため、ニコリと笑って流します。

 睨んでも意味が無いと悟ったのか、ジュールはため息をつきました。


「中級貴族間での最近の取引は情報が入っていない。俺らの管轄ではないだろう。残念だが、他を当たった方がいい」

「そうか……」


 少し申し訳なさそうにしたため、この方の記憶には無いようです。非常に残念ですが、この方が言うのですから、間違いないでしょう。


 諦めて手を緩めた矢先、ジェールがふと口を開きました。


「そういやあんた、先生の例のお探しものは見つかったのか?」


「お探しもの?」


「先生の師匠の、クラートだっけな。あいつがいなくなって結構経つよな?」

「そうだが……」

「先生は諦めもせず探しているようだが、さすがにそろそろくたばっちまってんじゃないか? まあ俺としては厄介な奴が消えてくれて清々するがな」

「何……?」

「所詮頭がいいだけで、自分では何もできないひ弱な野郎だったって訳だ。探すだけ無駄だろ。口ほどにもない野郎だ」


「貴……様……!」


 思わず私は相手の胸倉を掴みました。身体が熱く煮えたぎるような感覚がします。先生を侮辱したジェールに対して私に怒りの感情が現れたようです。


「だって、そうだろう? こんな仕事してんのに簡単に攫われちまうなんて、弱いに決まっている。そんな奴はきっとどこかで野垂れ死にしてやがるぜ」


 ジェールはこちらが怒ったのに気付くと楽しむように挑発してきました。この人はこうして人を翻弄するのが得意です。そのため、挑発に乗ってはいけないのですが、そう分かりつつも、私はお師匠さまを冒涜された怒りの感情が止まりません。


「貴様、好き勝手言いやがって! その口がきけないようにしてやろうか!?」


 ついに私は怒りに任せて、私は思わずジェールの首元に手を置きました。


 しかし、ふと脳裏にお師匠さまとの会話の記憶が蘇ってきました。


「いいかい、フィリー。どれだけ怒りや憎しみに支配されても、行動を間違ってはいけない。常に一歩引いて自分を見るんだ。感情や感覚は時に自分を狂わせるからね」

「はい、お師匠さま」

「特に一時の怒りに任せて人を傷つけるなんてあってはならないよ。僕たちは平和のために仕事をしているのだからね」

「はい。でも、お師匠さまのように上手くできるでしょうか……」

「君は情報屋だ。情報で戦えばいい。多くの知識を持つ君は自分の行動の一つ一つにがどう影響するか知っているはずなんだ。」


 お師匠様との会話を思い出し、私は手を話しました。大きく深呼吸をします。


 ジュールは拍子抜けした顔で私を見ていました。


「挑発に乗らないとは、面白い奴だな」

「遊ばないでもらいたい」

「ほう、随分と余裕ができたものだ。さて、もう用がないなら早く解放してほしいんだが?」


 私は再び自分の胸元のポケットに手を入れます。

「いや、別件があるんだ。……この印に記憶は?」


 気を取り直して、私は一枚の紙を見せました。


 ジェールは訝しげに紙を確認しました。

「星の……マークか?」

「これは、前日とある貴族がつけていてな。人探しだ」


 噓です。紙に書かれているのは特殊な星のマークです。これは、お師匠様を拐った竜の首元にあった印を私が模写したものです。貴族のオリバーがつけていた指輪に似た印があったため、もしや貴族に関わるジュールであれば何かご存知なのではと思い、この機に聞いてみることにしたのです。貴族に何かしら関与していると私は目星をつけています。


 ジェールからはまだ解放してくれないのかと目で訴えられましたが、ここからが私の本命です。逃げられては敵いません。


 さて、どういった返答が返ってくるのか……少しドキドキしていると、思いのほかジェールからはすぐに答えが返ってきました。


「これは……貴族の紋章だな」

「貴族の紋章?」

「ああ、貴族がよく指輪や家具にあしらっているものだな。やつら、家紋とは別に紋章があるらしい」

「家紋ではない……と。この紋章の意味は分かるか?」

「家紋との違いは分からん。俺は仕事の関係多くの貴金属に紋章をあしらうが、家紋意外の紋章の意味は知らされていない」

「では、家紋の意味までは把握していないと? しかし、一度くらい目にはするだろう」

「一度きいたことがあるが、ごまかされた」

「ごまかされたとは。何も知らずに今まで発注していたのか?」

「ああ。問答無用で渡されるからな」


 なるほど、貴族には極秘での発注も受けていたのでしょう。


 私はイチかバチかかけてみることにしました。


「では、この紋章自体に見覚えは?」

「……」

 黙った。それは即ち、このマークに見覚えがあるのですね。


「この紋章の所有者は?」


「口止めされている」


ーーと、いうことは……持ち主がいる。


 ばぁっと目の前に一筋の光が見えたように感じました。

 緊張をしているのか、心持ち手が震えます。


「それ以上の質問は、答えられない。知りたければ別を探るんだな」

「……十分だ。ありがとう」


 この紋章には持ち主がいます。そしてその人が何かしらの情報に繋がっている。

……少しだけ手がかりを掴んだような気がしました。


「質問は以上だ」

 私が手をどけると、ジュールはホッとしたようにため息をつきました。


◇◇◇◇◇◇


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