表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/31

令嬢の雲隠れ4

 ある晩、貴族門近くの屋上に全身黒づくめの少女が立っていました。少女は門に現れた馬車に静かに降り立つと、物音一つ立てず馬車の扉を開けます。そして、中にいた男性が驚く声を発する前に、手を首元に当てました。


「騒ぐと、どうなるか分かる?」

 男性は黙って両手を上げました。

 馬車に乗っていたのは貴族相手に商売を行う出入りの商人です。名前はジェール。主な販売品は装飾品で、それも宝石の類です。


「やあ、こんばんは。驚かしてしまったね。少し協力してほしいことがあるんだ」

「……また、あんたか」


 少女が話しかけると、聞き馴染みのある声だったようで、呆れたように男性は返事をしました。


「私にはイーラという名前がある。それに、ひどい反応だな。そこまで邪魔をしているつもりはないんだけど?」

「事あるごとに、俺の所に来るのはよしてくれよ。……どうせ、あいつの差し金だろう?」


「あいつではない。フィリー先生だ」


「はいはい。……で、フィリー先生がまたあんたを使って俺に取り調べをさせようってか?」

「お前がフィリー先生の前で素直に暴露すれば、こんなことをしなくて済むんだけどな?」

「よしてくれ。あんな街の井戸端会議で、誰が馬鹿正直に話すかよ」

「だからこうして、遠慮も無く話せる環境をえらんで来てやってるんじゃないか。領地内の裏情報を提供させる対価として、特別に悪事には目を瞑るとフィリー先生もおっしゃっている」

「だからってな、いつも……いつもいつも!突然現れては脅迫してくんのはやめろ!情報をせがむにしてもやり方ってもんがあるだろ?!」


「だが、こうでもしないと顔さえ合わせてくれないだろ?」

「ぐっ……」


 ジェールが脅迫されているのを忘れているかのように、声を荒げ始めたため、イーラは少し手に力を入れました。


「私達から逃げられるとでも思っているのか? フィリー先生は全て把握しているぞ? お前が本来何に加担しているのかもな」


「……ちっ」

 ジェールが舌打ちと共に睨んできます。


「そういえばジェール、君には最近こんな噂が流れているな。なんでも、領地内の採掘量が減ったので、他領から破格の値段で仕入れているとか……その入手方法は一体どんな手を使っているんだろうな。閉鎖的なこの領地で不正無しとは、言い難いが……な? 」


 イーラが面白そうにニヤリと微笑みながら述べると、ジェールは少し目線を逸らしてきました。これは図星のようです。


「フィリー先生は、門番からの通行履歴などで証拠も得ていた。販売量と門での通過量の差は明白だとかなんとか言いながらな」


 さらに、イーラはフィリーの口調や顔を真似しながら、たたみかけるようにこう言いました。


「”その他、情報はいくらでも仕入れております。これら情報を街の治安部隊に漏らされたくなければ、私に従っていただきますね?”と、先生はおっしゃっていたが?」


 イーラによるフィリーの真似が上手く、一瞬ジェールはギョッとしたような顔をしました。


 そして、しばらくイーラを睨むと観念したようにため息をつき、手をヒラヒラとさせこう言いました。


「俺の負けか……分かった、協力しよう」


 イーラはフィリーと似た顔で、にっこりと微笑みました。


 実はこのイーラ。実在の人物ではありません。

 だって、黒い髪に黒い瞳。黒いフードを深く被ったこの少女イーラは変装後の私なのですから。



 アトリアの閉店後、私はベリーシャの時と同じく変装を行いました。店の奥で今回は黒いレバーを引き、変装用具を用意します。ちなみにアトリアは機械仕掛けの情報屋と言われており、レバーでそれぞれ壁を用途別に変化できます。例えば、黄色は壁を書斎に、緑は機械保管庫にするなど。なお、今回の黒いレバーは主に変装などの用品の保管庫になります。


 今回は夜闇に紛れる必要があるため、私は一つの箱の中から黒いウィッグと黒いカラーコンタクトを取り出しました。金髪の髪をまとめて黒い髪の中に隠し、目立つ金色の瞳も黒のコンタクトで存在を隠します。黒い動きやすい服装に着替え、装備を付けて完成です。


 準備が整った私はお師匠様が用意していた、領地各所に繋がる隠し通路を使い外に出ました。お師匠さまの話しでは、貴族街の中にもつながっているそうですが、残念ながら秘密の通路の引継ぎをする前に行方不明になられたので、私は存じ上げません。


 貴族門に近い出口から建物の屋上に登ると、貴族門の出入りが最も観察できる門付近で待機することにしました。


 しばらく待つと、一台の馬車が貴族街から出てきます。私はそっと近づくと馬車に乗り込み……今に至ります。


 何故、このようにイーラになりすますなど、回りくどいことをしているのかには理由があります。

 ジェールは、イーラでないと話してくれないからです。


 実は、ジェールは私の貴重な情報収集源の一人です。この方は、この辺一帯では有力な商人である反面、悪い噂も耐えず、裏で門や行政施設が把握していない極秘ルートでの商売にも手を出しています。その為、闇の取引に関してはこの方ほど詳しい方はいません。

 アトリアの素顔のフィリーも、日頃はお世話になっていますが……フィリーには偽善者の印象があり抵抗があるのか、表面上の情報ばかりで中々腹を割って話してくださいません。


 そのため、闇のある人間イーラに扮することで、強制的に情報を得る……あ、いえ、頂戴することにしているのです。


 イーラに変装した私は、ミラージュに関する質問に移りました。

「ご協力ありがとう。では……単刀直入に聞く。最近、貴族街で不穏な動きは?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ