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令嬢の雲隠れ3


「さっき店に来た人はお客さん?」

 ニコリとほほ笑んだ顔。お師匠さまと似た顔が私に質問してきます。少しドキッとしてしまった自分を隠しつつ、私は返事をしました。

「……そうですね」

「店を貸し切ってまで対応をするのかい?」

「……」

 さすが商人といったところでしょうか。観察力に尊敬します。ただ、こちらもプロですから、ニコリと眉一つ変えずに返答しました。

「個人的にカウンセリングをしていたのですよ。お薬や生活の改善など……たまにあるのです」

「ふうん、そうなんだ」

 青年は納得したように、頷きました。上手くはぐらかせたようです。私が安心した矢先、レイバーはこう言いました。

「あ、じゃ、ねえ! 昨晩どこかに出かけた?」

 昨晩……? 急にひやりとした感覚に襲われます。先ほどから痛いところをついてこられますね。確かに昨晩はバイトに出かけました。しかし、完璧に変装をしていたので、私だとは認識されないはずです。でもこの質問があるとは……バレた? 変装の質が悪かったのでしょうか。

「いいえ」

 表情に焦りを出さないようにしつつ、とぼけることにしました。

「そっかぁ。なんかアトリアの辺りを女の人が通った気がしたんだけど。……髪が赤い人だったから人違いかな」

 どうやら、店を出かけた時に見られていたようです。失念していました。今度は秘密の入り口からでも出ることにしましょうか。

「ええ、どなたか別の方と勘違いしているのではないでしょうか? あ、そう言えば昨日は女性が夜訪ねて来られましたから、その方かもしれませんね」

「あ、じゃあその人かもしれないね」

 レイバーはニコリとほほ笑んで頷きます。害のなさそうな顔をしつつも、聞いてくる内容は確信に迫るものがあり、油断ならない感じがしています。私と友達になりたいとも言っていましたが、考えが読めません。友好的ではありますが、少し警戒をした方がいいでしょう。



◇◇◇◇◇◇



私は翌朝、私は領地の外へ繋がる大きな門まで向かいました。


オリバーの依頼を正式に引き受けて、先ず私は不審な人物の移動を調べることにしました。

このパンタシアという領地は、川と山、海により四方が囲まれています。山側には門があり、領地の外へ向かうには、その門を通過する必要があります。さらに、領地の街の中も壁に囲まれた貴族区画と、それ以外の平民の区画が門で分けられているため、貴族区画に行くには門を通過する必要があります。それぞれの門は南北に位置しています。

即ち、平民区画にいる私は今、門と門に挟まれた場所にいるという訳です。


なお、この領地の人物による領地外への移動には、門での身分証明の照合がされるため、人の往来は記録されています。

また、貴族区画の門に関しても貴族は身分証明が必要である上に、平民の通過は貴族の紹介制になっているのです。そのため、履歴が残るのです。

ですので、人の移動情報は門で仕入れるのが手っ取り早くなります。

それぞれの門番は、お師匠さまと顔見知りのため、私にも贔屓にしてくださいますから、情報を得るのは早いでしょう。


今回はまず、領地側の門番に会いに行きました。結論、ミラージュのような人物は見たことが無いとおっしゃいました。オリバーの証言をもとに作成した似顔絵を渡したものの、通行した女性にこのような人は見られないそうです。

そもそもこの領地がそこまで外の世界と活発に交易をする街でもないため、来客は少なくなります。今年に入っては数えるほど。最近も、外からの旅人は旅商人のレイバーとそのスタッフくらいだそうです。


これらの状況から、ミラージュはこの領地から外には出ていないと分かります。

また、領地内の貴族区域との門にも問い合わせましたが、平民区域に出て以降、中に入った形跡がないとのこと。やはりまだ領地の平民区域にいるようです。


何かに巻き込まれて、門を通らずに領地外に出ていないことを願うばかりですが……まずは領地内にいると仮定して捜索してみましょう。


 平民の個人情報を広く管理している行政施設に来所してみました。ここなら、不動産購入時や就労時に登録をするため、おのずと名前が分かるでしょう。

 私はお師匠さまが残してくれた証明書を持って、窓口に向かいました。

「すみません、ミラージュという方を探しているのですが……」

 受付の方は怪訝そうにこちらを見たものの、クラートと描かれた証書を見ると急に調べものを初めました。

 お師匠さまのネームバリューは素晴らしいですね。行方不明になられてもなお、私を助けてくださるのですから、やっぱりお師匠さまは大好きです。


 しばらくすると、受付の方が戻ってきました。

「こちらに登録はされてないようです」

「そう……ですか」

 なるほど、就労登録者など公の登録にはされていないようですね。だとしたらどこにいらっしゃるのでしょう……

 次の選択しを考えたところで、急に、私はさぁっと血の気が引くのを感じました。


 危険な目に遭ってなければいいのですが。


◇◇◇◇◇◇

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