情報屋の力試し8
「いやぁ、やはり君は天才だよ。俺の思った通り」
デリックは会長に押さえられながらも、恍惚とした表情で私に目線を送ってきました。両手が自由であれば、拍手もしていたでしょう。
「君は情報屋だから、きっと大きな事件を起こすと捜査してくれる。その間、いつか君が俺を探しだしてくれると思うとゾクゾクしたよ。」
私は冷静さを残しつつ答えます。
「通りで、証拠を残しまくっていると思いました。もう少し証拠隠滅をしても良いものを、さも犯人を捜し出してくれとでも言いたげでしたから」
工房製の色付きガラスや、後日発見した意図的に落としておいたであろう備品など。
「ああ、結果的に君が会いに来てくれるんだから。……俺は今とても幸せだ」
「大変気持ちの悪い感性をしているのですね。今後の影響など考えなかったのですか?」
「いや? 君に見てもらえない今後なんて地獄以外何物でもないじゃないか」
「何故そこまで? 私はお師匠さま一筋なので、絶対に貴方に好意は抱きませんが?」
「え、だって、それは君は俺に感心が無いだけじゃん。まず視界に入れてくれたら、段々と興味を示してくれるかなって」
「それは絶対にありえません。だって私は貴方のことが嫌いなので」
誰が、自分の小屋を燃やした相手に好意なぞ持つものですか。
するとデリックは、衝撃を受けたような顔をしました。
「え、嫌い……? だって……前告白した時そんなこと……」
これはもしかしなくても、話が通じないタイプの人間です。この場合、はっきりお断りしなければなりません。
「ありがとうございます。遠慮します。と、拒絶したはずですが、勝手に希望があると解釈したのですね」
私に嫌われていると知らされて、デリックは動揺を隠せないようです。途端に力なく崩れ落ちました。
「そんな……じゃあ俺は……嫌われて……?」
「はい。勝手に自分の気持ちを押し付けた上に、私の貴重な時間や労力を奪った。嫌いにならないはずがありません。話を聞くだけでも、身震いします」
デリックを抑えている会長が口を挟みました。
「誰にでも間違いはあるが、これはやりすぎ。いや、ただの考えなしだな」
呆れたようにため息をつきました。
「フィリー先生、こいつをひとまず街の衛兵に引き渡してきますね。これ以上、貴方の前に置くのは危険ですから」
デリックはブツブツと何かを呟きつつ、力なくうなだれました。
今のデリック自体は危険がなさそうですが、私の前から消えてほしいので、早急に会長に連行してもらうことにしました。
きっとこの人は投獄の後、街から追放される運命でしょう。だってそれだけのことをしたのですから。
ちなみに、アルマは洗脳され巻き込まれただけなので、罪は無いと可能な限りで弁明するつもりです。
◇◇
会長がデリックを連れていくと、周囲に集まっていた人も各々解散していきました。
すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえました。
「やぁ、さすがだね?」
振り向くと、お師匠さまの顔がありました。いえ、これは……レイバーですね。相変わらずお師匠さまとよく似た顔で、私は複雑な気分になります。そういえば私の危機の際に駆け付けてくれたのでしたね。
「先ほどは助けてくださってありがとうございました」
「いいや、当然さ! それにしても……君は何でも知っていると聞いたけど、本当だったようだね。捜査方法も僕には新鮮だった。どうやら僕の知らない知識がまだ出てきそうだ」
褒めているのだと思われます。ただ、その目は何かを詮索するようで、私はどこか素直に喜べませんでした。そういえば、以前も似たような目で私を見ていましたね。顔がお師匠さまと酷似しているので、余計警戒をしてしまいます。
「……何でしょうか?」
すると、警戒していることが分かったのか、レイバーは慌てたように手を動かしました。
「ごめんね! 警戒させちゃった?! そんなに警戒しなくても良いよ! 僕はただ、君と友達になりたいと思っただけなんだ!」
「……友達……ですか?」
「そう! 君の行動に僕は純粋に感銘を受けた。一緒にいると良い刺激を受けそうだなーって、僕の商人魂が言っててね。……よかったら仲良くならない? 」
レイバーは握手をしようと手を差し出しました。
「安心して。僕はよく警戒されるんだけど……商人だから人を観察をしちゃうんだ。悪気はないんだよ。でもだからこそ僕の目に狂いは無い。人を見る目がある僕が、君とは気が合いそうだと判断したんだ」
なるほど。観察力があり、どことなく行動の一つ一つに隙が無いような雰囲気をまとっていたのには、商人ならではの理由があるのですね。言われてみれば、物珍しい存在と仲良くなりたいのは、商人の性なのかもしれません。こちらとしても新しい情報は嬉しいですし、関わっているとメリットも多そうです。
後は……出会った直後に話していたことも気になります。私の別の姿を見ている懸念がまだ残っているのです。野放しにして、私の知らぬ間に好き勝手させておくのは、リスクが高まるでしょう。
私は少し警戒感は残しつつも、友達になる提案に同意しました。
「まぁ! 大したことはしていませんが、お友達が増えるのは嬉しいです! 私で良ければ!」
差し出された手を握り返しながら、胸にチクリとしたものを感じました。
◇◇◇◇◇◇