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情報屋の力試し7

「先ほどアルマ君に紙を渡しました。ここには犯人の名前……デリックの名前が書いてあります。もし動揺したり、何か行動に移したら問い詰めてデリックの所まで案内させ、自白させる予定でした。まあ、実際は私の想定より上手く接触できましたが」

 私はちらりとデリックを見ました。


「……いえ、犯人の方が上手だったと言うべきでしょうか。だってデリック、貴方……私が犯人を突き止めて、貴方の前に姿を現すところまで計算していたでしょう」


 すると、沈黙を貫いていたデリックが急に笑いだしました。徐々に笑い声が大きくなり、不気味な笑みで私を見上げます。

「そこまで……やっぱり君はすごい。さすが情報屋だね!本当に素敵だ!そうさ、俺が犯人だ!」


「……やはりあなたが犯人なのですね。 何故こんなことを? 」

 私が問い詰めると、デリックは先程と打って変わって、急に悲しそうな顔をして見せました。

「だって、君のせいなんだ。君が俺に関心を持ってくれないから……。俺は……すごく寂しかった。君はお師匠さまお師匠さまって。俺のこと、気にも留めてくれなかった……ちゃんと気持ちも伝えたのに……」

 やはり、動機はそんなところでしたか。

「以前、きちんとお断りしたじゃないですか!」

「でも、君はそもそも俺を見ようともしてくれなかったじゃないか」

「だって……」

 だって本当にお師匠さま意外眼中にありませんから。

「だから俺は、大きな事件でも起こせば、君が俺に注目してくれると思ったんだ。現に、君は今まさに俺を見てくれてる。俺はちゃんと分かってたんだよ、君が事件を解決して、自ら会いに来てくれるって」

 段々とデリックの声色が再び明るくなってきます。

ーーなんておぞましい考えなのでしょう。

「最悪の想定ではいましたが、やはりそういうことだったのですね」

「計画通りに行って、俺は気持ちがいいよ。君のことだしどうせ、俺の一連の行動も見当がついているんだろ?」

「ええ、まぁそうですね。」


 事件自体は簡単ですから、説明をしましょう。

「貴方は人目につかないよう、アルマ君と共に山の中を経由して私の小屋まで向かった。適度に小屋に近づいた段階で、アルマ君をその場で待機させ、貴方だけが小屋に接近。小屋の柵の外からガラス瓶に入った油のような物を投げ込んだ上で、火を投げ込み、私の小屋に放火をした。」

 油を入れているガラスはガラス職人だからこそ沢山廃棄する予定のものが手に入ったのでしょう。実際、工房にあるガラスには緑の商品がありました。

「そして、火が付いたのを確認して、待機していたアルマ君に火事だと私に知らせるように伝えた。間違いありませんね?」


「ああ、でも一つだけ驚いたよ。まさか爆発までするなんてねぇ」

 そうでしょうね。だって、小屋の中に爆発物があるなんて誰にも教えてませんから。

「だから、ここまで大事になるとは思ってなかったんだ。まぁ君が躍起になって調査してくれるようになったから御の字だけど」

 私はとんだ災難に巻き込まれたのですがね。怒りをグッとこらえます。


 私はアルマの方を一瞥して続けました。


「また、その爆発があったからこそ、アルマ君の演技にリアルさが追加されたんでしょうね。」

 次に、私はアルマについても触れます。


「アルマ君が共犯であると断定したポイントは、足跡の他に、火事を報告しに来たタイミングです。ある程度距離のある地点でアルマ君が小屋の火災に目視で気付くには、それなりに燃え広がっている必要があります。そうなると、アルマ君が現場近くにいた段階で爆発がすでに始まっていてもおかしくないのです。しかし、実際には私の所に来た段階で爆発が起こった。これは、火の小さい内に、私に知らせに来ているということです。

では、火災にどうやって気付いたか?それは、デリック、貴方が火の小さい、もしくはまだ火がついてない状態でアルマ君に火災だと教え、私に知らせるように言ったからではありませんか?」


 デリックは目が合うと当たりだと言わんばかりに、ニヤリと片方の口角を上げました。

 実際は火が付いた段階ですぐに教えに行ったんでしょうね。

「火災で爆発が起こった時、アルマ君が本当に怖がったのは、爆発を想定してなかったからでしょう」


 アルマはガタガタと震えながら、私を見上げました。

「あ、あの小屋は……滅多に使われてないから影響はないだろうし、少しボヤ騒ぎする程度だって兄さんから聞いてたから……爆発は本当にびっくりしたんだ……」

 影響がないことは全くないのですが、デリックの言葉を迂闊に信じてしまったのでしょう。幼いので無理もありません。

「アルマ君、貴方はこれを悪いことだと思わなかったのですか? 」

「……フィリー先生と一緒にいたら、段々と悪いことなのかもしれないと思い始めたけど……でも、兄さんとの約束を守らなきゃって思って……」

「何故そこまでして協力するのですか?」

「ぼ……僕! デリック兄さんの恋の応援がしたかっただけなんだ。本当に辛そうで……。僕にしかお願いできないって言うから、僕がしっかりしなきゃって。フィリー先生が宿舎に来た時も、兄さんに会いに来たのかと思って期待したんだ」

 なるほど……今の発言で推測するに、アルマは子弟関係に付け込まれて、洗脳されている可能性がありますね。物事の良し悪しが判別できなくなっているようです。きっと、私が宿舎に訪れた時はまだ罪悪感が生まれて無かったのでしょう。


「私はもう一つ、気がかりがありました。アルマ君が捜査に協力していたことです。多少、現場付近の情報で嘘をついていたようですが、それでもいくぶん素直に応じていました。何故私の肩を持つのか不思議に思いましたが……そこで、デリックの存在がまた浮上しました」


 私は再びデリックへと目線を戻します。

「貴方……アルマ君には私の捜査に積極的に関わるよう伝えていたんですね。アルマ君経由で私の捜査方法や進捗を楽しく聞くために」

 そこも分かったのかと言わんばかり、デリックは目を輝かせます。

「そう、そうなんだよ! 着実に捜査が進んでいて、君がいつ俺を犯人だと気づいてくれるか、ソワソワして待っていたんだよ。深夜にアルマが靴にインクをつけたりしていたのも、気づかないフリをしたんだぁ。でも内心は、君の捜査の手がついに僕の所に来たと思って飛び上るように嬉しかった」

 やはりですか。吐き気がしそうですが、私は続けました。

「そして、成果が現れたのが今日です。アルマ君の報告を聞いて、今日にも私が犯人を特定すると察した貴方は、アルマ君に最後のお願いをしたんです。『もし、自分が疑われた場合は何も言わず、宿舎の建物にフィリーを連れてきてほしい』と。そして、その通りになった暁には……貴方は私を連れ込もうとでもしていたのでしょう」

 自分で言いながら、少し背筋に寒気が走りました。

 今回は複数人を連れていたおかげで免れましたが、もし個人でアルマ君を問い詰めていたら、一人で連れて来られて、まんまと餌食になっていたでしょう。


「以上が一連の流れです」

 話を終えて周囲を見回すと、黙って聞いていた人々は不快な顔をするなど各々の反応を見せていました。


 上機嫌な反応をしている一人を除いて。

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