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航空母艦「大鳳」の謎

史実より早く竣工した空母「大鳳」が活躍をする太平洋戦争を描く架空戦記です。

 えっ?私の亡くなった祖父が生前よく話していた法螺話について聞きたい?


 くだらない法螺話だよ。歴史雑誌の編集者のあなたがわざわざ聞きにくるものかい?


 どうしても聞きたい?


 まあ、そんなに頼まれたら話さないのも失礼だね。


 じゃあ、話すとしよう。


 私の祖父は日本帝国海軍の造船士官だった。


 航空母艦「大鳳」の建造に関わっていたそうだ。


 大東亜戦争が開戦したのは昭和16年の12月だが、「大鳳」はその年の7月に起工し、昭和19年の3月に竣工した。


 それで、ここからが祖父の法螺話だ。


 空母「大鳳」が起工した次の日、造船所に「完成した大鳳」が突然出現したと言うんだ。


 空想科学小説で言うところの「時間跳躍」、英語では「タイムスリップ」が起きて、「完成した大鳳」が未来から来たと推測したそうだ。


 なぜなら、祖父の話では「大鳳」内部の調査が早速行われたが、艦内には書類や新聞・雑誌などはまったく無かった。


 だけど、「大鳳」が未来から来た証拠となる物があったそうだ。


 格納庫には艦上機があり、それは「零式艦上戦闘機52型」「艦上爆撃機・彗星」「艦上攻撃機・天山」だったそうだ。


 まだ存在しないはずの零戦の改良型、開発途中の艦上爆撃機と艦上攻撃機があることが「未来から来た証拠」とされたそうだ。


 空母一隻とその艦上機が突然手に入ったことに海軍はむしろ困惑したそうだ。


 これが架空戦記なら「大鳳」を早速戦力化するが、現実には計画に無かった空母一隻の乗組員と艦上機の搭乗員を用意するのは無理だということになった。


 それで、「大鳳」と艦上機は数年先の未来技術の調査をされることになった。


 早速、実戦投入されることになったのは、艦上爆撃機「彗星」だった。


 その高速と長い航続距離が評価された第一航空艦隊に「艦上偵察機」として配備されることになった。


 そして、大東亜戦争開戦初日の昭和16年12月8日に活躍することになった。


 真珠湾奇襲でアメリカ海軍の戦艦群を壊滅させると共に、「彗星」による偵察で発見したアメリカ海軍の空母「エンタープライズ」「レキシントン」を撃沈した。


 それから続くどの海戦でも我が日本海戦は「彗星」による偵察でいち早く敵艦隊を発見し、我が日本海軍の空母喪失は零、アメリカ海軍の保有する空母は零という状況に一時期はなった。


 しかし、アメリカは我が国の十倍以上の国力で艦隊を再建して最後の戦いに挑んだ。


 昭和19年6月のマリアナ沖海戦は、アメリカがマリアナ諸島を占領し、そこに重爆撃機B29を配備して日本本土爆撃の拠点とする作戦であった。


 日本海軍の巡洋艦以上の大型艦にはすべて対空用電探が装備されていた。


 時間跳躍して来た「大鳳」に装備されていた電探を研究した結果開発された物だった。


 米英軍の電探ほど小型化はできなかったが性能については遜色の無い物を開発することに成功した。


 そして、この海戦で「大鳳」は初陣となり第一機動艦隊の旗艦となった。


 マリアナ沖海戦の結果は祖父の法螺話と史実は同じだ。


 日本側は空母「赤城」「加賀」が撃沈はされたが、アメリカ側は空母機動部隊が壊滅してマリアナ諸島周辺海域から撤退した。


 日本本土への本格的な爆撃をするための拠点をアメリカ側が得ることはできなかったが、時間をかければ戦力を再編し、マリアナ諸島への再進攻は可能であった。


 だが、アメリカにその時間は無かった。


 史上初の原子爆弾投下はドイツ本土に対して行われ、徹底抗戦を叫ぶヒトラーをドイツ国防軍が排除して、ドイツは連合国に無条件降伏をした。


 降伏したドイツ本土の占領でアメリカとソ連の現地部隊が揉めて、一部の部隊は交戦までしたのだ。


 紛争は短期間でおさまり、アメリカ政府とソ連政府は「誤解による交戦」と発表したが、双方ともお互いを「次の敵」と認識した。


 アメリカもソ連も日本を潰すよりも自分の陣営に加えることで、相手に対する優位を得ようとしたのだ。


 日本は外交交渉を巧みに泳ぎ回った。


 結果、日本は条件付き講和となった。


 大東亜戦争開戦して占領した領土はすべて返還することになったが、満州国は承認され、朝鮮半島は独立国とすることになった。


 一見すると日本の損が多いように見えるが、満州国と朝鮮半島への経済進出はどこの国でも自由とした。


 アメリカもソ連も競って資本を投下したが、資金力ではアメリカの方がはるかに上だった。


 それで、ソ連は満州国と朝鮮半島の労働組合に浸透し、合法的な政治活動で主導権を握ろうとした。


 こうすることで、日本本土はアメリカ資本やソ連の影響の労働運動を避けることができ、満州国と朝鮮半島が経済的に発展すれば、日本本土も経済的な恩恵を受けるという状況を作り出した。


 令和6年の今も満州国と朝鮮半島でのアメリカとソ連の武器を使わない闘争は続いているね。


 ソ連は一時、平成の始め頃に崩壊するなんて言われたが、満州国と朝鮮半島で西側と間接的に繋がっていることが、崩壊しなかった原因だと主張する学者もいるね。


 ああ、「大鳳」に話を戻すね。


 戦後すぐ「大鳳」は解体された。


 奇妙な話なんだよね。


 空母「大鳳」は戦争で大きな損傷をしたわけじゃない。


 空母「翔鶴」「瑞鶴」も昭和40年代までヘリコプター母艦として現役で、今も記念艦としてあるのに。


 祖父の話だと「大鳳」は解体されたのではなく、乗組員が全員がいつの間にか艦外にいて、「大鳳」は消滅したそうだ。


 祖父は、「大鳳」は未来に行ったのではないかと推測したそうだがね。


 これで話は終わりだけど、本当に歴史雑誌の編集者のあなたに、こんな法螺話が役に立つのか?


 えっ?あんたは歴史雑誌の編集者じゃない?


 タイム・パトロールの隊員?


 この世界線で歴史が変わった原因を突き止めるために来た? 


 本来の歴史では日本は本土に原爆を投下されて、無条件降伏していた?


 本来の歴史に修正する?


 それが本当ならやめてくれ!何万人の死者が出ると思っているんだ!?


 それが「正しい歴史」だから、あんたらが正義だと!?


 自分勝手な正義だな!


 私が何を叫ぼうと「タイムマシンで過去に行くから無駄だ」って!?


 ……………………………………………………………………………………………………


 …………どうした?タイムマシンで過去に行くんじゃなかったのか?


 無駄だ。


 我が軍が新開発した「時間移動妨害装置」で、あんたのタイムマシンは作動しなくなっている。


 そうだよ。私は日本帝国時空軍の者だ。


 この世界線の歴史を守るために配属され、あんたを待ち伏せしていたんだ。


 ああ、安心してくれ、捕虜交換であんたはすぐに帰れるよ。


 こちらの士官が1人タイム・パトロールの捕虜になっているからね。


 ああ、いまだに誤解されているのか、「捕虜になるのを拒否して自決する」のが日本軍人だと。


 無数にある世界線を一つでも多く日本有利の歴史にするのはどれだけ人手があっても足りない。


 捕虜になって自決されたのでは、ただでさえ人手不足なのに、それが酷くなる。


 我が日本帝国時空軍では「捕虜になった場合の心得」が真っ先に教育されているんだよ。


 おっ!お迎えが来たよ!


 そう、あの空を飛んでいるのが、我が日本帝国時空軍の時空航行空母「大鳳」だ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 御参加ありがとうございます。そして、まさかの「大鳳」が超時空航行艦化。さすがです。 [一言] 「大鳳」の出現から歴史改変、そこからタイムパトロールやら時空軍やらへの、SFチックな流れがいい…
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