2024年度
『声が出せない理由は耳が聞こえないフリをする女性になりきりたいからの物語』
※私の目線で
東京の大学の文化祭はすごい。だって3日間も開催しているんだもの。
私の県の文化祭は田舎だからか1日だけしかやらない。もしかしたら、3日間もやるけれど一般入場の日にちとかがあって、日曜にしか入れません!とかあるかもしれない。と思っていたら、3日間とも一般入場はできるようだった。
去年も頑張ってやってきたのに、目的の物を手に入れる事ができなかったんだ。
そう、部誌だ。
彼がネット公開していない部誌をなんとしても手に入れなくては…と、張り切っていたのに3日間ともお昼すぎには完売してしまっていたのだ。私の寝起きが遅かったのがいけないのだろうか…いや、そもそもここまでやってくるのに3時間ほどかかることが問題なのである。
だから、去年はリンゴジュース片手に彼が書いたことが丸わかりのお店の看板と彼の小説キャラクターたちである犬と猫の写真を撮って帰って来ることで終わってしまった。
「(…不甲斐ないとは、まさにこの事」
だから、今年は歴代の部誌が並んでいないかともう一つの文芸部へとやってきていた。
何故か彼は文芸部の掛け持ちをしているようだ。
1つ目の文芸部は、どうやらこの大学が出来た時からある伝統的な部活なのだそう。
2つ目は、彼がその部活の雰囲気から入ることを決めたユルくて明るくて部長のお姉さんが自分に優しい部活である。…なんとなく、彼がどうして掛け持ちをしたのかが分かってしまいそうな何かが見え隠れしている。
「(…あーゆーそこなしに明るい人と付き合えばいいのに…」
私は、今年は一番初めから女の格好をして文化祭に出かけると、校舎内にある文芸部を目指した。
階段を一つ、また一つと上りながら、自分の格好が可怪しやしないかと振り返ってしまう。
会場の受付でもらったパンフレットを片手に眼鏡をかけた彼が店番している教室までやってきた。
「い、いらっしゃいませ。…どうぞー」
と、空いている席へと案内される。他の席には、すでに年配のお客さんが座っていた。
こちらメニューですとばかりにメニュー表を渡された。
こちらの文芸部では、カフェのような作りになっており、飲み物を頼んだ人は部誌が読み放題なのだそう。ネットカフェみたいなノリかな。
「…え、あっと…飲み物、何にされますか?」
「……………?」
私は相手が何か言っているので、まじまじと相手を見上げながら首を傾けた。
「?」
「(すいません。…私は、耳が、聞こえません。」
私は耳が聞こえないフリをした。
言葉にするかわりに自分が言いたいことを手話で伝えることにする。
まず、右手を揃えて縦にゴメンと振る、その後自分を指差し、耳を指差し耳元で風をあおぐように2回手を振って見せる。
もちろん相手はただの大学生だ。聴覚を失った人との対話などしたことはないだろう。
私がした手話もきっと分からないと思う。
けれど、おそらく耳が聞こえない人なのだ。という状況だけは伝わったはずだ。
人見知りな彼が人に関わることすら本当はしたくないのに、耳が聞こえない人が来てオロオロとし始めてしまった。
私はもう一度、一般の人に分かりやすい手話を試みる。
まず、両手を合わせてお辞儀をする。私は、と自分のことを指差し、耳に手を持っていき、今度は両手の人差し指を使ってバツを作る。
だから、君の声は聞こえていないんだよ。と分かると相手がよりどうしようと入口付近にいる同じ部活の人に助け舟を出そうとして、何かに気づいたんだと思う。
おそらくペンとメモだ。
筆談をしようと彼が私に断りもなく背を向けて歩き出そうとしたので、私はその腕を掴んだ。
私は立ち上がって人差し指を彼のマクス越しにその唇に触れた。
動揺した彼が一瞬うろたえて立ち止まる。
私は、サッとメニューを開くと「オレンジジュース」と書かれた部分をなぞって、コレを1つと、また人差し指を彼に向けて立てる。
私がオレンジジュースを注文した事を理解した彼が口を動かす。
「あ、はい!オレンジ…………」
復唱しようとしとした途中で、声が聞こえない事を思い出してまた困った顔に戻る。
私は、彼が私に伝えたい事を手話で先導することにした。
「(少々、お待ち下さい。かな?」
と思い、親指と人差し指で「ちょっと」という指標を出し、右手の上にアゴを乗せてほうずえをつくようなポーズの後に、右手を立ててすいません。の合図を送る。
なんとなく見様見真似で相手も同じ事を繰り返してくれた。
「……えと……こ、こう?」
少々お待ち下さい。の3アクションを彼がしたところで、私は親指を上にあげてグッドのポーズをとりながら頷いてみせる。
相手がぺこりと私に会釈をして去っていくので、私ももう一度席につく。
ほどなくして、私の席にはオレンジジュースが運ばれてきた。
彼が私の席にはオレンジジュースを置きながら、どうぞというアクションをする。
私はそれに対して「ありがとう」という手話をしたあとに、親指と人差し指を使って、アゴから何かを引っ張り出すかのようなアクションを取った。
それを見た彼が、このアクションも必要なのかな?という顔をしながら、さっきと同じように私と同じ動きをしてから去っていく。
私は、去年と今年の彼の作品を読みながら、彼が知りもしないであろう手話のその動きに一人心を染めていた。
と、言いつつ今年は2日間でしたね。(何故
2024/11/02
去年のうちに2話目を書いてあったので、
文化祭の日にちが3日間で仮定されていました。
今年は文化祭きてないみたいでショックでした。




