第5話:同じベッドを要求する
「なるほど……そんなことが。解呪の方法はわからないのですか?」
「さっぱりだ。なんの手がかりもない」
『手加減ができない』――なんて不便極まりないため散々調べたが、過去に例がなく対処のしようがなかった。
勇者パーティなら能力を活かせるのではないかとも思って加入したが、結局は迷惑がられ追い出される結果になってしまった。
「だからこそ、アリアと出会えたのは幸運だったんだ」
「私も、ずっとマイナススキルのせいで虐げられてきて……こんなに他の人から求められて大切にしてもらえるのは初めてなんです」
確かに、俺にとっては神スキルだが、普通のパーティにとってはかなり扱いづらい。
オンオフの切り替えができないのなら、スキルを持っていない冒険者のほうが優先されてしまうのも理解はできる。
「冒険者として限界を感じていたところだったので、ミナトと出会えて本当に良かったです」
「それなら良かった」
意外と俺たち良い関係なんじゃないのか?
お互いの弱点で弱点を打ち消す関係――まさにパートナーだ。
「そういえば、アリアは冒険者以外にはなろうと思わなかったのか?」
俺の場合は手加減ができないことで選択の幅が狭まりすぎて冒険者や勇者など戦闘以外でお金を稼ぐ術がなかったので冒険者になったという経緯がある。
アリアの場合は強化魔法と引き換えに弱体化魔法をかけてしまうということなので、冒険者以外の仕事をすればもっと楽だったのではないか? と思ったのだ。
きっと冒険者をするしかない重大な理由があるはずなので、パートナーとして把握しておきたいという意味で尋ねてみたのだが――
「えっと……その、私……戦う以外に才能ないですし。他の仕事をしようなんて考えもしませんでした。確かに冒険者以外の仕事をしてみても良かったかもしれないですね……!」
嘘だな。
さっき説教をかましたアリアの元パーティメンバーを見ても、かなり居心地が悪かったのはわかる。
俺なら確実にパーティどころか冒険者を辞めたくなる。
それでも続けた理由は何か別にあるはずだ。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
まあ、出会ってまだ初日だしな。
言いたくないこともあるのだろう。今後、距離が縮まれば自然と言ってくれるようになるはずだ。
「ミナト、困ったことがあったらなんでも言ってくださいね。私にできることならなんでもしますから!」
「ああ。お互い助け合おう」
◇
「ダ、ダメです……!」
「この通りだ。頼む、一生のお願いだ……!」
宿の一室で、俺はアリアに両手を合わせて拝み倒していた。
「出会って初日で同じ部屋でお泊りなんて……さ、さすがにダメですよ!」
「絶対変なことはしない! なにもしないから!」
「そ、そう言われても……」
俺はどうしてもアリアと一緒に一夜を過ごしたかったためお願いしてみたのだが、このように断られてしまった。
「この宿はなぜか床が石畳になってる。こんなところで寝たら明日はまともに動けないかもしれないんだ……。頼む!」
初めて泊る宿だったため部屋に入るまで気付かなかったのだが、この宿はデザインを重視して全部屋が粗い石畳だったらしい。
俺は手加減ができないためベッドで寝ることができない。寝返りで破壊してしまうからだ。そのため普段は床で寝ているのだが、さすがにここで寝るのはキツい。
同じ部屋にアリアがいる状態ならベッドを破壊することはないため、アリアの部屋にベッドを持ち込んで同じ部屋で寝たいとお願いしたのだが、交渉は難航している。
「気持ちはわかります。ミナトにだけ辛い思いをさせることはできません」
「そうか、じゃあ!」
「私も床で寝ます!」
なぜそうなる!?
「いやいやいやいや、アリアは普通にベッドで寝ればいいだろ!」
「そういうわけにはいきません。わ、私……結婚するまでそういったは、破廉恥なことできませんし……そうじゃなくてもダメです。ミナトだけに辛い思いをさせることもできません。なので、間を取ることにします」
まあ、普通に考えて初対面の男といきなり同じ部屋で夜を過ごすとか嫌だよな……。
っていうか、よく考えたら俺もそんな女の子嫌だ……。
「わかった、無理を言って済まない。でも、アリアはちゃんと寝るんだぞ」
「力になれずすみません……」
アリアが申し訳なく思う必要はないのだが、気にしているようだった。
なお、石畳の上で寝たことにより翌日はガタガタだった。
そして、結局アリアもベッドを使わずに寝たそうでガタガタになってしまっていた。
なかなか上手くいかないものだな……。
◇
冒険者ギルドにて。
「なんと! 素材を持ち帰れるのなら、いくらでもお願いしたいご依頼がありますよ!」
アリアとパーティを組んだことで素材を少し残せるようになったことをギルド職員に伝えたところ、次々と依頼を紹介された。
普通は掲示板に貼られているものの中から自分で依頼を選ぶのだが、頼みたい依頼がありすぎるらしく次々と依頼を紹介してくれた。
「これ、これとかどうでしょう! 未公開案件ですが!」
「双竜退治?」
「クレスト渓谷で最近被害に遭う冒険者が多くなっており、近々討伐隊を向かわせる予定だったのですが、ミナトさんならできませんか? 報酬もかなり出ますよ!」
このくらい強い魔物なら、アリアの能力込みで確実に証拠が残る形で倒せる。
「受けられるなら受けたいんだが――問題はアリアのランクだな」
この依頼は、Aランク指定になっている。
Aランクの依頼を受けられるのはBランク以上の冒険者なのだが、アリアはCランクである。パーティの中に適正ランク外の冒険者がいる場合は、その冒険者は参加できない規定になっている。
アリアが参加できないとなると、俺だけでは手加減できないため依頼を達成しても証明する手立てがないのだ。
ちなみに、俺はAランク冒険者である。
「それなら大丈夫です。アリアさんに関しては昇級試験という形にしておきます。達成後はBランクになります」
「なるほど。それなら問題ないか」
「だ、大丈夫でしょうか……?」
アリアはAランクの依頼と聞いて不安に感じているようだった。
確かに、S級の依頼と比べると弱いことは間違いない。
「大丈夫だ。アリアと二人なら牙ぐらいは残るはずだ」
「は、はあ……」
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