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第4話:一切の手加減ができなくなったワケ

 ◇


 改めて冒険者ギルドへ向かっている途中のことだった。


 どういうわけか、隣を歩くアリアの様子が少しおかしい。


「どうした? 熱でもあるのか?」


 頬の辺りが赤くなっており、何度も俺をチラチラと見てくる。


 体調不良を訴えたいのかと思って尋ねてみたのだが――


「い、いえ……そんなことは……!」


「ふむ、そうなのか。ならいいんだが」


 どうやら、俺の勘違いだったようだ。


 しかし……少しふらふらしているような気がするし、放っておくのもパートナーとして気が引ける。


「アリア、手を繋ごう」


「て、手を!?」


 アリアは驚いた様子で俺を見上げた。


 ん? 何か俺、おかしなこと言ったか?


「転んだりしたら大変だろ? 遠慮するな」


「ミ、ミナトが嫌じゃなければ……私は嬉しいですけど……」


 俺から手を繋ごうと言ってるのに嫌なはずがないのだが……まあ、細かいことを気にしても仕方がない。


 俺は、アリアの柔らかい手を軽く握った。


「~~~~~~っ! 痛っ! い、痛いです……!」


「え?」


 アリアが急に声を上げたので、ビクっとして手を放す。


「こ、こんなに強く握らなくてもいいんですよ……!」


「す、すまない……。俺は手加減ができないんだ」


 アリアの弱体化魔法によりかなり能力値が下がっているので問題ないだろうと思っていたのだが、手を握るだけで痛いと感じさせてしまう程度には強いままだったようだ。


「ミナト様は手加減ができない……って有名な話ですけど、魔法以外もそうなのですか!?」


 そういえば、一般には公開されていない情報だったな。


 普通に考えれば『日常生活すら手加減できない』なんて想像しないだろうから、こういった認識なのも仕方ない。


「ああ……実はそうなんだ。アリアのおかげでこれでもかなり抑えられてるだけど、この呪いのせいで力の調節ができなくなってる」


 俺は、左手に浮かぶ呪いの模様を見せた。


「五年前、故郷で色々あってな」



 ~~~回想~~~


「ただいま! 母さん……もういないんだったな」


 十三歳の俺は、毎日山深くまで魔物狩りをして遊んでいた。


 俺は、捨て子だったらしい。山の中で暮らしていた当時八十代の母さんが俺を拾って育ててくれたと聞かされている。


 しかし、高齢のため母さんは亡くなってしまい一人で暮らしていた。


 話し相手も娯楽もない中で、俺はひたすら母さんから教わった魔法を極め、魔物を倒しまくっていたのだ。


 鬱憤晴らし……だったのかもしれない。


 とにかく怖いものを知らずにどんどん格上の敵をも相手にするようになっていた。


 だから、成長速度が凄まじく日に日に強くなっている実感があった。


 次々と格上を倒すと、次第に強い魔物が現れなくなった。


 ――というのは半分間違いで、俺が強くなったことでほぼすべての魔物が格下になったのである。


 そんなある日のことだった。


「ぐはっ!」


 俺は後方に吹き飛ばされ、大木に激突した。


 今日、山奥のさらに奥で出会ったのは大型の黒竜。


 ドラゴンとはこれまで何度も戦ったことがあるが、こいつは別格だった。


「まだこんなに強い魔物がいたのかよ……!」


 今までに出会ったどの魔物よりもぶっちぎりで強い。


 正直、まったく勝てる気がしなかった。


 だが、戦いで負けることは死を意味する。


「我輩はこの山の主である。お前は……暴れすぎた」


 ドラゴンが語り掛けてきた。


「お前、喋れるのか……?」


 言葉を話せる魔物なんて見たことも聞いたこともない。


「どうでも良いことだ。人間よ、お前には死んでもらう」


 ドラゴンがそう言った後、青色の大きなブレスが俺を襲い掛かる。


「おおっと……!」


 間一髪避けた後には、すべてが一瞬にして燃え尽き、塵すらも残っていない。


 一発でも掠れば死ぬ……と直感した。


「ほう。これを避けるか。だが、次はない――」


 と次の攻撃を始める黒竜。


 くそ、どうする!?


 このままひたすら避けていても、いつかは攻撃をくらう。くらった時には終わりだ。


「……っ!」


 そう言えば……母さんが息を引き取る間際に何か渡してくれてたような……?。


 『魔物との戦いで命の危険を感じたときに使いなさい』――そう言いながら、渡してくれたアイテム。


 肌身離さず持っていたが……今が使い時で間違いない。


 俺は、ポケットから白いオーラを纏った魔石を取り出した。


 この魔石には、何かの魔法が刻み込まれている。一度使えば魔石は消滅するため、再使用は不可能だ。


 魔石を使用したことで、封じられていた魔法が発動する。


 無数の幾何学模様が浮かび上がり、俺の身体の吸い込まれていく。


 その瞬間、これまでの膨大な戦闘経験や蓄積していた経験値が有機的に繋がり、一気に俺自身の魔力が大きくなる感覚を覚えた。


 俺の潜在能力を引き出す魔法だったのだろう。ここで引き出された俺の能力は一時的なものではなく、恒常的な力であることも感覚的にわかった。


「これなら倒せる……余裕で」


 自信に満ち溢れた俺は、ドラゴンに向かってジャンプ。


 山の主を名乗る黒竜と目が合う。


「せめて、派手に散ろうとは良いセンスをしておる」


 次の瞬間、間近からブレスが飛んでくるが――


「へえ。それは、自画自賛ってやつか?」


 俺は災害球魔法『蒼炎の矢』を繰り出す。


 ドラゴンのブレスと俺の魔法が衝突した瞬間、俺の魔法が競り勝ち――


 ドッガアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンッッッッ――――!!!!


 とこの世のものとは思えない轟音が鳴り響いたのだった。


「な、我輩が負け……ありえな……」


 こうして、どうにかドラゴンとの戦いに勝った俺だったのだが――


「なんだ……この感覚は?」


 ドラゴンを倒した直後、左手に奇妙な模様が現れた。


 竜のシルエットを模した黒い紋章である。


 この紋章が現れてから、俺は上手く力の調節ができなくなってしまったのだった。

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