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第3話:はっきりと言え

「パ、パートナーですか!?」


「ああ、この通りだ! 頼む!」


 俺は両手を合わせて拝み倒した。


「で、でも私たち出会ってまだ数分ですし……そういうのはもっと心の距離を縮めてからにしたいというか……」


「時間なんて関係ない! 一緒になってから縮まることもある! 違うか!?」


「そういうこともあるのかもしれませんけど……」


「そうだろ!?」


 必死すぎてドン引きされているかもしれないが、格好つけてみすみすこの機会を逃したくはない。


「わ、私……こんな風に言ってもらえるの初めてで……」


 俺の想いが通じたのか、アリアの顔にも迷いが見られるようになった。


 よし、あと一押しだ。


「アリアはどんな暮らしがしたい?」


「暮らしですか? そうですね……小さくて良いので、静かに過ごせる家があって、お金に困ることがなくて、家族みんなで美味しいご飯を食べて……」


 アリアは楽しそうに理想のライフスタイルを語ってくれた。


「それ、全部叶うぞ」


「え?」


「俺とアリアのパーティなら、どんな強い魔物も素材を残しつつ倒せる。小さな家といわず、デカい家でもなんでも手に入るさ。まあ、結婚相手だけは金で手に入らないけどな」


「パーティ……ですか? え?」


 なぜか理由はわからないが、アリアは首を傾げてしまった。


「ん? 何か俺変なこと言ったか?」


「えっと……もしかしてパートナーって?」


「パーティメンバーはパートナーだろ?」


「……あっ、はい。そうですね」


 なぜか残念そうに俯くアリア。


 もしかして、何か地雷を踏んだか!?


 などとという不安は杞憂だったようで――


「そういうことなら……私で良ければ力になりたいです」


「パートナーになってくれるってことか!?」


「はい」


 うおおおおおおおおおっ!!


 今日は勇者パーティを追放されてついてない日だとばかり思っていたが、どうやら俺にとって人生最高の日だったらしい。


「絶対に幸せにするからな!」


「え? えっと……よろしくお願いします」


 俺にとってはアリアの弱体化魔法が手に入るのはメリットでしかないが、アリアにとっては必ずしも俺とパーティを組む必要がない。


 釣り合いの取れていない関係はいつか破綻してしまう。俺と勇者パーティのように……。


 俺は、絶対にアリアを逃すまいと心に誓うのだった。


 ◇


 クレスト村に帰還し、冒険者ギルドに依頼の報告に向かおうとしていた時だった。


「マイナススキル如きが堂々と歩いちゃって。恥ずかしくなのかしら?」


「ねっ。私なら恥ずかしくて隅を慎ましく歩くけど。度胸あるわねぇ」


「向いてないんだから冒険者なんて辞めればいいのに呆れちゃう」


「うわっ、なんかこっち見てない?」


「え~、嫌だ~。マイナスが感染るじゃん」


「ほんと、鳥肌立つんですけど……」


 アリアをチラチラと見る三人組の女たちのヒソヒソ声が聞こえてきた。


 陰口のつもりなのか知らないが、俺の耳にもはっきりと聞こえるくらいの声量なので当然アリアにも聞こえていることだろう。


 実際、言葉には出さないがアリアの顔は引きつっていた。


「あいつらを知ってるのか?」


「この前まで一緒だったパーティの人です。私が使えないとわかってからあんな感じで……」


「なるほど」


「すみません。早く行きましょう」


「それはできないな」


「え?」


 どんな事情があったのか知らないが、アリアが不快に感じている事態は見過ごせない。


 あの三人の女がやっているのは、いじめだ。


 もし心の病とかトラウマとか厄介なものをアリアに植え付けられでもしたら非常に困る。俺が。


 魔物との戦闘中に突然いじめを思い出して動けなくなりでもすればどうなるか考えれば、決して小さな問題とは言えない。


 パーティメンバー――つまり、パートナーになった以上はアリアの問題は俺の問題でもあるのだ。


 俺は睨みながらアリアの元パーティメンバーたちのもとへ。


「おい、言いたいことがあるならはっきり言ったらどうなんだ? 面と向かって、わかりやすく、端的にな」


「お兄さんに言ってるわけじゃなくて……あー、独り言?」


「って、ていうかこの人もしかして勇者パーティのミナト様!?」


「ミナト様!? 破壊の王の人だよね!?」


 ガクガクと震えだす三人。


 この期に及んでしらばっくれるつもりのようだ。俺のことに話を移して誤魔化そうとする魂胆も見え見えでこっちも気に入らないな。


 あと、破壊の王なんていうニックネームは初めて聞いたのだが……世間ではそんな風に知られていたのか?


「俺の大事なアリアについて何か話してたんだろ? 別に怒ってるわけじゃない。ほら、アリアの目を見て言ってみろ」


 俺はニィっと口角を上げてみる。


「え!? アリアの彼氏ってこと!? や、やばいって……」


「ア、アリアが素敵なお兄さんと歩いてるな~って話をしてたの! ね? みんな?」


「そ、そう! そういう話!」


 ほう、そうだったのか。なら問題ないな。


 ……ってなるわけないよな。


「全部聞こえてるんだよ。嘘をつくな。正直に言え」


「だ、だって……お、怒るじゃん! 本当のこと言ったら!」


「そうだよ! 脅すなんて卑怯だよ!」


「絶対怒らないって約束してよ!」


 はあ~、ため息をつくしかないな。

 

「今度は俺が悪者扱いか?」


 言いながら、俺はドンっと右足のみで一歩だけ足踏みしてみる。


 バキバキバキバキーー!


 とてつもない衝撃により、地面が大きくひび割れた。


「「「ひ、ひいいいいいい!?」」」


「俺の大事なアリアに陰口でも叩いてたんだから、もちろん怒る。で、何を話してたんだ?」


 俺は嘘が嫌いなので、怒らないと嘘をついて怒るような真似はしないし、内容によっては怒る。当たり前のことだろう。


「うっ……うっ……ご、ごめんなさい……」


「も、もう二度と陰口しません……もうしませんから……」


「ゆ、許してください……」


 涙を流して許しを請い始める三人。


「いや、だから……何を言ってたのか言えと言ったんだが? それに、謝る相手は俺じゃなく――」


 陰口を叩いていた三人を詰めている途中で、アリアが服の袖を引っ張ってきた。


「も、もういいです」


「ん?」


「もう十分です。ミナト、ありがとうございます。私の代わりに怒ってくれて気分が晴れました」


「……まあ、アリアがそれでいいならいいんだが」


 俺はアリアの陰口を言っていた三人の方を向き、最後に声をかける。


「次、アリアに不快な思いをさせたらわかってるな?」


「は、はい!」


「わ、わかります!」


「もうしません……! これからは心を入れ替えます!」


 この言葉は心の底から言っている気がする。


 今後はわからないが、ひとまず今この瞬間は改心したとみなして良さそうだ。

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