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第2話:マイナススキル

 ◇


 ということで、クレスト村の冒険者ギルドにやってきた。


 冒険者ギルドは、スーペル王国内の依頼の受発注や魔物素材の買取販売を行う組織である。他国にも同じような組織はあるらしいが、俺は詳しく知らない。


 国営だが、勇者パーティとは分離した別組織である。


「そうですか……強すぎて勇者パーティを……」


「ああ。何か俺でもできる依頼はないか?」


「う~ん。素材が回収できないとなると、討伐証明の持ち帰りも難しいですよね。だとすると討伐依頼は難しそうですね」


「そういうことになるな」


「でしたら、植物などの採集はどうでしょう?」


「粉々になるからちょっと無理そうだ」


「そうですか……」


 強すぎるのも問題である。


 勇者パーティに加入する前にも冒険者をしていたのだが、その時も受けられる依頼がかなり限定的だった。


「昔は護衛の依頼を多く受けてたんだ。そういうのはないのか?」


「なるほど、護衛ですか」


 ギルド職員が依頼書の束をパラパラとめくり、俺の希望とマッチする依頼を探し始めた。


 護衛依頼とは、発注者を魔物や盗賊から守り、安全に目的地まで導く仕事である。素材の回収が不要であると同時に、強さが求められるため都合が良かった。


 ……というより、護衛依頼しかできなかったというのが正しいか。


「すみません、護衛依頼は出ていないようです」


「そうなのか……」


 クレスト村は小規模な村ということもあり、依頼の数自体が少ない。その中でも護衛を依頼するのは商人や貴族などの特別な人だけなので、時期によっては受けられないことも想定の内ではあった。


「でも、ミナトさんにお任せできそうなご依頼が一件ありましたよ!」


 そう言いながら、ギルド職員は一枚の依頼書を出してくれた。


 ◇


 ギルド職員の紹介で、俺が引き受けたのは『調査依頼』。


 内容は、魔物が多くいるエリアに赴き、魔物の数的増減や質的状況を調査するという内容である。


 この調査により得られたデータをもとに討伐依頼の発注数を設定するそうなので、地味ながら責任重大な仕事なのだ。


 報酬は十万ジュエル。


 パーティで報酬を分けるとあまり旨味のない依頼だが、俺は一人でどんな魔物も倒せるので、ソロでこなせる。俺にとっては穴場の依頼だった。


 クレスト平原に来た俺は、さっそく仕事を始めた。


 シルバーウルフに狙いを定め、挨拶代わりの――


 『小火球』!


 ドガアアアアアアアアアアンンンンッッ!!!!


 シルバーウルフに着弾すると大爆発を起こして、大きなクレーターができた。なお、ターゲットは跡形もなく消滅した。


 ここまでする必要はなかったのだが、俺は手加減ができないので仕方がない。


 この音と衝撃により、周辺の魔物に変化が見られた。、


 魔物たちがビクっと僅かだが動き、地中にいた魔物は驚き地上に出てくる個体も。


 『魔力探知』。


 魔力を薄く広げることで、どんな魔物がどこに何体いるのか調べられる魔法だ。


 感覚的には影のような形でしか魔物の形を捕捉できないため、魔物同士が固まっていると誤まった数をカウントしてしまう可能性がある。


 そのため、ほんの少し動かすことで正確な情報収集が可能になるのだ。


 これにより一瞬にしてクレスト平原一帯の魔物の状況を確認できた。


 これで依頼は達成したのだが――


「ガウルルル!! ガウ! ガウ!」


 天敵とみなした俺から逃げるように散っていく魔物たち。


 魔物も馬鹿ではないため、勝てない相手とわかると逃げる習性があるのだ。


「まずいな……この辺には他の冒険者もいるんだが……」


 さっき使用した『魔力探知』は魔物だけでなく人間にも反応するため、冒険者と思しき人間が一人いることは把握していた。


 一斉に魔物が押し寄せれば、危険な状況に陥ってしまうかもしれない。


 余裕で倒せるくらい強い冒険者であれば余計なお世話になってしまうが、万が一ということもある。一旦様子を見に行こう。


 魔物を追いかける形で冒険者がいる座標の近くについた。


「あの子か」


 そこにいたのは、金髪碧眼の美少女だった。艶やかなロングヘア―がサッと揺れたかと思うと、剣を一閃して魔物を倒していた。


 華奢な肢体からは想像ができないほど力強い攻撃であり、思わず見惚れていた時だった。


「えっ!? 急にこんなに!?」


 俺の一撃により散った魔物たちが辿り着いたことで、ちょっとしたピンチになってしまっていた、


 さっと少女の隣まで辿り着くと、俺は小さく囁く。


「悪いな。迷惑かもしれないが――」


 『小火球×50』!!


 ドガアアアアアアアアアアンンンンッッ!!!!

 ドガアアアアアアアアアアンンンンッッ!!!!

 ドガアアアアアアアアアアンンンンッッ!!!!

 ドガアアアアアアアアアアンンンンッッ!!!!

 ドガアアアアアアアアアアンンンンッッ!!!!


 数百体の魔物を一瞬にして葬り去ったのだった。


「えええええええええ……っ!?」


 少女は信じられないものを見たとばかりに口をあんぐりと開けて驚いていたのだった。


「怪我はないか?」


「あ、えっと……大丈夫です。おかげさまで……ありがとうございます」


 だんだんと落ち着きを取り戻してきたようだ。


「あ、あのもしかして……勇者のミナト様ですか!?」


「あれ? 俺を知ってるのか?」


 この子とは初対面だと思っていたのだが、どこかで会ったことがあるのだろうか。


「有名ですから! 私が一方的に知ってるだけですけど!」


「なるほど、そういうことか」


「どうしてこちらに? 勇者のお仕事ですか?」


「ああ、それなんだが……まあ、色々とあってな」


 どうせすぐに俺が勇者パーティを脱退したことはすぐに広まるので、隠すほどのことでもない。


 要点をかいつまんで説明したのだった。


「な、なんと……そうだったのですか……!」


「まあ、そういうことでここに来てるんだが……逆に君はなんで一人なんだ?」


 普通、冒険者はパーティを組むものだ。


 一歩村の外に出れば、冒険者は命懸けだ。


 戦闘はもちろん、索敵には気が抜けないし、万が一怪我でもすれば助からないことも多い。パーティで活動していれば、助け合うことで一人一人の負担が劇的に軽くなる。


 ソロで活動する俺が特別珍しいのであって、これは普通ではないのだ。


「えっと……色々あってですね。私、マイナススキル持ちなんです。なのでパーティに入ってもすぐに追い出されてしまって……一人でやらざるをえないんです」


「マイナススキル? 聞いたことある気がするが……なんだっけ?」


「すごく珍しいのでお忘れなのも無理はないです。稀にスキルを持って生まれてくる人がいるのはご存じですよね?」


「ああ、それはもちろん」


 生まれながらにして特別な技能を持つ天才がいる。スキルの内容は様々だが、基本的にスキルというのは加点要素なので、あって困るものではない。


「私、付与魔法が使えるんです」


「付与魔法!? というと……味方を強化できるのか?」


「そうです」


「えっ、めちゃくちゃ強いんじゃないのか? 何がマイナスなんだ?」


「それがですね……私、味方を強化できるんですけど、同時に味方の誰かを弱体化させてしまうんです」


 ……ふむ?


 味方を弱体化?


 なんだ、ただの神スキルじゃないか。


 どこがマイナスなんだ? さっぱりわからない。


「私がいれば味方を強くできる反面、味方の誰か一人を弱くしてしまうので使い勝手が悪いと……。私がパーティにいるだけで発動してしまうので厄介なんです」


「その一人っていうのは、選べるのか?」


「選べますけど……荷物持ちだとしてもある程度動けないと魔物との戦いでは危険なので……」


 ほう……めちゃくちゃすごいじゃないか。


「ちょ、ちょっと、俺を弱くしてもらうことってできるか?」


「え? できますけど……?」


 少女は俺に弱体化魔法をかけてくれた。


「これは……すごいな」


 ずしっと身体が重くなったような感覚を覚えた。


 試しに、近くにいたシルバーウルフを目掛けて『小火球』を放つ。


 ドガアアアアアアンンッ!!!!


 おおっ!


 普段なら消炭すら残らなかったのだが、今回はかろうじてバラバラになった残骸が僅かに残っている。


 シルバーウルフのような弱い魔物だから素材が残るほどではないが、もっと強い魔物が相手ならちょうど良い感じになりそうだ。


「す、すごいな……! ちゃんと弱くなってる!」


「こ、これで弱くなってるんですか……!? 私には全然弱く見えないのですが……」


 どれだけ頑張っても手加減ができなかった俺が、自然にちょうどいい魔法を使えている。


 この子のおかげだ。


 こ、これは運命の相手じゃないのか!?


 一切の手加減ができないことでずっと悩み苦しんできたが、どうやら女神はここにいたようだ。


「君、名前は?」


「え? アリア……アリア・アストレアですけど……」


 俺はアリアの手を両手で握り、目をジッと見つめる。アリアの頬が少し赤くなった気がする。


「アリア、俺のパートナーになってくれ!」

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