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第1話:強すぎるが故の欠点

 俺の名前はミナト・フェイルウォーカー。


 勇者パーティに所属する最強の魔術師だ。


 今ちょうど、ジャイアントベヒーモスを相手にしているところである。


 ベヒーモスの中でも異常に強いこの個体はA級冒険者数百人でなければ倒せないほどの強力な魔物なのだが、俺なら――


 『小火球』!


 俺が使える中で最弱の魔法『小火球』がジャイアントベヒーモスに向かって勢いよく飛んでいき――


 ドガアアアアアアアアアアンンンンッッ!!!!


 一瞬にして跡形もなく消滅したのだった。


 ◇


「ミナト、お前には勇者パーティを抜けてもらうことにした」


 ジャイアントベヒーモスの討伐を終え、滞在していたクレスト村に帰ってきたところ。勇者パーティのリーダーであるグレイから唐突に告げられた。


「え? な、何言ってるんだ!?」


 突然のことで頭の処理が追いつかない。


「今日だって、かなり貢献したはずだ! 役に立ってる! そうだろ!?」


「ああ、そうだ。お前の力は認めている。俺だけじゃない。勇者パーティのメンバーも、国王も皆お前の力は評価している」


「なら、どうして……」


「お前、強すぎるんだよ!」


「へ?」


 強くて何が困ると言うんだ?


 俺がいれば犠牲を出さずに迅速に魔物を倒せる。何が困るんだ?


「ここ最近、勇者パーティの士気が落ちている。『どうせミナトが一撃で倒すから、俺なんていてもいなくても同じだ』ってな」


 確かに、そんな雰囲気は感じている。


 俺がパーティに加入した頃は皆の能力が拮抗しており、切磋琢磨して成長していたが、最近はそんな風潮がなくなってきたような気はしていた。


「お前が強いのは結構なことだが、王国が擁する最強のパーティが一個人の力量にすべてを頼るのはリスクが大きすぎる」


「で、でもだからって追い出さなくてもいいだろ!?」


「ああそうだ。お前が()()()できればな」


 ぐっ……。


 俺は、これを言われると俺は何も反論できない。


 そう、俺は手加減ができないのだ。


「何度も言ったよな? 少し手加減をしろと。育成には実戦経験が必要だ。お前が一人ですべてこなせば後が育たん。お前が引退した後はどうなる? 冒険者ならそれでも構わないかもしれないが、勇者パーティはそういうわけにはいかないんだ」


「……」


 俺は、左手の甲の模様を眺めた。


 『竜の呪い』。


 一人、山奥に住んでいた頃に古代竜にかけられた呪いだ。


 これのせいで俺は一切の手加減ができなくなってしまった。常に最高主力の魔法しか使えないため、最弱の魔法をもってしても大抵の魔物は消炭すら残らないほどにダメージを与えてしまうのだ。


 これは、俺の努力ではどうにもできないことなのだ。


「まあ、これに関しては問題だが……致命的な問題ではない。使いどころの問題でもあるからな。だが――これを見ろ」


 と言いながら、俺の目の前に一枚の紙を付けつけるグレイ。


 その紙には、今月の収入と支出がまとめられていた。


「今月の赤字……4000万ジュエル?」


「そうだ! 勇者パーティは金がかかるんだよ! 給料・宿泊費・装備のメンテ代・ポーション代……その他諸々な!」


 確かに、勇者パーティは最高級の装備を使うし、体調を万全にするため宿泊場所や食事などもケチれない。


 でも、これは活動する上で最低限必要な金額であって、俺が赤字を広げているわけでは決してない。


 むしろ、俺の貢献により装備の修復がいらなかったり、ポーションの使用量を抑えられたりなどのメリットもあるはずだ。


「ま、待ってくれ。赤字に関しては俺の責任ってわけじゃないだろ!?」


「普通のパーティならそうだな。だが、お前が魔法を使うと何も残らねえんだよ! さっきお前が消滅させたジャイアントベヒーモス……素材が残っていればいくらで売れたかわかるか?」


「さ、さあ……」


「軽く見積もっても一億だ」


「い、一億!?」


 一般の村人の生涯収入が約二億五千万ジュエルほどと言われているので、とてつもなく大きな金額だ。


「いくら強い魔物を倒したって言っても実入りが少ないんじゃメンバーにボーナスも出せやしない。不満はどんどん高まってる。俺もお前の呪いの事情は知ってる。ミナトが悪いわけじゃないが、はっきり言って迷惑なんだ」


 確かに、最初は俺の強さでサクサクと敵を倒せるようになったことでありがたがられたが、次第に煙たがられるようになっていった。


 ウマが合わない人間もいるだろうと思って気にしていなかったが、迷惑だとまで思われていたとはな……。


「……ということだ。他に聞きたいことはあるか?」


「いや……」


「そうか。じゃあ、元気でな。きっとお前に相応しい場所があるはずだ」


 こうして、俺は勇者パーティを退職したのだった。


 勇者じゃなくなった以上はただの国民なので、何か仕事をしなければならないのだが……。


 グチュ。


「あっ……」


 さっきお昼のおやつ用に買った人参を手で持った瞬間に砕けてしまった。


 地面に落とさないように人参の破片を口に流し込む。


 そう、俺が手加減できないのは何も魔法だけではない。


 日常生活を送る上でも深刻なレベルで『手加減』ができないのだ。


 一般の村人のような農業や工業など、普通の仕事はできない。


 俺でもギリできるとすれば――冒険者くらいか。

 

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