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サラリーマン、異世界で働く。  作者: 雨崎 王助
漫遊編
47/123

サラリーマン、劇を観る。

海の幸でお腹を満足させてくれた店で落とし人の情報を聞いたところ、やはりキースの街の人と同じく演劇を観る事を勧められた。


劇場とかでやっているのかと思ったら、毎日夕暮れ時に街の広場で公演しているらしい。


宿を4日分取り、お土産用に干した魚や貝などを買っていたらあっという間に公演の時間になっていた。


劇に出演するであろう5人が並んでお辞儀をすると、1人が歩み出る。

「本日は落とし人″ムドラ″様を描いた劇をさせて頂きます。ごゆっくりお楽しみ下さい。」

そうか、そりゃ他の演目もあるよな。

今日の公演が観たい劇で良かった。


そして、劇は壮年の男性の語りから始まった。


300年前、南の荒野にまだ青年だったムドラが異世界より落ちる。

彼は右も左も分からぬ荒野から、狩った獣と僅かな雨水で食いつなぎながらモネアの街へと辿り着いた。


言葉も通じない中で、ムドラは獣と交換で水が欲しい事を身振り手振りで伝えたが、応える者は居なかった。


彼の額には1本の大きな角が生えており、人々はそれを不気味がっていた。

また、狩るのが難しい強力な獣を差し出していたのも、人々の目には威圧的に映った。


そんな中、1人歩み寄る少女が居た。名をネアと言う。

孤児院で暮らすネアは、ただその高価な肉が食べたかった。

ネアはムドラを孤児院まで引っ張って行くと、水を飲ませ、焼いた獣の肉をムドラと歓喜する孤児院の皆に振舞った。


次の日、ネアが貸した寝床を見に行くとムドラの姿は無かった。

どこかに旅立ったのだろうかと思ったネアだったが、2日後にムドラは現れた。また同じ獣を持って。


それから定期的に獣を狩ってくる様になったムドラに、ネアは言葉を教え、毛皮と交換で得た衣服を与えた。

狩りに出る際には、干し肉と水を持たせた。


1年が経ち、言葉を覚えたムドラは孤児達に魔素を操り獣を混乱させる術を教えた。


多くの魔素を蓄える強力な獣には、この術があまりにも効果的だった。

なんせ今までは大人が数人掛りでも怪我人が出た様な獣を、孤児が1人で狩ってくるのだ。


噂を聞いた狩人が孤児院に連日訪れると、ムドラは快く彼らにも術を教えた。

そして劇的な成果が得られた狩人達が、かわるがわる感謝とともに肉や金をムドラへと手渡しにやって来るようになった。

しかしムドラはそれを受け取ると、全てネアへと渡し続けた。


歳を取り、ネアと子を成しても、ムドラは獣を狩り、その術を教え続けた。

バラムではそれから50年で濃い魔素を持つ獣は絶滅する勢いで駆逐され、モネア周辺は劇的に開拓が進んだ。


その功績を讃え、人々は街にムドラの名前を冠することを提案したが、ムドラの望みにより彼の世界では「愛するネア」の意味を持つ「モネア」へと街の名前は改名された。


血が薄まった今でも、額に小さな角を持つハンター達がおり、彼らはその血に誇りを持って狩りを続けているそうだ。

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