サラリーマン、荒野に入る。
キースの街であらかた観光と情報集めもしたので、そろそろ宿を引き払って首都モネアへ移動だ。
モネアへは直通馬車しかないらしく、それに乗る事に決めたのだがお値段が中々だった。
2人で12万コル。今までの馬車の10倍近くした。
話を聞くと、それもそのはず。
モネアへは荒野を5日ほど進むため、野営の提供及び護衛費用も含まれるとのこと。それならしょうがないか。
ある程度の乗客を集めないと儲からないらしく、まとめて大人数を運ぶ様だ。今回の乗客は40人ほど。
野営荷物や水を載せた馬車も含めて5台で街を出た。
護衛は5人いたが、得物は剣や弓など基本的に物理武器ばかりだった。
魔法使いとかいるのかとわくわくしてたんだが、いないな。
街を出ると、乗客と荷物を乗せた馬車は縦に並んで走り、護衛は馬に乗って両脇に2人ずつ、先頭に1人の布陣で進んだ。
「凄いね。熟練の戦士って感じだ。盗賊でも出るのかな。」
「この辺はマドの生息域なので、その対策かと。多分、彼らはハンターですよ。」
へぇ、そうなんだ。
マドが何かは分からないが、危険な獣なんだろう。
「レイナさんはこういうの詳しいんだね。」
「キースの街に来た時に父がそう言っていたので…。」
「ごめん。辛い話をさせちゃったかな。」
考えれば分かる話だ。見えてる地雷を踏んじゃったか。
「いえ、父の事はもう気持ちの整理もついてますから。」
と言って遠い目をする。
まだ何かしら思う所はあるんだろうな。
実際にその″マド″に遭遇したのは移動4日目の事だった。
馬車の外から「ピーッ!!」と笛の様な音が聞こえたかと思うと、馬車が急に速度を落とし、やがて止まった。
何事かと幌の外を窺うと、道の前方で立派な牙を持つ獣が4頭集まってこちらに唸り声を上げていた。
「マドですね。大きい群れじゃなくて良かったです。」
いつの間にか隣に居たレイナさんが教えてくれた。
そうか、あれがマドか。
なんか…手足が長い猪だ。いや、猪っぽい虎?
どちらにしろ、素人が相対したら無傷でいられる様な相手じゃなさそうだ。
ハンター達はマドを前方から覆うように広がって近付いていき、太い縄で作られた網を一斉に投げかけた。
1頭が網を抜け、猛然とハンターに駆けたが、棍棒で頭部を強打されると気絶した。
凄いな。あんなのと至近距離でやり合うなんて怖すぎる。
棍棒を外してたら足を牙でザックリやられてたんじゃないだろうか。
俺にはとてもじゃないが、体を張った仕事は無理そうだ。
ハンターが残りのマドにも矢を射かけて仕留めると乗客から歓声が上がった。
「いやぁ、かっこよかったね。俺も歓声を上げたくなったよ。」
「いえ…違うと思いますよ。」
「え?」
「多分、今夜の野営でマドの肉が振る舞われるんじゃないかと。追加料金は要ると思いますが、新鮮なマドの肉は美味しいですから。」
レイナさんの言葉通り、その日の野営では有料で希望者にマド鍋が振る舞われた。
たっぷりと脂を蓄えたマドの脂身から出た、ほのかに甘みがある脂が乾燥キノコの出汁と合わさり極上のスープとなっていた。
そこに日持ちしない内蔵を入れて煮込んであり、歯応えのある心臓やホロっと崩れるレバーが何とも言えない旨さとなっていた。
こりゃあ皆、マドを狩るのを見て喜ぶはずだ。
そんなイベントもあったりしたが、その翌日にはようやく乗客を乗せた馬車はバラムの首都モネアへとたどり着いた。




