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サラリーマン、異世界で働く。  作者: 雨崎 王助
ハンナ魔道具工房出向編
25/123

サラリーマン、鬱になりかける。

ハンナ魔道具工房へ出向してから100日が過ぎた。


ひたすらに共鳴石の原石を砕く日々だった。

アウトプットの「7」に使える共鳴石だけがどうしても見つからない。

最後に使える種類が見つかってからもう30日近い。

そこからどれぐらいの共鳴石を原石から取り出したのだろう。


あとどれぐらいの共鳴石をチェックし続ければ必要な石が揃うのか。

実は結晶構造の関係上、「7」に使える共鳴石は存在しないとかなんじゃないのか。

こんな赤字を垂れ流し続けていて、工房は大丈夫なのか。

電卓が完成したとして、足し算しかできない電卓で本当に元は取れるのか。

こんなことを続けている間、普通に工房を開いていればどれだけ稼げたのか。

安易に出向を受け入れたことで、ハンナさん夫妻を不幸にしてしまったんじゃないのか。


不安で押し潰されそうだった。

ハンナさん夫妻だって明らかに疲れた顔をしてきている。

もう共鳴石を見るのも嫌になってきていて、ノイローゼにすらなりそうだった。


そんな事ばかりを考えているからか、眠りも浅くなっていた。

夜中に何回も目が覚める。すぐに寝付けないから、「ちょっとでも作業効率を上げる方法はないか」なんて考えてしまう。余計に不安になって眠れなくなる。悪循環だ。


最近はレイナさんに会って浮かれてしまうのが後ろめたくて、素材屋にはハンナさん達に行ってもらっている。

エルクやカインと話しても愚痴ばかり言ってしまいそうなのが怖くなって、家では部屋に居ることが増えた。


不安ばかりが頭をよぎる。良くない状態だ。

自分でも分かっている。

別に電卓作りをしようと言い出したのは俺じゃない。

別にこれが失敗したってガストンさんは姪夫婦にいくらでも資金援助をするだろう。工房は潰れない。

俺は「駄目だったか」とガストンさんに苦笑されて、レジーナさんの元へ戻って仕事を続けるだろう。

別にレイナさんに会って浮かれたって、作業効率は変わらない。共鳴石が見つかるかどうかとは関係ない。

別にエルクやカインに愚痴を言ったって嫌な顔はしない。「大変だなー。飲みに行くか?」とか言いながら励ましてくれるだろう。

別にレジーナさんだって俺を責めやしない。「アタシの思い付きに付き合わせて悪かったね。」なんて言うだけだ。

分かってる。頭ではそう分かっている。変な罪悪感が邪魔をして認められないだけだ。


久々に、日本に帰りたいと切に思った。


米が食いたい。味噌汁と納豆と焼き鮭もだ。

頭を空っぽにしてバラエティ番組を見たい。

心癒される小説を読みたい。

柔らかい布団に包まれて眠りたい。

温泉に入りたい。

カラオケに行きたい。1人で大声で歌いたい。

友達と麻雀を打ちたい。半分は雑談目的だ。互いに上司の愚痴を言い合いながら卓を囲むだけだ。

釣りに行きたい。わくわくしながら買った道具だけど、ほとんど釣れず、でも最後に1匹だけ釣れた魚を家でさばいて食べるのだ。

実家に帰りたい。「まーたこれかよ」なんて笑いながら、どこかほっとする味の煮物を食べたい。


何で…、俺はこんな所に居るんだ。

俺が、何をしたって言うんだ。

泣けてきた。


だが、それでも、原石を砕く手を止めはしなかった。

サラリーマンとしての意地だけが手を動かしていた。

これが、今の俺がやるべき仕事だから。

仕事をするのが、サラリーマンだから。

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