サラリーマン、通信機を納品する。
何故か開発が終わる前にバース商会から予約を受けていた通信機だが、とうとう完成となった。
開発期間約3ヶ月強の大作である。
なお、開発期間の内9割以上は通信用のケーブルを作っていただけである。
ここ最近はケーブルに絶縁性の皮を巻く時に塗る接着剤のせいで、常に手がカサカサしている。そして、ナイフで皮を一直線に切るのも随分と上手くなった。
完成した通信機は発信用と受信用にレジぐらいサイズの端末がそれぞれ1つ、そしてぐるぐる巻きになって置かれている全長7kmに及ぶ通信ケーブルが1本だ。
「いやぁ、ケーブルがこんな長さになっても魔素のやり取りが出来るんだから、本当にカジャさんの″魔伝機″は凄いよねぇ…。」
完成した通信機を見つめるハンナさんがしみじみとそう言うと、カジャさんは少し照れつつそれに応えた。
「いやぁ、魔道具職人としては恥ずかしい事ですが、私ではケーブルで繋ぐという発想は無かったですからね。ここまでの長さでも使えるとは…。ハマダ魔道具工房に共同開発を持ち掛けて良かったです。この″通信機″は来年か再来年の鉱石祭には間違いなく選ばれますよ。」
そう言えば2ヶ月後ぐらいが今年の鉱石祭か?
去年は特に新しい魔道具を作っていないから当たり前かもしれないが、今回は招待状は来なかったな。
前回は開催の半年前ぐらいに招待状が来てたから、鉱石祭が終わってから半年ぐらいの間に翌年の招待者を決める感じなのかな。
「まあ、鉱石祭の件はさて置き、通信機の納品に行きましょうか。ガロンさんもお待ちかねみたいですし。」
あのおっさん、一昨日もそわそわしながら工房に顔出して「そろそろか!?」とか言ってたからな。
7kmに及ぶケーブルは重すぎてとても3人じゃ運べないので、とりあえず通信機本体だけを持ってバース商会の事務所へ訪れた。
「ガロンさーん、できましたよー。」
「おお、ヤマダ!とうとう来たか!」
このおっさん、いい笑顔をしやがる。
遠足の日の幼稚園の様に無垢な笑顔だ。
納品に関してだが、今更ながら価格交渉から行われた。
そもそもこいつは開発途中だったので、価格も何も無かったのだ。結局はハンナさんが交渉して、原材料費に職人3人の給料+αを乗せた900万コルで決定した。これ、ほとんどがケーブルの材料費と加工品だろうなぁ…。
通信機自体は50mまでの距離で遮蔽物が無ければ無線でも使えるため、通信用の変換表を渡して試して貰った。
「ガロンさーん、行きますよー!」
開始の声を掛けると、俺はさっそく通信を送る。
00 00:″通信開始 通信開始″っと、
51 27 63 22 59 46 48 36 91:″通信テストです。″
99 99:″通信終了 通信終了″
受信機側ではガロンさんが見守る横で事務のお姉さんが数字のメモを取っていた。
「どうだ、ネサラ。」
「えーと…″つうしんてすとです。″ですかね。」
「なるほど…。離れた場所でこのやり取りが出来るなら相当便利だな。」
問題無く受信が出来た様なので、受信機側に行って補足だけしておく。
「ガロンさん、俺が作った通信表では75から89は空いてるので、好きに使って下さい。例えばよく使う素材をリスト化しておいて、76を″素材リスト1″とかに使えば″76 03″の4文字で″リスト1の3番目の素材″と送信できます。そうすれば、1文字ずつ入力や読解する手間も省けますしね。」
「分かった。それは配達員と相談してやっておく。あとは早くケーブルを引いて使える様にせんといかんな!」
そうなんだよなぁ…。
これから約7kmに及ぶケーブル設置工事があるんだよな。




