消毒メロンサワー
夏の昼下がり、気温は下がることをしらない。
日中ずっと外を駆け回っていた私は、既に喉がゴビ砂漠のようにカラカラだ。
「自販機──あったかな、この辺に」
しかしいくら目をこらしても辺りに見えるのは草木、そして一面に広がる田んぼ。
こんなど田舎に自動販売機など置くメリットはないので、業者が態々営業しに来ることはない。
「はあ、いやしかしこれは困ったな」
だんだん喉が痛くなってきた。
家に帰ろうにも遠すぎる。
真夏の太陽が照りつけて肌がやける。
意識が朦朧としてきた。
ふと、顔を上げると目の前に、どこか懐かしさを感じさせる古い建物があった。
看板を見ると、どうやら駄菓子屋のようだ。
「良かった。」
掠れた声が漏れる。
駄菓子屋なら冷えた飲み物のひとつやふたつあるだろう。
俺はそう思って店の中へ入っていった。
「いらっしゃい」
こちらに一瞥もくれず新聞に目を落としたまま店主が言う。
私はもう限界の喉から声を絞り出し尋ねた。
「何か飲むものはありませんか…なんでもいいんです…」
すると店主はそのままの姿勢で
「あるよ。メロンサワーがね」
と言った。
やった!これでようやくこの乾きから解放される!
俺は声も出せないまま喜んでいた。
しかしその後、店主はこう言葉を繋いだ。
「だけど、このメロンサワーには…」
「には…?」
店主は一瞬静かに黙り込み、そして
「強力な消毒作用があるのさ」
と、今度はしっかりとこっちを見て言ってきた。
いやこっち見過ぎじゃない?ガン見じゃん。こわ。
「消毒作用?」
私は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で店主の言葉をオウム返しした。
店主は変わらずこちらを凝視したまま続けた。
「ああ、女房が消毒用洗剤を間違えてメロンサワーに入れてしまってね。
生憎今店内に飲めるものはそれしかないんだ。」
そんなことある?
しかし今の私はその言葉を発する気力さえ失われかけていた。
背に腹は代えられない。
多少消毒液の味がしたところできっとメロンサワーがかき消してくれるだろう。
私はそう信じてメロンサワーに勢いよく口をつけた。
刹那。
強力なアルコールのにおいが喉と鼻を貫いた。
明らかに消毒液の割合のほうが多かった。
あまりの味とにおいで頭がくらくらする。
いや違う。
消毒液のアルコールで酔っているのだ。
それに気づいたときには疲れ切った体を
消毒液のアルコールが神経インパルスの如きスピードで巡っていた。
私は気を失った。
私は気を失ったのか?ふと疑問が脳内を駆け巡った。
その刹那、自身の全シナプスに電流が走った。
電流が走ったように感じたのではなく、確かに電流が走ったのだ。
「ハッハッハッ…実に、実に素晴らしい」
ふと、そんな声が聞こえて目を開けるとそこは今まで自分がいた場所とは大きく異なっていた。
ただただ、そこには平野が広がっていた。
そしてそこにはいま二人しか存在していないようだった。
一人は自分。もう一人は先ほど声を発していた人物だろう。
「店主!?」
そう、そこには店主がいたのだ。
「君はこの一瞬であたりを平野に変えるほどの大爆発を起こした。
しかし、君だけは生き残っている。このようなことは私が実験を始めて以来君が初めてだ。
どうだね?私たち『EDA』に入隊して宇宙からの侵略者を共に撃退しようではないか」
「はいっ!」
私は元気よく返事を返した。
to be continued...