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【第1話】朝



窓など無いこの部屋で朝だという事を知る術は、部屋に備え付けられたスピーカーから流れる時報に限られる。

スピーカーからの軽快な音楽によって、わたしたちは朝の訪れを知る。


「………ん…」


いつものメロディーに意識を覚醒させ、目を開く。

そのままゆっくりとベッドの上に起き上がり伸びをしたわたしは、部屋の隅に座っている巨大な人型を視界の端に捉えてびくりと身体を震わせた。


「うわっ⁉︎…ああ、そうだった。昨日わたしの元にヒューマノイドが配属されたんだったな」


寝ぼけた頭を振って覚醒させながら、スリープモード状態のヒューマノイドに近寄る。

狭い部屋の片隅に鎮座した巨体はより一層大きく見え、威圧感を放っている様な気がした。


わたしがまじまじと観察していると目の前のヒューマノイドの身体から機械音が鳴り始める。


そしてヒューマノイド『ナクロ』は側頭部の青い明かりを点滅させると上半身を起こした。


「おはヨうございます、マスター」


「ああ、おはよう…」


その動きがあまりにスムーズで、わたしはナクロを構築する機械の身体に目を奪われる。


見れば見るほど滑らかな体。

継ぎ目も自然で、その関節は人間と遜色ない動きが出来ているように思える。

表面の素材は何だろうか?無駄の無い造形の白く美しいボディは、何の素材で出来ているのだろう。


「…マスター?」


不躾にその身体を見つめていたわたしは、その問い掛けで我に返り顔を上げた。


「ごめん、何でもない。…もう集会所へ行こうか」


わたしが部屋の扉を開けると、ナクロは無言で付き従う。人工的な光が灯る廊下に出て私は集会所へ向かった。





















半透明なドーム状の天井から太陽の光が降り注ぐ集会所には、既に何人かの子どもたちが集まっていた。

様々な年頃の子どもが集う中で、蜂蜜色の髪を三つ編みにした少女と目が合う。


「セーラ‼︎」


少女はその紺碧の瞳を緩ませてこちらへ駆け寄ってきた。


「おはよう‼︎今朝は早いのね、ノフスよりも早いわ‼︎」


そう言いながらやってきた彼女は、わたしの目の前で立ち止まり目を瞬かせる。


「…セーラ、あなた何だか今日は髪がぼさぼさじゃないかしら?いったいどうしたの?」


その言葉に、今朝は身だしなみのチェックを忘れていた事に気がついた。


「はは…うっかり髪をとかすのを忘れたみたい」


わたしが頭を掻きながら気まずく笑うと、目の前の少女はポケットからごそごそと鏡を取り出す。


「まだ朝の集会まで時間はたっぷりあるわ。わたくしの鏡を貸してあげる」


差し出された彼女の手からありがたく鏡を受け取りかけて、彼女の言葉の違和感に気が付き手を止めた。


「"わたくし"…?ミル、昨日まではそんな言い方していなかったよね?急にどうしたの?」


わたしが尋ねると、ミルは蜂蜜色の三つ編みを揺らしながら得意げに笑う。


「ふふ、いいでしょう‼︎高貴な姫君は自分の事をこう呼ぶんですって‼︎昨日読んだ本に書いてあったの。だから、これからは自分の事を"わたくし"って言うことにしたわ。ね、素敵でしょう?」


純真そのものといった笑みを浮かべるミルにわたしは曖昧な笑顔を返す。

(何かズレている気がするなぁ…)

そう思いながらも、わたしはそれ以上何も言えず彼女の鏡を受け取った。


鏡にぼさぼさの髪をした自分の姿が映る。乱れた焦茶色の髪を整えると、髪に隠れていた若葉色の瞳がよく見えた。


「どう?整った?」


ミルが鏡を覗き込み、彼女の白磁の様な肌とわたしの褐色の肌が隣り合う。


その時、背後からコツ、コツ、と足音が響いた。


「セーラ、ミル。おはよう」


聞き慣れた少年の声が聞こえて、わたしとミルは後ろを振り向く。


「ノフス、おはよう」


わたしからの挨拶を聞きながらノフスは眠そうに欠伸をする。癖のある赤茶色の髪が揺れ、瞼の奥の琥珀色をした瞳がトロンとした鈍い光を帯びた。


「ふぁ〜…。早いな2人とも。ミルはいつも通りだが、セーラがこんなに早く集会所に来ているなんて珍しい。毎晩毎晩、機械ばかり弄って夜更かししているのに昨日はしなかったのか?」


眠たげに問いかけるノフスにわたしは苦笑する。


「昨日はヒューマノイドと初めて会った日だったから、流石にそんな気になれなかったよ。何だか、残りの寿命を突きつけられたみたいな気持ちになってしまって」


わたしがそう話すとノフスは何とも言えない顔をした。


「セーラは機械が好きだから、てっきりヒューマノイドが支給された事を喜ぶと思っていたけどな。機械がそこまで好きなわけじゃないオレだって気分が上がって遅くまで起きていたくらいだし。…まぁ、セーラは自分の親を探そうとする様な変わり者だから、どんな思考回路になっても不思議じゃないか」


ノフスが呟くのと同時に、ミルが場を仕切り直すように手を2回叩く。


「そうだわ、ヒューマノイドよ‼︎わたくしたち3人は12歳になった証として昨日ヒューマノイドを支給されたのだから、それを見せ合わない?確か、支給されるヒューマノイドは1人1人違うのでしょう?」


ミルの弾ける様な笑顔にノフスが頷いた。


「いいな。オレもお前たちのヒューマノイドがどんなものか見てみたいと思っていたんだ。誰から紹介する?」


ノフスがそう言った途端。

妙に間延びした様な振鈴の音が集会所に鳴り渡った。








その瞬間、子どもたちは一斉に集会所の出入り口を見つめる。


十数人の子どもたちの視線を浴びた扉は、やがて駆動音を響かせながら開いていった。










扉の向こうに立っているのは、ローブを身にまとい顔をベールで覆い隠した数人の大人。


彼らは粛々と集会所の奥にある祭壇へ登る。

そして大人たちは祈りを捧げるように天を仰ぐと、私たちの方へ向き直り言葉をかけた。


「さぁ、子どもたち。朝の集会を始めますよ」





本作、「ヒューマノイドな彼と余命3年のわたし」は一時的に休載致します。

後日また連載再開しますので、何卒よろしくお願いします。

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