8 監禁部屋
その日、市民Eはワクワクしていた。それはリアル人狼ゲームがつまらない冗談ではなく、本当に行われると確信したからだ。
楽しみにしている理由は、ずばりゲームに参加する悪人どもを始末できるからであった。過去に掃除と称して汚れ者を殺したことがあったので、後ろめたい気持ちは一つもなかった。
疚しい気持ちを抱くどころか、ラブホテルの部屋へ辿り着いた時には、このゲームに参加するために必要な通過儀礼だったと都合よく考えるのだった。
「これがラブホテルか」
そういうホテルがあることは知っているが、異性に興味がなく、ドラマや映画も見ないため、全てが新鮮に感じられたのだった。
荷解きをして、といっても着替え以外の持ち込みは禁止なのでカバンを部屋の隅に置いただけだが、それからすぐにキングサイズのベッドに横になるのだった。
(なるほど)
シャンデリアが気になるようで、起き上がって、ベッドの横にある証明パネルを適当にいじり始める。
ピンクの発色に変えることができたが、必要性を感じないのか、すぐに色と明るさを調整し直すのだった。
それから分厚い遮光カーテンを開けてみるが、逃走防止のためか、板が打ち付けられていたので、換気をすることもできず、諦めてカーテンを閉め直すのであった。
(なるほど)
お酒を飲むためのソファ席があり、テーブルの上にはノートパソコンが置かれているが、そこには座らずに、先に冷蔵庫の中を確認するのだった。
中には缶ビールなどはなく、ペットボトルの水がギュウギュウに詰められているだけであった。だからといって残念に思わないのが市民Eであった。
それからダイニングテーブルに目を移したが、ラブホテルを知らなくても、それが部屋にそぐわないことは分かったようである。
「レンジに、瞬間湯沸かし器に、段ボールの中は……、パックご飯と、カップ麺、レトルトに、缶詰ね」
テーブルの下に置かれた段ボールの中身を確かめながら、誰にともなくブツブツと呟くのだった。
テーブルの上には他にも夏みかんやメロンなどの果物がバスケットいっぱいに盛られていたけど、食事を済ませてきたばかりだったので手をつけることはなかった。
(なるほど)
どうやら心の準備が整ったようである。