7 ラブホテル
その日、市民Dは浮かれていた。それは動画の撮影に協力すれば大金を手に入れることができるからだ。
配信スタッフ――これは市民Dによる思い込みだが――そのスタッフによると、犯罪者と一緒にゲームをするだけで賞金が貰えるということで、それでウキウキしているというわけである。
マンガの真似事かバラエティ番組の真似事かは分からなかったが、動画が儲かっていることは聞きかじっていたので、すっかり信じ込んでしまったわけだ。
市民Dの希望は、名前を公表しないことと、顔にモザイク処理をする、その二つだけであった。
配信スタッフとは話が噛み合わなかったが、それも最初だけで、参加の意思を示すと、そこで全ての要求が受け入れられたのだった。
(でも、なんでラブホテル?)
不審に思ったが、警戒することはなかった。それが仮にアダルト・コンテンツであっても問題ないと考えたからである。
このご時世、ハードな撮影があったとしても、訴えられるようなことはされないと、そういった裏事情も知っているから、安心して駅前に停車しているタクシーに乗り込むのだった。
「ハイランドの手前まで」
本当は「北星アイランド」という名前のラブホテルが撮影場所だったが、スタッフからタクシーを利用する時は場所を伏せるようにと忠告されていたので、下車してからは歩いて支笏湖通りの沿道にある目的地に向かうのだった。
(もっといい場所なかったの?)
小高い丘と住宅地を分けるように通っている道で、夏休み期間の昼間でも人の姿を見掛けないという寂しい道なので、つい愚痴りたくなったわけだ。
配信スタッフによると、廃業したばかりのラブホテルを利用するということで、その説明だけで納得するのだった。
一事が万事、このような調子だった。狼男が市民Dの勝手な解釈に話を合わせたので仕方のない部分もあるが、お金が絡むと自分に都合よく話を作れるタイプのようである。
それは過去に犯した罪に対してもいえることだった。逮捕はされたものの、一貫して犯行を否認するものだから、証拠不十分として不起訴処分を勝ち取ったのだった。
(やっと運が向いてきた)
これから想像を絶する殺戮ゲームが始まるというのに、まるで名女優であるかのようにラブホテルに入って行くのだった。