4 遺書
その日、人狼Bはワクワクしていた。金欠で困っていたところに、降って湧いたような儲け話が舞い込んできたからだ。
ゲームマスターに旅費がないことを伝えると、指定の馬券を購入するようにと言われ、それで飛行機代を稼げたものだから、疑う気持ちは一瞬で吹き飛んだというわけである。
なんとか逃げ回ってきたものの、掴まるのも時間の問題だと思っていたので、救いの手がヤクザでも構わないと思っていたところだ。
だから狼男との約束通り、シェアさせてもらっている男の部屋で遺書を認めているというわけである。
百億を掛けたゲームに参加する条件は、死んでも自殺だと思われるように家を出ること、それだけだった。
(こんなことが起こるのを、ずっと待っていた)
百億を手に入れたら、悪い仲間とも縁を切ることができる。振り返れば、自分から悪事を計画したことなど一度もなかった。
悪い仲間とつるむことによって、仕方なく付き合い、制裁を受けないようにと、身を守ってきたのである。
(この際だから、稼ぎの悪い同居人ともオサラバしよう)
悪い仲間はよく稼ぎ、いい人は稼ぎが悪い。どちらも、もうたくさん、というのが人狼Bの本音であった。
(人生を誰にも邪魔させない)
しかし遺書を書こうとするが、一向に筆が進まず、リビングにあるテーブルの前に座ったまま、時間だけが過ぎて、チューハイの空き缶だけが増えていくのだった。
(アイツ、どんな気持ちで書いたんだろ?)
思い出したのは、人狼Bが中学生の時に自殺したクラスメイトのことだった。学校が「イジメの事実はない」と処理したので、単なる自爆しただけになった、バカな女。
その時も悪い仲間のせいで一緒にイジメをさせられたけど、クラスメイトは誰一人として悪くなかった。
なぜなら担任が一番にその子をイジメていたからだ。むしろ担任が悪い仲間にイジメを嗾けていたきらいがあった。
(みんな被害者だった)
そんなことを思い出しながら、人狼Bはウキウキした気持ちで遺書を書き上げるのだった。