39 エンディング
九人いたプレイヤーのうち、最後までパソコンのモニターに残り続けたのはリーダーとフェミニンの二人だけだった。
「リーダー、勝ったよ」
そう言って、カメラに向かって手を振った。
「信じてたぞ」
リーダーも満面の笑みで相棒を労った。
「最後の投票で僕が裏切ってたら引き分けだったんだね」
「そうなったらセカンド・バトルをやらされたんだ」
「危なかった」
「迷ってたのかよ」
そこで二人は笑い合ったが、既に処刑された人たちのことは頭にない様子であった。
「残念だったぜ」
それがゲームマスターの感想だった。
「生き残ったお前たちなら、次は経験者としてもっと面白いバトルをしてくれるんじゃないかと思ったんだけどな」
死神にとっては暇つぶしのようなものであった。
「賞金はちゃんと貰えるんだろうな?」
リーダーはお金のことしか頭にない様子である。
「当たり前だ」
「百億だぞ?」
「俺を誰だと思ってる?」
「信じるとしよう」
フェミニンが呼び掛ける。
「リーダー、ここを出たら一緒に旅行しようよ」
「その格好は、ちょっとな」
「なんでよ?」
「一緒にいる俺の身になってみろ」
「もっと可愛くなるから」
「いや、そういう問題じゃなくてだな」
そこで狼男が話をぶった切る。
「ドアの鍵は開いてるんで、続きは後にして、早く帰ってくれねぇかな」
ということで、二人は解放されて、晴れて自由の身となったのだった。
* * *
リーダーが廊下に出ると、待ち構えていたフェミニンが喜び勇んで駆けて来るのだった。
「リーダー」
「うっ」
フェミニンが勢いよく飛び込んで、それをリーダーが半身で受け止めて、そのまま二人は抱きしめ合うのであった。
「あぁっ」
切ない表情で見つめ合う二人。
「これが、お前の、感謝の気持ちってわけか」
「リーダーも、同じことを考えていたんだね」
二人とも息ができないくらい苦しそうであった。
「半分でも、五十億だぞ?」
リーダーの頭の中は、やはりお金でいっぱいだった。
「そう、こんなチャンスは、二度とないから」
フェミニンも同じだった。
「誰も来ないだろうな……」
「二人きりだもんね……」
そこで廊下の床に、折り重なるように倒れ込むのであった。
* * *
「おいおい、どういうことだよ」
白狼男が廊下で倒れている二人を見つけて驚いた。
「なんだ、どうした?」
遅れてやってきた黒狼男が現場を確認するなり、リーダーとフェミニンが死んでいるのを見て、呆れ果てるのだった。
「こんなことするかね」
「人間ってのは、本当に罪深い生き物だな」
理解できない白狼男に対して、黒狼男の方は達観している様子だった。
「半分で充分だろう。なんで独り占めしようとするんだ?」
「欲望の果てってヤツだな」
白狼男は納得できない感じであった。
「一億じゃ現実的だから、ぶっ飛んだ額にしたのによ」
「頭のネジまで飛んじまったみたいだ」
白狼男が弁解する。
「何もこんなことをさせるためにメロンを用意したわけじゃないからな」
「解ってるって」
死神にとっても予想外の行動だったようである。
「俺はゲームに参加してくれたお礼にメロンをプレゼントしたんだ」
「それを切るために用意した包丁で殺し合うんだから、犯罪者ってのは救いようがねぇな」
こうして人狼チームも全滅して、ファースト・バトルの幕が閉じたのだった。
あとがき
登場人物が過去に殺人を犯した人しかいないという設定でしたので、最後まで読んでもスッキリしなかったと思われます。
ミステリーにも良い騙し方と悪い騙し方があって、この内容でトリックを用いていいのか、書き終えた今でも葛藤があり、読み手によっては不快にさせたのではないかと心配しています。
社会派サスペンスなど、現実社会で起きた事件を題材として小説を書くことは昔からよくあるのですが、本作の場合はそれをゲーム小説として描いたことに不安を抱きました。
事件の関係者がご存命中ということもあり、多少のアレンジを加えたものの、読めばピンとくる事件も何件か扱っていますので、事件をエンタメにしていいのかという懸念を抱いたのです。
不謹慎だとか、現実問題を扱うならノンフィクションとして書くべきだとか、私の中でも批判的な意見があります。
それでも公開しようと思ったのは、ゲーム小説という特殊な状況下に置かれた者たちにしか生み出せないセリフが描かれていると思いましたので、そこに価値があると判断して、公開を決意しました。
私は流行作家どころかプロ作家でもないので、社会的影響など気にすることもないのでしょうが、小説家になろうのサイトをお借りしているということで、こうして一筆添えることにしました。
そして、何よりも、せっかく読んで頂いた方が、心を痛めないかと、そのことを憂慮したというのが一番にあります。
傲慢な考えであることは重々承知しておりますが、本作は事件で亡くなられた方の無念を晴らしたいという一筆入魂の思いを込めて書き上げた作品です。
読んで下さる読者の方に対して、決して傷つける意図はなかったということを、ここに記しておきます。
21年7月21日 灰庭論