38 四日目 夜の襲撃
お姉さんが襲撃を受けて、リーダー、フェミニン、地味子、コドモの四人で会議を行って、投票によってコドモの追放が決まった、その直後の様子。
「……どうして、どうして信じてくれなかったの」
処刑が決まったコドモが地味子を責める。
「私は『騎士』で、昨日の夜も守ってあげたのに」
これまでと違って会議が終わらないので、地味子が戸惑っている。
「ごめん、途中まではリーダーに投票しようと思ったんだけど、最後にフェミニンさんにまでリーダーに投票するように呼び掛けていたから、やっぱり騙してるんだと思って」
リーダーの思惑とは少し違っていたが、結果は人狼チームの大勝利となった。その結果を受けて、リーダーが本音で語り始める。
「地味子の言う通り、君が最後に欲を出さなければ引き分けになっていたかもしれないな。それくらい俺たち人狼チームにとっては不利な状況だったんだ」
そこで地味子も過ちに気がついてショックを受けるのだった。
「リーダーが『人狼』……、ああ、ごめんなさい」
コドモが慰める。
「私が悪かったから謝らないで――」
そこでゲームを振り返る。
「本番で役職を引いた時の場合を想定して、練習から黙っていたんだけど、それが失敗だった。『騎士』としては最後まで生き残ることができたから悪くなかったんだけど、チームとしては最悪の『市民』だった。この結果は、私の人生そのものかもしれない。他の誰かが疑われて、その事実を知ってるけど、知らんぷりしちゃった。それで結局、息を潜めながら、冤罪で疑われている人に対して救いの声を上げなかったから」
自身が犯した毒殺事件のことを思い出しているのだろう。
「チームを勝たせるためには、襲撃を阻止することで『市民』だと確信できた少女を助けなければならなかった。でも、あの時、私までリーダーに投票したら、その夜にリーダーに殺されると思って、怖くて、できなかった。だって『騎士』は、『騎士』だけが、自分を守ることができないから」
凍えるような溜息を一つ。
「こんな結果になるなら、勇気を出して仲間を救っておけばよかった。私が言うと、嘘っぽく聞こえるかもしれないけど」
リーダーが質問する。
「最後はなんで俺だったんだ? 人狼チームの企みに気がつくことができたなら、投票先はフェミニンでも良かったはずだ」
コドモが答える。
「リーダーが思うほど、私は全てを見抜いていたわけじゃない。フェミニンが『人狼』というのも証拠があるわけじゃなく、頭の半分はリーダーの自作自演だと思っていた。それにフェミニンが『人狼』でも、そこまでリーダーを信頼してるとは思わなかったから。私自身が人を信用しないから、みんなもそうだと決めつけてしまった」
それが最期の言葉となった。
「それでは処刑の時間だ」
ゲームマスターが登場した瞬間、コドモが顔面を歪ませて、息絶えたのだった。
「狙ってたわけじゃないが、毒殺魔が毒ガスで死ぬってのも皮肉な話だな」
そこで生き残った三人に画面越しに呼び掛ける。
「『人狼』は『人狼』を襲撃できないため、これにてゲームは終了だ」
地味子がカメラを見つめる。
「命だけは助けてください」
若い女の命乞いに対しても、狼男は素っ気なかった。
「殺した婆さんの世話をするためにも、早くあの世へ逝くんだな」
こうして地味子は狼に食べられたのだった。