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37 三日目 夜の人狼会議

 マジメの襲撃に成功した後、昼の会議で計画通りに少年を追放することができた、その直後の様子。


「リーダー、やったよ」


 前日に計画していた作戦が成功したので、フェミニンが大喜びした。その姿を見たリーダーも嬉しそうであった。


「お姉さんの提案は雑だったけど、俺たちにとっては理想的なアシストだった。その場で思いついたかのような演技も自然だったし、あれなら誰も俺たちの狙い通りの作戦だとは思わないだろう」


 フェミニンが振り返る。


「自然っていうけど、すごくドキドキしてたんだよ? マジメの襲撃が成功したから、ああっ、作戦を決行しないといけないって思って、ずっとそのタイミングを窺ってたの。お姉さんがいなかったら自作自演するところだったし、感謝だね」


 そこでリーダーに質問する。


「でも、どうして『騎士』はマジメを守らなかったんだろう? リーダーは少年を守るって予想してたけど、僕はイマイチ納得できなかったんだ。どう見ても怪しいリーダーを一番に疑ってたマジメは『市民』だったのに。リーダーも完全には襲撃が成功するとは思ってなかったよね? だって作戦を決行するのはマジメの襲撃に成功したらって、何度も念を押してたんだもん」


 リーダーの考察。


「俺たちは人狼チームだから疑問に思うけど、市民チームからしたら同じゲームでも見え方が違うのかもしれないな。相手の立場で考えてみたんだが、マジメの言動って『人狼』っぽいんだよな。オッサンを追放することに否定的だったが、結局は追放する。二日目も俺を疑ってたのに、結局は少女に投票する。それって、どちらも俺と同じ投票先なんだよ。だから『騎士』には俺とマジメが人狼コンビに見えていたのかもしれない」


 そこでフェミニンの疑問。


「なんでマジメは意見をコロコロと変えたんだろう? 場を荒らすだけで、結局はリーダーの言う事を聞いちゃうんだもん。見た目は頭が良さそうなのに、やってることはバカっぽい」


 リーダーが分析する。


「それは賞金の山分け制度が理由だと考えられる。俺たち人狼チームは折半だけど、市民チームは生き残った者での均等割りだからな。俺だって『市民』だったら、早めに『人狼』を見つけても決着を急がずに、味方を減らす作戦を考えていたさ。理想は二人での山分けなんだから、自分が疑われていない状況は、賞金を増やすチャンスだと考えたのだろう。遊び版では起こらないことが、リアル版では起こってしまうんだよ。それがましてや、参加者が犯罪者しかいないのなら尚更だ」


 フェミニンが重ねて質問する。


「そもそも『騎士』は誰なのかな? 少女は守られたから違うとして、じゃあ誰なんだろう?」


 リーダーが推察する。


「それに関しては確信が持てないのだが、三日目の会議を見る限り、お姉さんでないことはハッキリした。『騎士』はカミングアウトしない役職だから、疑われるリスクの高い回し役をするはずがないからな。彼女が三日目にして積極的になったのは、イジメる前にイジメてやろうっていう、加害者特有の防衛本能が働いたのだろう。男の機嫌を損ねないように子供を虐待するという、クソみたいな性格がそれを証明している」


 推察を続ける。


「マジメも違うだろうな。『騎士』にしては無駄に攻撃的すぎる。俺の意見に乗っかって私刑に追従したということは、正義感はあるのだろう。だけど俺の場合は『人狼』だから、戦術がゲームと上手くマッチしただけなんだ。誰が敵営か分からない『市民』がやっていい作戦ではない。過去に犯した罪がそうであるように、正義の鉄槌を下すことに酔ったばっかりに、溺れて自滅したっていうことだな」


 フェミニンが首を捻る。


「あれ? マジメって子供をレイプして殺したんだよね? それが正義と何の関係があるの?」


 リーダーが意外そうな顔をする。


「なんだ、解ってなかったのか。子供を強姦したのは俺だぞ? マジメはホームレスの殺害だ。奴が生き残っていたら犯罪の交換をすることができないから、襲撃の成功を条件にしたんだ。お姉さんも言っていたが、三日目の会議に残っていた女は三人だ。そこで子供をレイプしましたなんて正直に告白してみろ。どう考えても俺が追放される流れになっていた。ホームレス殺害に関しては少年の可能性も残っていたから最後まで様子を見ていたが、アイツが悪びれる様子もなく、中学生をレイプしたことを自慢げに告白してくれたから助かったよ。最後は犯罪自慢をして自滅するんだから、それもアイツらしい死に様だよな」


 フェミニンが引いている。


「リーダーが一番の極悪人かも」

「そのおかげで勝てたということを忘れるな」


 リーダーによる脅しだった。


「俺の相棒がフェミニンではなく少年だったら、毒親のお姉さんに投票する流れにしていた。親の責任は何よりも重いって説得してな。子供が理不尽な目に遭って親が裁かれないなら、俺たちが裁くしかないって呼び掛けるんだよ。それをせずに開き直るから少年は負けたんだ。お姉さんがいなければ他の者をターゲットにしていたし、マジメと犯罪を交換できた時点で、俺の負けはなくなったというわけだ」


 フェミニンがホッとする。


「リーダーと一緒のチームで良かった」


 リーダーが褒められて嬉しそうだ。


「このゲームは、いかに自分を棚に上げられるかに懸かっている。この中で罪のない者だけが石を投げなさいって、ここには犯罪者しかいないわけだからな。そういう状況なら、より大きな石を持てる者が勝つに決まってるんだ」


 フェミニンが陶酔しているかのような顔で見つめている。


「犯罪を上手に隠しながら生きているリーダーは、まさに『人狼』にピッタリな生き方をしてきたわけだね」


 リーダーの表情は涼しげだ。


「君もな」


 そこでフェミニンが次なる作戦を仰ぐ。


「今夜の襲撃だけど、誰にするか決めているの?」


 リーダーが難しい顔をする。


「それに関してだが、君に決めてもらいたいことがある。俺としては、お姉さんを襲撃したいと考えているんだ。なぜならそれは、明日の会議で勝つための最善策だからだ。お姉さんは君の犯罪に反応していただろう? 他の者からしたら、ここでお姉さんを襲撃すると、君が『人狼』で、それで自分が追放されるのを恐れて襲撃したと思うはずだ。しかし、そこが狙い目なんだよ」


 意図を詳しく説明する。


「俺を疑っていたマジメが襲撃されて、次に君にとって邪魔なお姉さんが消えれば、俺たち二人が人狼チームなんじゃないかと思える。しかし同時に裏があるんじゃないかと疑うから、そこで別の者に疑いの目が向けられる可能性もあるんだ。そうやって俺たちの味方をしてくれそうなのが地味子なんだよ。彼女だけが、このゲームを人狼ゲームのルールで戦おうとしている。初心者に毛の生えた程度のレベルしかない彼女なら、隠れ『人狼』の存在を疑うんじゃないかと思ってさ、だからお姉さんを襲撃したいんだ」


 そこで極まりが悪そうな顔をする。


「それをどうして君に決めてもらいたいかというと、俺なら詭弁を用いて、潔白を主張しながら君に票を集めることが可能だからだ。俺のプランに乗るということは、俺に騙される可能性もあるわけだから、それを踏まえて決めてもらいたいというわけだ」


 フェミニンに悩んだ様子は見られなかった。


「僕はリーダーに任せるよ」


 心から信頼している感じであった。


「ありがとう」

「でも、地味子が裏読みしてくれるとは限らないよ?」


 リーダーが考察する。


「正直に言うと、地味子に関しては確信が持てない。『占い師』を見つけ出そうとしたから『騎士』なんじゃないかと思ったが、『騎士』にとって白が確定している少女を助けなかったので、違うような気もするし、そこはハッキリと分からないんだ。しかし詐欺の片棒を担ぐような奴だから、そいつ自身も騙されやすい人間であることは間違いない。自分は騙す側であって、騙される側ではないと思っているかもしれないが、親玉にいいように使われてる奴なんか、頭が良いわけないんだ。だから人狼ゲームでも、解った気になって、間違えた推理を連発するタイプでもあるんだよ」


 フェミニンが尋ねる。


「ということは、一言も喋らないコドモが『騎士』っていうこと?」


 そこはリーダーでも確信が持てない様子だ。


「だとしたら大したもんだよ。もしもオッサンと人狼コンビになってたら、会議で喋らないことを理由に真っ先に追放していたんだが、彼女の存在は、俺が『占い師』ならカミングアウトしないという主張の助けになったからな。コドモが隠れ『人狼』のような戦い方をしてくれたおかげで、俺たちは救われたというわけだ」


 そこで緩んだ表情を引き締め直す。


「ただし、俺たちが不利な状況であることに変わりはないので気を抜いたらダメだぞ? 今夜の襲撃が成功したら二対二で俺たちの完勝だったのに、特殊ルールがあるから、負ける可能性もあるんだからな」


 フェミニンが驚く。


「え? 僕とリーダーで二票だから、引き分けはあっても、負けることはないんじゃない?」


 リーダーが説明する。


「俺たちのどちらか一人が裏切れば、そこで終わりだ。地味子がコドモを疑う流れになるが、そこで流れを変えられたら、普通に死ぬ可能性があるんだよ。さらに地味子とコドモのどちらかが『騎士』ならば、市民チームにも勝つ可能性が残っている。本来なら楽勝だったのに、そこで終わらないということは、人狼チームだけが損をするルールだったというわけだ」


 フェミニンが宣言する。


「僕はリーダーを裏切らないよ」

「俺だって裏切らないさ」

「本当に?」

「当たり前だろう」

「信じていいの?」


 最後に理由を説明する。


「俺が裏切って君に投票したとしよう。だからといって、地味子までが君に投票するとは限らないんだ。そうなったら引き分けだぞ? ドローは最悪だ。それを避けるためにも、裏切りがあってはならないんだ」


 フェミニンが疑問を持つ。


「コドモが疑われたら、僕たちのどちらかに矛先を向けて追放しようとするよね? その時に地味子は流されたりしないかな? もしもコドモと同じ投票をしたら引き分けになっちゃうよ?」


 リーダーにとっては想定内の指摘だったようだ。


「そうならないために地味子の推理を認めてやるんだ。彼女は何をやってもダメって言って、自分に自信が持てない感じだっただろう? そこで俺が肯定してやれば、認められたことが嬉しくて、俺を裏切ることができなくなるはずだ。前に否定して凹ませたことがあるから、俺に認められることに特別な感情を抱くはずだ。もしもコドモがフェミニンではなく、俺に矛先を向けたなら、その時点で勝利は確実だから、その選択が運命を分けることになるだろう」


 こうして人狼チームの二人は四日目の会議に臨むのであった。

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