36 二日目 夜の人狼会議
少女への襲撃は『騎士』に阻止されるも、昼の会議で少女を追放することに成功した、その直後の様子。
ここまで『人狼』のリーダーとフェミニン、『市民』のマジメ、お姉さん、少年、地味子、コドモの七人が残っている状況であった。
「すごいよ、全てリーダーが予想した通りの展開になった!」
フェミニンがご機嫌だった。
「俺たちから見たら少女は『占い師』か『騎士』のどちらかなんだけど、『市民』からしたら『人狼』の可能性があるから全ての言動が怪しく見えるんだ」
リーダーの言葉にウンウンと頷く。
「リーダーが事前に、俺が『占い師』になってもカミングアウトしないって、行動を縛ったのが効いていたね。少女が追い詰められてカミングアウトしても、『人狼』が苦し紛れに嘘をついているように見えるんだもん」
リーダーも予想以上の効果に驚いている。
「本物の『占い師』を引いたら『騎士』に守ってもらうしかないんだから、腹を括って勝負に出ないとダメなんだ。特に俺は大した理由もなく投票されやすいから、もしも『占い師』を引いていたら、オッサンのことなんか無視してカミングアウトしてただろうな。『人狼』を上手く演じられるヤツなんていないから、簡単に見つけられるだろうし」
フェミニンが振り返る。
「襲撃を阻止されたから、少女が『騎士』でないことは確実だよね? それで本当に『占い師』だった場合、なんで少女は少年を占ったんだろう? マジメも言ってたけど、やっぱり普通にリーダーを占うよね?」
リーダーの推察。
「どうだろうな? 本人じゃないから分からないけど、初日の行動だけ見たら、やっぱり俺くらいしか怪しいのはいなかったんだよ。だから俺を占って『人狼』という当たり前の結果を知るよりも、判らない人の正体を知りたいと思ったのかもしれない。少年はオッサンと喧嘩していて、そのオッサンを俺がコテンパンにしたから、同じ仲間に見えたのかもしれないな。それで少年が『市民』だったから焦ったと思う」
フェミニンが印象を語る。
「僕が言うのもおかしいんだけど、みんな微妙に人狼ゲームが下手なんだよね。リーダーのことを何となく疑ってるけど、論理的に考えられないから確信が持てずに、仲間の可能性もあるからリーダーの言葉を全て真に受けちゃうの。マジメがリーダーのことを疑ってたけど、あの人もヘタクソだよ。まずは役職を持ってる可能性のある少女を守らないといけないのに、リーダーをやっつけることしか頭にないんだもん」
リーダーが提案する。
「そこでだけど、今夜の襲撃はマジメにしようと思ってるんだ」
フェミニンが驚く。
「え? なんで? そんなことしたらマジメが疑っていたリーダーが『人狼』だって丸分かりだよ。リーダー以外は誰も疑われてないんだから」
それが狙いのようだ。
「君には悪いが、今回は俺が生き残るための選択なんだ。みんな少しは頭が回るから裏読みはできるんだよ。今回でいえば、俺が疑われてまでマジメを殺すはずがないってな。で、そこから裏の裏を読むかというと、それはしないんだ。アイツら全員が犯罪者だろう? だから自分の命を懸けてまでチームの犠牲になる奴はいないって、自分に置き換えて考えてくれるんだ。犠牲になれない奴に、その精神は理解できないということだ」
フェミニンが尋ねる。
「でも、予想が外れてリーダーに投票する流れになったらどうしよう? 少年とも揉めちゃったし、しつこく狙われるかもしれないよ?」
リーダーが思案する。
「確かにそうだな。俺は運ゲーだって言い続けてアイツらを洗脳し続けるつもりだけど、そう簡単に上手くいくとは限らないわけか」
ふと、そこでリーダーが質問する。
「フェミニンの罪状はなんだ?」
「強盗殺人だけど」
そこでリーダーが長考する。
「俺、フェミニン、少年、お姉さん、地味子、コドモ、……その六人ならいけるかもしれないな」
フェミニンが気になるようだ。
「え? なにが?」
リーダーが説明する。
「今夜の襲撃が成功したらの話だけど、俺は運次第であることを殊更強調するから、フェミニンは昨日の地味子のように企画を提案してほしい。二日連続でゴミみたいな連中を葬ってやっただろう? だから三日目も同じようなクズを攻撃してやるんだ。みんな少なからず快感を得ているだろうから、この中で最も重たい罪を犯したヤツを追放しようって提案したら、反対する者はいないと思う」
そこで注意喚起する。
「問題は切り出すタイミングだな。積極的に提案するのだけは絶対にやめてくれ。フェミニンが積極性を見せると、絶対に勝つ自信があって提案したって思われちゃうからな。できれば地味子かお姉さんが似たような提案をしてくれるといいのだが、流れが来なくても、焦ることはないからな」
フェミニンが了解する。
「僕に任せて」
リーダーが更に注意する。
「俺の予想では少年が追放される流れになる。でも、フェミニンとお姉さんもピンチになるかもしれない。だけど、絶対に少年以外を責めちゃだめだぞ? かといって不自然に擁護する必要もない。俺たちはひたすら少年を追い詰めるんだ。できれば俺は目立たないようにしておきたいんだが、形勢が不利になったら少年を叩きつぶすから、焦らず、じっくり戦おう」
フェミニンが最終確認する。
「さっきからマジメの襲撃が成功する前提で話してるけど、大丈夫かな?」
リーダーの解答。
「ここで少女の襲撃が活きてくるんだ。失敗したけど、それによって『騎士』は少女が『市民』だと確信して、さらに『占い師』の可能性も考えたはずだ。そして、彼女が占ったのが少年で、結果は『市民』だった。少女が追放されたので、『市民』の可能性が高い少年を守ると思う」
そこで念を押す。
「もしも襲撃が阻止されたら作戦中止だ。頼むから、未練は残すなよ? その時は追放される可能性が高いから一人で頑張ってくれ」
フェミニンが肝に銘じる。
「ゲームが下手な人が多いと、予想できないミスをするから、それが怖いんだよね」
リーダーも気を引き締め直す。
「論理性の欠片もなく、勘でしかないのに、自分だけが重要な証拠を手に入れたと思い込む。証明などされていないのに、意見が重なっただけで正しいと信じ込むんだ」
自分に言い聞かせている感じである。
「今回の参加者に人狼ゲームの達人はいないのだから、上級者の行動を読むのではなく、初心者ならではの思考を読み解くことが大事なんだ。経験の浅い人がやりがちな行動やミス、『市民』慣れしていない人の『人狼』の見つけ方など、全ては初心者に合わせた戦い方をしなければならないわけだな。上級者相手なら凡ミスに対して意図的な罠である可能性を疑うけど、初心者なら普通に間違うってことを理解しないといけないんだ」
リーダーがカメラ目線になる。
「明日を乗り越えたら、二人で生き残ることができる。だから一緒に頑張ろう」