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35 一日目 夜の人狼会議

 昼の会議でオッサンが追放された直後の様子。


 投票結果が発表されると市民チームの同時通話は終了するのだが、人狼チームの二人だけはそのまま通話状態が続くのだった。


「ここからは夜の時間だ」


 進行は昼と同じくゲームマスターが行った。


「他のプレイヤーに会話を聞かれる心配はないので、制限時間内に襲撃する相手を決めてもらおう。それじゃあ、またな」


 狼男がいなくなった瞬間、フェミニンが泣きそうな顔で抗議する。


「なんで僕の仲間がリーダーなの!」


 既に負けたかのようであった。


「もう終わった」

「いや、始まったばかりだ」


 リーダーは冷静であった。


「リーダーなんて、明日には死んでるに決まってんじゃん! 言っとくけど、リーダーに投票する流れになったら、僕は助けないからね! リーダーなんか庇ったら、即死するに決まってるもん」


 そこで頭を抱える。


「もう、ヤダよ。明日はリーダーが死ぬでしょ? そうなったら六対一だから……、えっ? そこから五回も連続で倒さないといけないの? そんなの無理だよ」


 リーダーが宥める。


「落ち着け」

「無理です」

「これは勝てる流れだ」

「どこが?」

「もう既に一勝してるじゃないか」

「それは偶々オッサンが『市民』だったからでしょう?」

「本当に偶々だと思うか?」

「え? 違うの?」


 フェミニンの目の色が変わった。


「カードを引く前にオッサンを追放しようっていう提案は、俺が『人狼』のカードを引いた時のための保険だったんだよ。上手く引くことができれば、問答無用で『市民』を追放できるからな。練習試合で初日に追放されることも多かったし、何か手を打ってから本番に臨もうと思って、それで保険を掛けたんだ。誰か一人にでもロジックを見破られたら途中で流れを変えるつもりだったが、みんな俺が信念でオッサンを殺そうとしていると思ってくれたので、いけると判断した」


 フェミニンが大人しくなった。


「もしも俺が『市民』を引いていたら、あんなクソ野郎でも役職を持ってるかもしれないんだから、簡単には死なせなかったさ。必ず再考しようとする人が出てくると思ったから、さとされた振りをして、そこで『人狼』捜しをする流れに持って行く予定だった。実際にマジメがオッサンにチャンスを与えていたし、そういう人がいるって練習を通して知ることが出来たから、予想した上で作戦を実行に移すことができたんだ」


 フェミニンの疑問。


「でも結局はリーダーの言う事を聞いちゃったわけだし、本当に『人狼』を捜す流れにできたのかな?」


 リーダーの解答。


「そこから先はタラレバになるな。自分が投票されず、夜の襲撃も受けず、狙われたとしても『騎士』に守ってもらえるように、ありとあらゆる手を尽くしたと思う。といっても、みんな俺を一番に追放したがるから、今回『人狼』を引けたのは運が良かった、それだけだ。ただし、俺より上手く『人狼』を熟せる奴はいないと思うから、二人まとめて尻尾を出させる自信はあるけどさ」


 フェミニンが不安だ。


「でも、リーダーは今も疑われたままだよね? 何を引いてもすぐ死んじゃうんだもん。明日リーダーが追放されたら、僕はどうしたらいいの? さっきも言ったけど、リーダーに投票する流れになったら、僕もみんなに合わせるからね」


 リーダーの解答。


「悪いが、明日は一言も喋るつもりはない。初日だけじゃなく、二日目も投票先をコントロールしたら、マジメ以外も疑問に思うだろうからな。自分が疑われたら全力で否定するけど、自分からは仕掛けないようにする。だからフェミニン、明日は君に懸かってるぞ?」


 フェミニンが緊張する。


「え? どうしたらいいんだろう?」


 リーダーがアドバイスする。


「大事なのは、強引に誘導しないことだ。時間はたっぷりあるんだから、三、四時間くらい話し合いが進まなくたって構わない。とにかく落ち着いて、誰かが投票先の絞り込みをするまで待つんだ。忘れちゃならないのは、俺たち以外は全員が『市民』だってことだぞ? そいつらを疑ったら、『人狼』だって疑われちゃうんだよ。アイツらに区別なんかつかないんだから」


 フェミニンが両方の手に握りこぶしを作って、カメラに向かって、ウンウンと頷くのだった。


「頑張るよ、明日を乗り越えたら大きいもんね。僕の予想だけど、きっと明日の会議は少女が中心になると思うんだ。ほら、オッサンが最後に少女の癖を見抜いたでしょう? あれは本当だと思う。だって僕も気になったもん。おそらくだけど、僕以外にも気がついた人がいるんじゃないかな? 彼女は『占い師』か『騎士』だと思うよ」


 リーダーが思いつく。


「じゃあ、今夜の襲撃は少女にしようか」

「ダメだよ」


 速攻で却下された。


「僕でも思いつくんだから『騎士』も気がつくよ」


 リーダーには別の考えがあるようだ。


「役職持ちの可能性が高いならアタックしておきたい。二分の一の確率で『騎士』ならラッキーだし、もしも阻止されても、それなりに収穫がある。成功すれば『騎士』は少女が『市民』だと知るわけだから、少女を庇う行動に出るだろう? そうなったら一人だけ浮く可能性もあるし、正体を炙り出す作戦として無駄になることはない。少女に関しては、公然と疑っても問題のない状況になったら、俺が一気に追い込むから、どっちにしろ明日の昼には殺せる。だからチャレンジさせてくれ」


 フェミニンに異論はないようである。


「いいよ」

「信頼してくれて、ありがとう」


 リーダーがカメラ目線で語り掛ける。


「確かに俺は疑われやすいし、明日の投票で死ぬ可能性もある。だけど、簡単に見捨てようとするなよ。疑われた瞬間、すぐに乗っかるのは止めた方がいい。俺は疑ってきた奴を反対に追い込むこともできるし、だから俺を疑うと、俺もお前に反論しなければならなくなる。アイツらに論理的な話なんてできないんだから、簡単に尻馬に乗るな」


 そこで優しい目をする。


「お互い、一人になろうとするのは止そう。人数が少なくなれば少なくなるほど、俺たちの二票は重くなる。絶対にバラバラにならない二票は、誰が残ろうとも、絶対に打ち負かすことができない二票になるからな。……俺は一人では戦えない。だから二人で生き残るんだ」


 フェミニンがカメラに向かって力強く頷くのだった。


「約束」

「約束」


 そこで二人はカメラに向かってグータッチするのであった。

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