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34 ホームレス殺害事件
八十歳の小林武徳(仮名)は物静かな性格をしており、争い事を好まないので、決して他人に迷惑を掛けるような人ではなかった。
十五歳で奉公に出て、様々な仕事をしながらも、五十年以上、限界まで仕事を精一杯してきた人でもある。
路上生活者となってからも、空き缶拾いで命を繋いで、苦しい生活の中でも、猫に食事を分け与える優しさを忘れない人でもあった。
同じ路上生活者が子供から石を投げられては、身を挺して守り、痛みに耐えながらも、猫のために空き缶を拾いに行くのだった。
「助けてください」
何度か警察に足を運んだものの、対応してもらうことができずに、頭部に致命傷を受けて亡くなったのだった。
殺害現場が防犯カメラのない場所だったということもあり、目撃者もいないことから、犯人逮捕には至らず、二十年経った現在も未解決のままであった。
唯一の手掛かりは、被害者の相談記録に記載された、メガネを掛けた男の子、それだけであった。