33 四日目 昼の投票
リーダーとフェミニンと地味子の三人が席に着いたのは投票時間の三十分前だった。不安な表情のまま時間が経過して、それから遅れること二十分、ようやくコドモが期限ギリギリで姿を見せたのだった。そして、そのコドモが口火を切る。
「市民チームが勝つ確率はゼロに等しい。でも、まだ勝てる可能性は残っている。それには地味子さんの協力が必要になる。なぜなら『人狼』はリーダーとフェミニン、その二人のコンビだから」
地味子が首を捻る。
「それは私が否定したんだけど」
「否定した理由は?」
「わざわざ疑いが濃くなる人を襲撃しないって」
「まさに、それが二人の狙いだったの」
断言したが、憶測なので、地味子が納得していない感じで問い掛ける。
「私が『市民』だっていうのは当たってるんだけど、それは私を味方につけるためだよね? 私が投票先を変えても、おそらく同数になるから、引き分けにしかならないよ?」
コドモが説得を続ける。
「『人狼』が半分も残っているということは、本来なら負けなんだから、引き分けでいいの。それ以上を望める状況じゃないんだから」
地味子がスッキリしない顔をしたまま黙っているのを見て、リーダーが会話に参加する。
「ハッキリ言おうか? 俺らからしたら、自分が疑われた途端に喋り出して、それで自分は『市民』だって言って、他の者を『人狼』呼ばわりしたわけだろう? これって隠れ『人狼』の行動パターンそのものなんだよ。俺たちは確かに人狼ゲームの初心者なんだけど、賞金が懸かってるから一通りは調べてきたし、何よりお前が思ってるほど、俺たちはそこまでバカじゃないんだ」
そこで顰め面をする。
「といっても、地味子がいなかったら俺かフェミニンが追放される流れだったと思うから、偉そうなことはいえないけどな。どうせ地味子が『リーダーに投票しましょう』とか言い出したら、お前も便乗してたんだろ。それだけで勝てたんだもんな」
フェミニンが唖然とする。
「紙一重だったんだ」
地味子が思い出す。
「練習試合でも『人狼』を引くと喋らなくなる人が多かったですからね」
タイムリミットが迫る中、コドモが最後の訴えを起こす。
「私が『人狼』なら、わざわざ『人狼』が二人も残ってるなんて言わない。濡れ衣を着せるなら、どちらか一人に絞らないと勝てないんだから」
それには頷く地味子であった。
「確かに、言われてみれば、その通りですね」
リーダーの叱責が飛ぶ。
「おいっ! 今までそれで騙され続けてきたんじゃないのか」
コドモが尚も説得を続ける。
「地味子さん、リーダーは『人狼』だから」
当の地味子は二人の間で揺れている感じであった。
「私たち二人でリーダーに投票しよう」
コドモがターゲットを一人に絞ったようだ。
「結局は俺なんだよな」
リーダーの声を無視して、コドモがお願いする。
「後はフェミニンに判断を任せる」
「え? 僕?」
いきなり呼ばれたので驚くのだった。
「三人でリーダーに投票すれば、君も『人狼』だから襲撃に成功すれば二分の一の確率で賞金を独り占めできる。もちろん、私たち二人のどちらが『騎士』か見抜かないといけないんだけど。それでもセカンド・バトルよりはマシだと思う」
最後の最後でフェミニンにまでリーダーへの投票を呼び掛けたところで、追放会議が終了した。
* * *
運命の瞬間である。
「それでは投票してもらおう」
結果はコドモが三票、リーダーが一票だった。
「四日目の追放者はコドモで決まりだ」