32 四日目 昼の追放会議
四回目の追放会議に顔を揃えたのはリーダー、フェミニン、地味子、コドモの四人だが、元々表情の変化に乏しいメンバーなので目立った反応はほとんど見られなかった。
「誰も喋らないか」
会議が始まってから様子見していたが、無言の状態が続いたので、リーダーが仕方なくといった感じで口を開いたのだった。
「まずは状況を整理しよう。この中に『人狼』がまだ二人も生き残っていた場合、市民チームと同数のため、通常ならばその時点で人狼チームの勝利なのだが、特殊ルールでは全滅が条件なので会議を続けなければならない。もしも投票が二対二で割れたら、新しいメンバーを追加してセカンド・バトルをするというのが、遊び版との違いだ」
可能性について説明している。
「そして『人狼』が一人だった場合、今日この会議で市民チームがしっかりと追放しないと、ほぼ負けが決まってしまう。残った二人の中に『騎士』がいなければ助けることができないので、翌日には一対一になるから、そこで市民チームの負けが決まってしまう」
冷静に分析する。
「二対二の場合は……、非常に……、厳しい……。ほとんど勝ち目は残って……、いや、完敗だ。人狼チームは投票先を揃えてくるだろうし、そうなると市民チームはドローを狙うしかないから、セカンド・バトルに懸けるしかないんだ。ただし――」
そこで声を張った。
「二対二の状況というのは、本来なら負けてゲームが終わってたわけで、この特殊ルールは市民チームだけが得をするルールだから、そこは素直に助かったと思うべきかもしれない。あくまで二匹が残っていた場合に限るけどさ」
分析を続ける。
「三対一の場合は……、一見すると有利に見えるけど、もしも外したら終わりだから、ほぼ絶体絶命の状況にあるんだ。なにか決め手があればいいんだけど、この人が絶対に『人狼』だっていう証拠はないだろう? だから運ゲーなんだよ」
そこで勝手に話し合いを放棄してしまった。そこで無言の状況が続くと思われたが、フェミニンが話し合いに参加する。
「確かに運だけのギャンブルかもしれないけど、それは市民チームに限った話だよね? だって『人狼』はここにいる四人の正体を知ってるんだもん。『市民』は間違うことがあっても、『人狼』は間違えないんだよ? それだけでも相当ヤバいよ」
そのことはリーダーも承知しているようだ。しかし、そこで首を傾げて疑問を口にする。
「二対二の状況ってどうなんだろうな? 人狼チームとしては負けのない状況だから余裕がありそうに思ってたけど、そこまでいったら勝ち切りたいって思ってるかもな。だって引き分け再試合と、勝利して百億じゃ、天国と地獄だろう? そう考えると、どっかで仕掛けてくることも考えられるわけだ」
フェミニンがウンウンと頷きながら会話を受ける。
「じゃあ、三対一の状況はどうかっていうと、やっぱり一人だけ正体を知っている『人狼』は有利だよね。だって、誰かが誰かを怪しんだりしたら、それに便乗すればいいだけなんだもん。だから自分から動く必要はないの。そういう意味では、喋らない人が『人狼』なのかな……」
自分のことを言われていると思ったのか、慌てて地味子が話し合いに参加する。
「あの、考えたんですけど、『人狼』が二人の場合は、もう、どうすることもできません。でも、一人の場合は、まだ勝てると思うんです」
手元のメモを見ながら続ける。
「確かに運に左右されるゲームなんですけど、それでも論理的に考えられる部分はあると思うんです。大事なのは、不確定要素を混ぜることなく、確定した事実だけを元に論理を組み立てることだと思います」
リーダーが頷きながら話を聞いている。
「確定しているのは、二つしかありません。それは襲撃を受けた二人、マジメさんとお姉さん、その二人は確実に『市民』だったということです」
そこで喉が渇いたのか、水を飲む。
「そして、ここからが大事なんですけど、なぜ『人狼』はその二人を襲ったかということなんです。そこで思い出さなければならないのが昼間の発言です。マジメさんはリーダーを疑って、その日の夜に襲撃されました」
横から口を挟む者はいなかった。
「そしてお姉さんですが、みんなで罪の告白をした時、少年以外では、強盗殺人をしたフェミニンさんにだけ強い反応を示していたんです。だから、もしもお姉さんが生き残っていたら、フェミニンさんが追放される流れになった可能性が高いというわけです」
まとめに入る。
「なぜ『人狼』がマジメさんとお姉さんを襲撃したかというと、翌日の会議で投票する流れを作りたかったからだと思います。お姉さんはリーダー寄りの人だったので、リーダーにとっては生き残ってほしかった人です。ですが、フェミニンさんにとっては脅威となります。お姉さんがいなくなると自分が疑われますからね。そう考えると、投票をリーダーとフェミニンさんの流れに持っていきたいと考える『人狼』は、私かコドモさんしかいません。そして私ではないので、『人狼』はコドモさんということになります」
言った直後は否定されるのを怖がっていたが、反論がないので安心した顔を見せるのだった。
「私は『市民』」
初めて聞く声に、会議の場が静まり返った。
「喋れたの?」
フェミニンが声の主でもあるコドモに問い掛けたが、質問には答えなかった。
「私たちの負け」
無表情なだけでなく、言い方もぶっきら棒だった。
「負けって、どういうこと?」
フェミニンの質問に答える。
「一人でも『人狼』が死んでれば良かったんだけど、二人も生き残ってたら勝てないよ」
リーダーが尋ねる。
「この中に『人狼』が二人もいるって、その根拠は?」
当然の疑問である。
「私は狙い通り最終日まで生き残ることに成功したけど、それは負けない方法であって、勝つための方法ではなかった。実際に最後の最後までは生き残ることができなかったから」
質問にまともに答えるつもりはないようだ。
「でも、まだ逆転の目はある」
表情が死んでるので、ハッタリかどうか分からなかった。
「ただし、まだ教えない」
そこで勝手に席を外して休憩を取るのだった。