3 旅費
その日、市民Bはイライラしていた。といっても普段から常にムシャクシャしているので、いつもと変わらない一日であった。
イライラの原因は、インターネットに湧いているハエみたいな連中にある。事件でもないのに、まるで加害者だと勝手に決めつける、あのゴミグズどものことだ。
死んだのはテメェのせいなのに、親が週刊誌の取材で小銭を稼ぎ、そこから在りもしない事件の犯人捜しが始まったのだ。
仲間が離れ、遊ぶこともできず、親戚までもが犯人扱いするものだから、市民Bにとっては我慢の限界にきていた。
そんな時、スマホに狼男が現れたのだった。
「百億くれんの?」
「ゲームに勝ったらな」
見るからに怪しい話なのに、普通に会話をするのだった。
「百億くれるっていう証拠は?」
警戒心は見られないが、疑ってはいるようである。
「なんで俺が証拠を出さないといけないんだ?」
「ゲームに参加してほしいんでしょ?」
「お前、勘違いしてないか?」
怒られたことがないせいか、軽く凄まれただけで委縮するのだった。
「お前の代わりはいくらでもいるからな。ゲームで殺し合って、生き残るだけで百億くれてやるって言ってんだ。こんなオイシイ話、二度はないぞ? あん? どうすんだ? やるのか? やらないのか?」
弱い者には強く出られるが、強い者には何も言えないというのが、市民Bの特徴だ。
「やります」
「最初からそう言えば良かったんだよ」
そこで狼男からゲームが開催される日時と集合場所が告げられた。
「待って、金がない」
「嘘をつくな」
「ほんとだって」
「飛行機に乗れって言ってるわけじゃないんだぞ?」
「だから電車賃もないんだって」
狼男が思案する。
「だったら宝くじ売り場に行ってスクラッチを買って来いよ。旅費の分だけ当たるようにしてやるからよ」
市民Bは意味が解らないといった感じだ。
「言っとくけど、お前、調子乗って買い増しするんじゃねぇぞ? 言う事を聞かなかったら、殺すからな?」
翌日、早速スクラッチくじを買いに行ったのだが、狼男が言っていた通り、キッチリ当たりを引き当てたのだった。